青年期アスリートに起こりやすいスポーツ障害の発症要因を解明 現場での応用・予防プログラムの作成へ

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発表のポイント

○腰椎の疲労骨折(Bone Stress Injury)は青年期サッカー選手の約25%に生じている。

○腰椎Bone Stress Injuryの「危険因子」として、無症候性の骨髄浮腫、腰椎アライメント不良、未成熟な腰椎、ハムストリングスのタイトネス(筋の硬さ)が関連することを初めて解明した。

○腰椎Bone Stress Injuryの発症要因を明らかにできたことで、予防プログラム作成に貢献することが期待され、さらには青年期のスポーツ選手が自身の身体を意識し、けがを減らすことに繋がる。

概要

早稲田大学スポーツ科学学術院の筒井 俊春(つつい としはる)助教および同学術院の鳥居 俊(とりい すぐる)教授は、腰椎の疲労骨折(Bone Stress Injury)が12〜14歳の青年期サッカー選手の約25%に生じていることを特定し、危険因子には、無症候性の骨髄浮腫、腰椎アライメント(配列)不良、未成熟な腰椎、ハムストリングスのタイトネス(筋の硬さ)が関連することを初めて解明しました。

本研究成果は、『The American Journal of Sports Medicine』(論文名:Risk Factors for Symptomatic Bilateral Lumbar Bone Stress Injury in Adolescent Soccer Players: A Prospective Cohort Study)にて、2023年1月20日(金)にオンライン掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

腰椎分離症※1は骨強度が不十分な青年期アスリートに起こりやすいスポーツ障害とされており、一般人の2~5倍の有病率を示すなど、発症リスクの高い障害に分類されます。また、競技復帰までに時間を要するスポーツ障害に分類されるとも言われており、予防の重要性が唱えられてきました。

腰椎分離症と診断された患者のデータを分析した研究によると、腰椎分離症の患者は大腿四頭筋やハムストリングスなど下肢の筋タイトネスが高く、脊柱のアライメント不良を有しているということが明らかになっていました。しかしながら、上記のような特徴を有する青年期アスリートが、腰椎分離症を発症しやすいのかどうかは不明でした。腰椎分離症や腰椎Bone stress injuryの発見および診断にはMRIやCTなどの画像評価が必須で、病院を受診した選手以外のデータ収集には高いハードルがありました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

私たちは、腰椎分離症の初期症状と考えられる腰椎Bone Stress Injuryを、学内のMRI装置を用いて抽出することを試みました。そして、健常な青年期サッカー選手をリクルートし、腰椎Bone Stress Injuryの発症に関連する要因を、対象者をある一定期間追跡する疫学研究分野の研究手法「前向きコホート研究」によって明らかにすることを目指しました。腰椎Bone Stress Injuryの発症に関わる要因を突き止めることで、腰椎分離症の一次予防に貢献することができると考えました。

図. MRIを用いたBone Stress Injuryの抽出(白矢印は骨髄浮腫を示す)

 

6ヶ月おきに合計2回、1年間の追跡を実施した結果、26.2%の青年期サッカー選手に腰椎Bone Stress Injuryの発症が認められました。また、発症に関連した要因には、無症候性の骨髄浮腫を有していること(オッズ比:4.26)、骨成熟が3段階に分かれる骨成熟ステージのうち、2番目に該当するApophyseal stage※2であること(オッズ比:3.44)、腰椎前弯に対して仙骨が前傾していること(オッズ比:4.07)、ハムストリングスが硬いこと(オッズ比:3.22)が挙げられました。

(3)研究の波及効果や社会的影響

第一に、青年期アスリートの約4分の1が腰椎Bone Stress Injuryを発症していることを、監督やコーチ、アスレティックトレーナーが認識しておく必要があります。また、本研究の結果から、腰椎分離症の予防を目指す上で焦点を当てるべきポイントが明らかになりました。特に修正可能なファクターに着目すると、①過度に仙骨が前傾していないか(腰椎前弯と仙骨前傾の具合が同程度か)、②ハムストリングスのタイトネスがないか、をスポーツ現場で評価・モニタリングすることが重要であると考えています。

(4)今後の課題

本研究では腰椎の椎弓根の両側に生じたBone Stress Injuryの発症要因を明らかにしました。しかしながら、両側同時に発症することは考えにくいため、片側発症の要因を突き止める必要があると考えています。また、本研究の結果をベースに、予防プログラムの作成し、スポーツ現場へ普及させることが急務であると考えます。

(5)研究者からのコメント

筒井:発育途上のアスリートには、この期間にしか発生しないスポーツ障害があります。また、発育途上の期間には身体の発育や取り巻く環境の変化といった、成人とは異なるイベントを多く持ち合わせます。本研究はそのような青年期特有の指標となる項目を数多く考慮した研究でもあります。「子どもをけがから守る」べく、スポーツ医学に携わる者としてこの結果を、成長期アスリート本人だけでなく、取り巻く監督やコーチ、保護者に届けたいです。

鳥居:腰椎分離症はアスリート人生で何度も強い腰痛を起こす火種になるけがで、これを完治させられる段階で見つけ、さらに発生しやすい条件を見つけることが予防につながります。また、成長期は身体が刻々と変化する時期であることに加え、スポーツ活動が盛んになる時期でもあることから、スポーツ障害の予防について考えるべき重要な時期です。身体発育を考慮した予防法の提案により子どもたち自身が自分の身体を意識してけがを減らすことが可能になるでしょう。

(6)用語解説

※1 腰椎分離症

脊椎の一部である椎弓(ついきゅう)と呼ばれる腰椎の後方部分が分離した状態のこと。疲労骨折の一種で、骨が未発達な成長期のスポーツ選手に多発します。野球、サッカー、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、柔道など、身体の前後屈や腰のひねりなどの動作の繰り返しが発症の原因となるケースが多いと言われています。

※2 Apophyseal stage

腰椎の椎体と椎間板との間に存在する二次⾻化核が出現し、骨化が生じているものの、成長軟骨が残存する成熟段階を指す。腰椎の成熟度はしばしば、「Cartilaginous stage」、「Apophyseal stage」、「Epiphyseal stage」に分類される。

(7)論文情報

雑誌名:The American Journal of Sports Medicine

論文名:Risk Factors for Symptomatic Bilateral Lumbar Bone Stress Injury in Adolescent Soccer Players: A Prospective Cohort Study

執筆者名(所属機関名):筒井 俊春(早稲田大学スポーツ科学学術院)、飯塚 哲司(国立スポーツ科学センター)、武井 聖良(東京大学スポーツ先端科学研究拠点)、前道 俊宏(早稲田大学スポーツ科学学術院)、鳥居 俊(早稲田大学スポーツ科学学術院)

掲載日時:2023年1月20日(金)

掲載URL:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/03635465221146289

DOI:10.1177/03635465221146289

 

詳細▶︎https://www.waseda.jp/top/news/87683

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

青年期アスリートに起こりやすいスポーツ障害の発症要因を解明 現場での応用・予防プログラムの作成へ

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