歩行で1km、自転車で2kmの移動を許容できることが健康長寿のカギ

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歩⾏や⾃転⾞による活動的移動は、⽇常の活動量の⼤きな割合を占めていますが、加齢によって⼤きく減少します。これまでに本研究グループは、歩⾏や⾃転⾞移動の許容距離(歩⾏や⾃転⾞で移動しようと思える距離)という新たな視点を提案し、これらが短い⼈ほど、外出頻度や社会交流が少なく抑うつ傾向が強い等、要介護化や早死につながりやすい特徴があることを報告しています。そこで今回、7000 ⼈以上の⾼齢者を対象にした 8 年間の追跡研究により、歩⾏や⾃転⾞移動の許容距離と要介護化および死亡との関連性を検証しました。

その結果、歩⾏移動の許容距離が 500 m 以内の⼈は、1 km より⻑距離の許容者に⽐べて要介護化リスクが⾼いことが分かりました。同様に、⾃転⾞移動の許容距離が 1 km 以内の⼈は、2 km より⻑距離の許容者に⽐べて要介護化リスクが⾼くなっていました。死亡リスクについても、歩⾏移動の許容距離が 300 m 以内、または、⾃転⾞移動の許容距離が 1 km 以内の場合に、リスクが⾼まりました。⼀⽅、歩⾏で 1 km 以内または⾃転⾞で 2 km 以内の移動の許容者では、より⻑距離の許容者と⽐べても、統計的な要介護化および死亡リスクの増加は⾒られませんでした。

本研究から、⾼齢者において歩⾏や⾃転⾞移動の許容距離が短いことは、要介護化や死亡のリスクになり得ることが明らかになりました。普段の⽣活の中で、歩⾏や⾃転⾞で移動する意欲を⾼く持つことが、健康⻑寿を保つ上で重要であるといえます。

 

研究代表者

筑波⼤学 体育系

⼤藏 倫博 教授

⼭⼝県⽴⼤学 社会福祉学部

⾓⽥ 憲治 准教授

 

研究の背景

⾝体活動は、⼼⾝の健康維持に不可⽋ですが、⾼齢期では特に、歩⾏や⾃転⾞(活動的移動)に基づく活動量が⼤幅に減少することが知られています。つまり、⾼齢者の⾝体活動量を維持するためには、活動的移動の促進が重要です。

活動的移動は、⾞や電⾞などの機械的な移動⼿段を利⽤できない⾼齢者にとっては、⽇常⽣活(買い物、通院、友⼈宅の訪問等)を⽀える重要な移動⼿段です。また、運転免許証の返納、公共交通機関の廃線など、さまざまな理由によって、将来的に、移動⼿段を変える必要が⽣じるかもしれません。このような場合、活動的移動の許容距離(どの位の距離であれば歩⾏や⾃転⾞で移動しようと思うか)の⻑短が、ライフラインへのアクセスを左右する可能性があります。

近年、本研究グループは、⾼齢者における活動的移動の許容距離を調査し、これが短い⼈は、外出頻度や社会交流が少ない、抑うつ傾向が強い等の、要介護化や早死につながりやすい特徴を有することを報告しました。しかし、この研究は、特定の時点での調査に基づく横断的検討にとどまっており、直接的に要介護化や死亡との関連性を⻑期にわたって縦断的に調査するには⾄っていませんでした。そこで、

本研究では、⾼齢者を対象にした 8 年間の追跡研究により、歩⾏や⾃転⾞移動の許容距離と、要介護化および死亡との関連性を検証しました。

 

研究内容と成果

2013 年に茨城県笠間市で実施した郵送調査において有効回答が得られた⾼齢者 7618 ⼈(平均年齢:74.0 歳、⼥性:51.8%)を対象に、2021 年まで 8 年間にわたり追跡し、要介護化(要介護度 1 以上)と死亡の状況について調査しました。歩⾏移動の許容距離の評価として、「⾏きたい場所(知⼈宅、スーパー、飲⾷店、病院、バス停・駅など)が⾃宅から、どの位の距離であれば、歩いて⾏こうと思いますか(快適な⽇、平坦な道を想定してください)」という問いに対して、「1 km より遠く、1 km 以内、500m 以内、300 m 以内」の 4 カテゴリーで集計しました。⾃転⾞移動の許容距離についても同様に、「2km より遠く、2 km 以内、1 km 以内、500 m 以内、乗れない」の 5 カテゴリーで集計しました。また、活動的移動の許容距離と要介護化および死亡との関連性を検討する際には、年齢、性、学歴、経済状況、独居の有無、ボディマス指標(BMI)、癌既往、脳⾎管疾患既往、⼼疾患既往、関節痛・神経痛既往、⼼理的ストレス度、外出頻度、主な外出⼿段、⼈⼝密度、⼟地傾斜を統計的に調整しました。

分析の結果、要介護化リスクについては、歩⾏移動の許容距離が 500 m 以内(24%のリスク増)や300 m 以内(33%のリスク増)である⼈は、1 km より⻑距離の許容者に⽐べて⾼く、⾃転⾞移動の許容距離が 1 km 以内(39%のリスク増)や 500 m 以内(23%のリスク増)である⼈は、2 km より⻑距離の許容者に⽐べてリスクが⾼いことが分かりました(図1)。死亡リスクについても、歩⾏移動の許容距離が 300 m 以内(21%のリスク増)、⾃転⾞移動の許容距離が 1 km 以内(40%のリスク増)や 500 m 以内(34%のリスク増)の場合、⾼リスクになっていました(図2)。⼀⽅、歩⾏移動で 1 km 以内、⾃転⾞移動で 2 km 以内の許容者は、より⻑距離の許容者と⽐べても、要介護化および死亡について統計的なリスクの増加は⾒られませんでした。

これらのことから、⾼齢者において歩⾏や⾃転⾞移動の許容距離が短いことは、要介護化および死亡のリスクであり、歩⾏で 1 km、⾃転⾞で 2 km の移動を許容できることが、リスクを上げない⽬安となることが分かりました。歩⾏や⾃転⾞移動の許容距離は、⽇々の⽣活の積み重ねによって形成されると考えられます。普段の⽣活の中で、歩⾏や⾃転⾞で移動する意欲を⾼く持つことが、健康寿命を保つ上で重要であるといえます。

 

今後の展開

本研究では、歩⾏移動の許容距離と⾃転⾞移動の許容距離が短いことが、要介護化や死亡の⾼リスクになることを明らかにしました。今後さらに、活動的移動の許容距離の維持・延⻑に貢献する要因について検証する必要があります。

 

参考図

 

図1 歩⾏移動(左図)および⾃転⾞移動(右図)の許容距離と要介護化リスク

歩⾏移動では、500 m 以内や 300 m 以内の許容者は、1 km より⻑距離の許容者と⽐べて要介護化リスクが⾼い。⾃転⾞移動では、1 km 以内や 500 m 以内の許容者は、2 km より⻑距離の許容者と⽐べて要介護化リスクが⾼い。

 

図2 歩⾏移動(左図)および⾃転⾞移動(右図)の許容距離と死亡リスク

歩⾏移動では、300 m 以内の許容者は、1 km より⻑距離の許容者と⽐べて死亡リスクが⾼い。⾃転⾞移動では、1 km 以内や 500 m 以内の許容者は、2 km より⻑距離の許容者と⽐べて死亡リスクが⾼い。

 

研究資⾦

本研究は、若⼿研究 B(代表:⾓⽥憲治、26750348)、公益財団法⼈明治安⽥厚⽣事業団第 37 回若⼿研究者のための健康科学研究助成(代表:⾓⽥憲治)、⽇本スポーツ協会スポーツ医・科学プロジェクト研究(代表:⼤藏倫博)を受けて実施されました。

 

掲載論⽂

【題 名】 Acceptable walking and cycling distances and functional disability and mortality in olderJapanese adults: An 8-year follow-up study

(⽇本⼈⾼齢者における歩⾏・⾃転⾞移動の許容距離と要介護化および死亡との関連:8 年間の追跡研究)

【著者名】 Kenji Tsunoda(⾓⽥憲治)1), Koki Nagata(永⽥康喜)2), Takashi Jindo(神藤隆志)3), YuyaFujii(藤井悠也)4), Yuki Soma(相⾺優樹)5), Naruki Kitano(北濃成樹)4), Tomohiro Okura(⼤藏倫博)3)

1) ⼭⼝県⽴⼤学 社会福祉学部

2) 筑波⼤学⼤学院 ⼈間総合科学学術院

3) 筑波⼤学 体育系

4) 公益財団法⼈ 明治安⽥厚⽣事業団 体⼒医学研究所

5) 弘前⼤学 教育学部

【掲載誌】 Health & Place

【掲載⽇】 2022 年 12 ⽉ 17 ⽇(オンライン先⾏公開)

【DOI】 10.1016/j.healthplace.2022.102952 

 

詳細▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20230112140000.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

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