⼼の⽪膚はどこまでも伸びる︖ スライムを使った新しい「からだの錯覚」を発⾒︕

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名古屋市⽴⼤学⼤学院芸術⼯学研究科の⼩鷹研理 准教授、佐藤優太郎(博⼠後期課程)、今井健⼈(博⼠前期課程)は、鏡の奥に隠れた⼿の⽪膚を引っ張るのと同時に、鏡像となるスライムを引き伸ばすことによって、⼿の⽪膚が平均して約 30cm も引き伸ばされる感覚が得られることを発⾒しました。この成果は、近未来のメタバース空間において躍動する「⾝体変形可能なアバター」の設計において、新たな⽔脈をもたらすものです。

【背景】

近年注⽬を集めるメタバース等の仮想空間において、体験者は好みのアバターに⾝を包み、現実よりもさらに空間的⾃由度の⾼い『第⼆の⾝体』を⾃在に操ることが期待されます。とりわけ、アバターの指や⼿⾜を、⾝体のリアリティーを保ったままに変形させることができれば、仮想空間の操作性を⼤幅に⾼めることが可能です。他⽅で、⼼理的に無理のある変形は、⾝体への⾃⼰同⼀性を維持することが困難となり、⾝体コミュニケーションに基づく親密性・社会性の構築に⽀障を来たす恐れがあります。そのため、私たちの⾝体各部が⼼理的にどの程度の変形に耐え得るのかを実験科学的に明らかにすることは⾮常に重要な課題となります。

図1 未来の仮想空間の身体変形の例

現在の錯覚研究の主流は、視覚刺激と触覚刺激とを同期呈⽰することによって、「⾻格としての⾝体」を構成する⾝体各部のイメージを⼼理的に改変しようとするものです。これまでに、⼿⾜や指の⼀部が「伸びる」⽅向の錯覚実験は複数報告されている⼀⽅で、⽪膚に特化した変形錯覚の報告はみられませんでした。また、⼿指の実験に限ると、これまでに報告された錯覚による⼼理的な移動量・変形量は総じて 5〜10cm 程度でした。これは、⼿の⼼理的な空間変移が、⼿の中⼼から 30cm 付近の内側(「⾝体近傍空間」)で⽣じるという錯覚理論と符合するものでもありました。

【研究の成果】

図2 スライムハンド錯覚(左)と公開実験の結果(右)

⼩鷹研理研究室の研究グループは、2021 年に、⼿の⽪膚部分をつまんで引っ張ると同時に、鏡像となるスライムを同⽅向に引き伸ばすことによって、⽪膚が極端に伸張した感覚が得られる錯覚「スライムハンド錯覚」を発表し、同年の『Best Illusion of the Year Contest』に⼊賞を果たしました。 その後、2022 年 2 ⽉に東京新宿で実施した⼤規模な公開実験では、体験者の96%(95 ⼈中 91 ⼈)が、⽪膚の伸⻑感覚を強⼒に感じるという結果を得ました。(図2右)

 

引き続き学内で実施した被験者実験において、⼿の甲の(⼩指側)側⾯部に対してスライムハンド錯覚を適⽤したところ、86%の実験参加者が、⽪膚の伸びる感覚を強⼒に感じた(-3 から+3 の 7 段階評価で+2 以上)⼀⽅で、⼿そのものの移動感覚については、77%の実験参加者が強く否定しました(同、-2 以下)。さらに、⾝体各部の主観的な位置変化を計測したところ、40cm のスライムの変形移動に対して、平均して約 29cm に及ぶ⽪膚先端部の最⼤移動量が記録された⼀⽅で、⼩指の位置の移動量は平均して 11cm 程度に留まりました(図 3 上)。対照実験として、スライムを変形させずにスライドさせる条件(⾮変形移動)では、⽪膚の伸びる感覚を強⼒に感じた実験参加者は 27%に留まり、⽪膚と⼩指の位置変化量にも差が⾒られませんでした(図 3 下)。

 以上の結果は、スライムハンド錯覚が、⾃覚レベルで、「⾻格の移動なき⽪膚の変形」に基づく錯覚イメージを作り出すことを明らかにするとともに、無意識のレベルでも、⽪膚の変形量が、⼿全体(⾻格)の移動量を凌駕することを⽰すものです。

図3 スライムハンド錯覚による爪位置と皮膚位置の変化量の違い

【研究のポイント】

・「⾻格としての⾝体」ではなく、「⽪膚としての⾝体」に選択的に作⽤する、従来とは異なる特徴を有する錯覚を新たに発⾒し、⼼理実験によって効果を実証した。

・スライムハンド錯覚によって⽣じる、⼼理的な⽪膚位置の最⼤移動変形量(スライム変形 40cmに対して平均約 29cm)が、従来観測されてきた(⾻格としての)⼿指の移動変形量を遥かに凌駕するものであることを⽰した。

・実験結果は、「⽪膚としての⾝体」に対する空間制約が、「⾻格としての⾝体」に対する空間制約と⽐較して、⼤きく緩和されていることを⽰唆する。

【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

従来の錯覚研究は、⾃分の⾝体を「⾻格としての⾝体」と捉えることが⼀般的であり、錯覚の空間限界は、⾻格⾝体の可塑性の限界にそのまま対応していました(⼿指の場合、30cm 周辺)。本研究は、「⽪膚としての⾝体」が、「⾻格としての⾝体」よりも、より遠⽅までに伸び縮みできることを強く⽰唆するものであり、錯覚研究において従来想定されていた空間的な制約を、新たに⾒直すことを迫る極めて画期的な知⾒です。また、メタバース空間における、体験者の分⾝であるアバターの⾝体を、従来考えられていたものよりも、さらに⼤胆に変形できる可能性を⽰すものでもあり、今後の産業的応⽤の基礎的知⾒を与えるものと考えます。

⼩鷹研究室は、今回の実験結果を踏まえて、錯覚によって⽣じる「⾻格としての⾝体」と「⽪膚としての⾝体」との間で測定される空間指標の差異を詳細に同定していくことで、⼈間の知覚の可塑性(柔らかさ)を、より深く追求していきます。

【研究助成】

本研究は、科学研究費補助⾦(基盤 C)「⾝体変形感の誘導における反転投射の解明」(代表︓⼩鷹研理)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2130(代表︓佐藤優太郎)の⽀援を受けて実施されました。

【論⽂タイトル】

The slime hand illusion: Nonproprioceptive ownership distortion specific to the skin region

【著者】

⼩鷹研理(名古屋市⽴⼤学⼤学院芸術⼯学研究科・准教授)

佐藤優太郎(名古屋市⽴⼤学⼤学院芸術⼯学研究科・博⼠後期課程2年)

今井健⼈(名古屋市⽴⼤学⼤学院芸術⼯学研究科・博⼠前期課程2年)

【掲載学術誌】

学術誌名︓「i-Perception」(アイ・パーセプション)

DOI 番号︓https://doi.org/10.1177/20416695221137731

詳細▶︎https://www.nagoya-cu.ac.jp/press-news/11221000/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

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