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東日本大震災・大津波被災後の社会的孤立と抑うつ症状との関連が明らかに ―岩手県における東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査縦断解析によ る検討―

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【発表のポイント】

・岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)が実施した東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査(TMM CommCohort Study)における 1 回目の調査(ベースライン調査、2013 年度~2015 年度)および 2 回目の調査(詳細二次調査、2017 年度~2019 年度)の両方に参加した 10,314 人のデータを用いて、東日本大震災・大津波(以下、東日本大震災)による被災経験が社会的孤立の変化と抑うつ症状の関連に及ぼす影響について検討しました。

・新たに社会的孤立状態が認められた方は、社会的孤立状態にない方に比べて、抑うつ症状のある方の割合が有意に高いことがわかりました。また、社会的孤立状態が継続している方のうち東日本大震災による家屋被害を経験した人、および、新たに社会的孤立状態が認められた方のうち東日本大震災による家族の死を経験していない人で抑うつ症状のある方の割合が有意に高いことを明らかにしました。

・我々の縦断的な知見は、震災による家屋被害や家族の死を経験した方だけでなく、そうでない方においても、社会的孤立が新たに認められたり、社会的孤立が継続することが、抑うつのリスクと関連することを示唆しています。本研究は大規模自然災害後の社会的孤立の臨床的重要性を強調し、適切な予防策の必要性を改めて示します。

【概要】

岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM、機構長 佐々木真理)と、IMM 臨床研究・疫学研究部門の事崎由佳講師と丹野高三教授を中心とした研究チームは、岩手県における東日本大震災の被災地域住民のうち、東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査(TMM CommCohort Study)*1 のデータを用いて、過去の災害経験が社会的孤立の変化と抑うつ症状の関連に及ぼす影響について検討し、被災地に住む人々のうち、家屋被害や家族の死を経験した人のみならず、家屋被害や家族の死を経験していない人においても、新たな社会的孤立や継続的な社会的孤立が抑うつのリスクと関連していることを明らかにしました。

本研究成果は、国際科学雑誌 BMC Public Health に 2023 年 6 月 20 日付(オンライン公開)で掲載されました(https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12889-023-16082-z)。

 

【研究の背景】

大規模地震などの自然災害は、被災地における住民の生活環境を一変させ、社会的に孤立しやすい状況が生じやすくなります。社会的孤立とは、社会の中で他人との交流が少なく孤立している状態をいい、抑うつ症状が起こりやすくなることがいくつかの研究で報告されています。しかしながら、震災による家屋被害や家族の死などの被災状況が、その後の社会的孤立と抑うつ症状との関連にどのような影響を及ぼすかは、ほとんど明らかになっていませんでした。

 

【研究の成果】

今回の研究では、IMM が実施した岩手県地域住民コホート調査に参加いただいた方のうち、1 回目の調査(ベースライン調査、2013 年度~2015 年度)および 2 回目の調査(詳細二次調査、2017 年度~2019 年度)の両方に参加し、社会的孤立に関する質問(Lubben Social Network Scale-6, LSNS-6)*2 と抑うつ状態に関する質問(Center forEpidemiological Studies-Depressive Scale, CES-D)*3 に回答した 10,314 人の経時的データを用いて解析を行いました。

2 つの時点における社会的孤立の有無(LSNS-6 の得点が 12 点未満を社会的に孤立していると評価)の変化に従って、参加者を「非社会的孤立群」、「社会的孤立改善群」、「新たな社会的孤立群」、「継続的な社会的孤立群」の 4 つの群に分類しました。また 2回目の調査における CES-D の得点が 16 以上の場合を抑うつ症状ありと定義しました。

4 群を比較検討した結果、新たな社会的孤立群は、非社会的孤立群と比べて、抑うつ症状のオッズ比*4 が有意に高いことがわかりました(図1)。

 

図1 社会的孤立の変化に応じた抑うつ症状のオッズ比

 

継続的な社会的孤立群のうち震災による家屋被害を経験した方で抑うつ症状のオッズ比が最も高いことがわかりました。一方、家屋被害がない方でも抑うつ症状のオッズ比が有意に高いことが認められました(図 2)。

また、新たな社会的孤立群および継続的な社会的孤立群のうち震災による家族の死を経験していない方で抑うつ症状のオッズ比が有意に高いことがわかりました(図3)。

 

図 2 震災による家屋被害と社会的孤立の変化による抑うつ症状の関連

 

図 3 震災による家族の死と社会的孤立の変化による抑うつ症状の関連

 

【まとめと展望】

新たに社会的孤立が認められたり、社会的孤立が継続している方では、震災による家屋被害や家族の死を経験した人のみならず、家屋被害や家族の死を経験していない方においても、抑うつ症状のリスクが高いことを示しました。大規模自然災害のような生命を脅かす出来事を経験した住民の長期的な健康状態を把握することは、家屋被害や家族の死といった被害を受けなかったとしても重要であると考えられます。

 

【参考】

本発表のもととなったコホート調査は、日本医療研究開発機構(AMED)によるゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(東北メディカル・メガバンク計画)のもと、IMM および東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)によって行われています。

 

【用語解説】

*1 東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査(TMM CommCohort Study):

「コホート」とは大規模な人間集団を意味する学術用語です。コホート(大規模な人間集団)を長期間にわたって追跡し、病気の原因等を明らかにする研究のことを「コホート調査(研究)」と言います。

東日本大震災・大津波からの復興支援事業である東北メディカル・メガバンク計画の一環として、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED、理事長 三島良直)の支援の下、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo、機構長 山本雅之)と共に、東日本大震災・大津波に伴う地域住民の健康状態を把握することと、個人の体質を考慮した病気の予防法や治療法を開発することを目的として、岩手県と宮城県の被災地を中心とした地域にお住いの約 86,000 人の方々に参加協力いただいた東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査(TMM CommCohort Study)を、2013 年から継続して実施しています。

 

*2 Lubben social network scale 6(LSNS-6):

社会的孤立を測定する尺度です。12 点未満を社会的に孤立していると評価します。

 

*3 Center for Epidemiological Studies-Depressive Scale(CES-D):

抑うつ症状を測定する尺度です。16 点以上を抑うつ症状があると評価します。

 

*4 オッズ比:

オッズとはある事象が起こる確率と起こらない確率の比のことです。オッズ比は 2 つのオッズの比であり、ある事象の起こりやすさを 2 つの群で比較して示すときの指標です。オッズ比が 1 よりも大きいと事象が起こりやすい、小さいと起こりにくいことを表します。

 

【論文題目】

English Title:

Longitudinal changes in depressive symptoms associated with social isolation after the Great East Japan Earthquake in Iwate Prefecture: findings from the TMM CommCohort study.

Authors:

Yuka Kotozaki, Kozo Tanno, Kotaro Otsuka, Ryohei Sasaki, Makoto Sasaki

Journal Name:

BMC Public Health

日本語タイトル:

岩手県における東日本大震災後の社会的孤立に関連する抑うつ症状の縦断的変化:TMM CommCohort 研究からの知見

著者:

事崎由佳、丹野高三、大塚耕太郎、佐々木亮平、佐々木真理.

詳細▶︎https://www.iwate-med.ac.jp/news/n5-research/23062301-soumu/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

東日本大震災・大津波被災後の社会的孤立と抑うつ症状との関連が明らかに ―岩手県における東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査縦断解析によ る検討―

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