努力は報われるが、選ばれる時代へ
ーー 若い療法士にアドバイスはありますか?
河野 努力が報われる時代になってきましたし、セラピストが選ばれるようになってきたと思います。一生懸命頑張っているセラピストとやらないセラピストが同じようにあつかわれたのが、変わってきていますので頑張ってもらいたいですね。
これからは厳しい時代になってきます。大分は地域包括ケアシステムが進んできて、市町村が「あそこの施設は良いけど、あそこはよくない」とか「あそこの施設のあのリハ職は良いけど、あのリハ職はつまらん」とセラピストが選ばれるようになりました。
私は良い事だと思いますが、こわいですね。患者さんたちも最近は、よくみているなと思います。
難しいのは専門職として学術研鑽をしない方の育成を考えるときですね。頑張る人は何も言わなくてもやりますし、いくら背中を押してもやらない人はやらないんです。
育成する為のその労力を意欲の高い人たちに使った方が全体的に考えると将来のために良いのかなと思います。
ーー 毎年1万人理学療法士が増加している訳ですから、厳しい時代になると思います。
河野 私は淘汰されても仕方がないのではないかと思っています。今の理学療法士は選ばれるようになったからこそ研鑽しなければならない。そうすると大卒や大学院にステップアップしなければならないとか、英語は必須になるとか思いますよね。
ーー 理学療法士の起業はどう思いますか?
河野 僕は人をみる事は好きですが、雇った方を食べさせなければいけないこと等、細かな採算まで考えるのは僕には向いていないと思いますね。雇われの方が楽です。小規模介護老人保健施設でも管理側をやるつもりがないですし。臨床の方が楽しいですね。
また、地域社会のニーズとしてなにがあり、経済効果も含めて効果的にするにはどのようにすれば良いのかという薬事法に注意しての企業としてのマネージメントも求められていると思います。
ーー 病院では技師長ですが、人事のマネージメントについては何に注意していますか?
河野 当院は結構自由にさせていますね。同じ人間を作りたくなくて、適材適所もありますし。昔は背中をみせて育成と思っていましたが、それについてくるのは多くないですよね。最近は物事をはっきり伝えるようにしていますね。
悩んでいるのがわかると聞くようにしたり指導したりしてます。実習生もそうですが、面白いと感じると勝手に勉強するようになりますよね。
ーー 最近、実習では色々と問題がありますが。
河野 私はよく実習のやり方を変えていて、最近ではレポート形式はやめてノートにしました。レポート記録等、何もないと話すだけになってしまうので「これはなんでこう考えたの?」「こう考えたからです」「なんか裏付けあるの?」「この文献にこう書いてました」「じゃあ良いよ」とかやりとりをしてました。
原因としては学生がこう考えてくるから、それが間違いでなければ実際にやらせてみますね。それで変わらなかったら違うんじゃないかと気付かせたり。以前は身体機能について原因追求や推論させる事が多かったのですが、ここ1年は生活機能を分析を考えさせるようにしています。
その人が退院してどんな生活をするのか、その生活に必要な動作をどんどん細かく分析させて、今の身体機能と合わせると何が必要なのかというところでそのノートを使います。でもそのノートを使うとどこが増えたかわからなくなったりするんです。
このノートは学生が提案してきたんですけど、ある子は書き足したり付箋を貼るようになったり。今の子は凄いなと思いましたね。僕にはノートを使うとかその発想はないなと思いまして。今までレポートだった事からなかなか切り替えられないといいますか。
今の子はゆとり教育とか言われてますが、そのおかげが発想の転換が素晴らしいなと思います。そのかわりに格差は極端にあるとも感じます。
ーー ゆとり教育が出来たから、世界で活躍できる浅田真央選手や香川真治選手などの活躍する方がでてきたということもありますよね。
河野 ゆとり教育から、また元に戻そうとしていますが、全部を同じように合わせるという事自体が違うと思います。人によって変えてもいいのではないのかなと思っています。なぜひとつに拘るのかなと。治療と同じで学生さんも生活歴やレベルも違いますからね。
出会いが人生を変えてくれる
ーー 先生のような良いバイザーに会うと人生が変わりますね。
河野 前回実習で来た学生は今違うところの長期実習で苦しんでいるみたいです。患者さんをみようとするんですけど、バイザーは身体機能ばかりみるようで。私はその学生さんに、今は患者さんに合わせるんじゃなくて、あなたの生きる道はバイザーに合わせる事(笑)だと伝えました。
「今の制度ではバイザーに合わせるしかないのかも。反面教師として学んでは」と伝えながら実習における学生さんの辛さを感じました。このレジメは学生さんの考え?バイザーの考え?と思う事がありますよね。バイザーや先生の考えに合わないとなんでそう考えるのと言われて、学生は大変だなと感じます。
知識は国家試験前で十分ではないし、臨床を学ぶ場ですので、その方の生活や楽しみを達成するための分析や目標設定、現状の心身機能やADLとの整合性などをしっかりと学ばせる場ではないかと思っています。
ーー 実習地を選べるようにすべきだと思います。誰に出会うかで本当に人生が変わると思います。
河野 私も出会いだと思います。私もあの先生たちに合わなかったら今頃適当にやっていたかもしれませんよね。
ーー 先生のオススメの本や映画はありますか?
河野 「廃用身」という医師の書いた書籍ですね。麻痺になると重さが邪魔になるから、切断すれば軽くなって動きやすくなるという本なんですが、本当にこれはあるのかなと衝撃を受けた1冊です。一つの手段としてはありえるなと思いながら考えさせられました。
映画は「マイウェイ」ですね。最後の最後まで努力すれば結果だけでなくプロセスを認めてくれるところに感じるところがありましたね。あとはブルースリーが好きで今でも「燃えよドラゴン」はみますね。やる気を出したい時に戦闘シーンをみるとスイッチが入ります(笑)
ーー 好きな場所とかはありますか?
河野 海が好きですね。海でぼけーっとして真夏にビールを飲むのが好きです。夏の青空と海をみるとリラックスできますね。なかなかリラックスできなくて。沖縄の海は感動しましたね。
でもきれいな海ならどこの海でもいいんです。森林浴に行くとか前は阿蘇山に行ってました。なんか阿蘇山をみると男の山という感じで雄大になってきて。
ーー 河野先生にとってプロフェッショナルとはなんですか?
河野 常に学び、前に前に進みながら歩む事を止めないことですね。
*目次
【第二回】理学療法士の起業はどう思う?
【第三回】大分県理学療法士協会の加入率はなぜ90%を超えるのか?
河野礼治先生
【所有資格】
理学療法士
【経歴】
高知リハビリテーション学院 卒業
新別府病院 技師長
公益社団法人大分県理学療法士協会 会長
公益社団法人大分県作業療法士協会 理事