東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座の越智小枝講座担当教授らは、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)との共同研究により、NTT コミュニケーションズのモニターの中から年齢・性別・居住地の分布が全日本人の分布と合致するように選んだ 16,642 名(男性 8,022名、女性 8,620 名)を対象にオンラインアンケート調査を実施し、体重と 1 週間当たりの運動日数につき質問を行いました。
その結果、新型コロナウイルス感染症の第3波~第5波の流行時期であった 2020 年 10 月から 2021 年 10 月の間に、日本人の運動習慣や体重(Body mass index: BMI)が二極化している可能性が示唆されました。
2019 年末より始まった SARS-CoV-2 パンデミック(以下、コロナ禍)は、人々の生活習慣に大きな影響を及ぼしました。自粛生活やテレワークの導入、精神的ストレスなどにより健康な人でも長期的な健康影響を受けた可能性があります。その大きさを知るとともに、どのような人々が影響を受けやすかったかを調査することは、今後再び起こり得る災害に備えるためにも重要です。
本調査では 2020 年 10 月~2021 年 10 月まで計 5 回のアンケート調査を行い、運動習慣(1週間に運動をする日数)、体重の変化を調べました。これはコロナ禍が健常人の生活習慣に及ぼす影響を全国規模で調べた初めての研究です。
本研究の成果は 2023 年 7 月 19 日に PLOS Global Public Health 誌 Volume 3, Issue 7,e0001732. ( https://doi.org/10.1371/journal.pgph.0001732 )に掲載されました。
【ポイント】
・運動習慣では、平均運動日数は増加したにもかかわらず標準偏差(値のばらつき)が増加し、さらに運動習慣が極端に減った人の割合も経時的に増加していることから、運動習慣の二極化が起きたことが示唆されました(次ページ図参照)。
・BMI についても平均値が微増にとどまったにもかかわらず標準偏差が男性は 3.54→3.74 ㎏、女性は 3.49→4.03 ㎏と増加しており、健康への影響が二極化している可能性が示唆されました。
・1年間で新たに過体重(BMI 25 以上)となった方の割合は男性で約 7%、女性で約3%でした。これはコロナ禍が長期的に国民への健康影響を及ぼし得ることを示しています。
・二極化の原因としてコロナ禍の影響を特に受けやすい集団がいる可能性を考えリスク解析を行ったところ、高年齢層の女性、コロナ既感染の男性のリスクが高く、また中年男性は過体重となるリスクが高いことが示されました(次ページ表参照)。
・調査前に運動習慣がある方は運動習慣はむしろ増える傾向にありました。
今回の調査結果から、コロナ禍により一部の集団が特に生活習慣への影響を受けやすかったことが推察されます。
高齢女性は情報源の偏りや社会生活の途絶により特に影響を受けやすかった可能性がありますが、この年齢層の運動不足や過体重は寝たきりリスクにもなります。コロナ禍が空けつつある現在この年齢層の方々の外出や運動を呼び掛ける等、積極的な生活習慣への介入が必要と考えます。
また今後の災害においても、情報弱者・買い物弱者となり得る高齢者には優先的なケアが必要です。男性については、新型コロナに感染した人々への心身のケアが必要である可能性が示されました。また災害前から運動習慣を持つことの重要性が示されました。
※本研究は 独立行政法人経済産業研究所(RIETI) が行った 2020 年度「新型コロナウイルス流行下における心身の健康状態に関する継続調査」のデータを用いています。
メンバー:
・東京慈恵会医科大学 臨床検査医学講座 教授 越智小枝
・独立行政法人 経済産業研究所 橋本由紀、関沢洋一
・東京歯科大学 精神科 准教授 宗未来
・ユナイテッドヘルスコミュニケーション株式会社 橋本空
詳細▶︎http://www.jikei.ac.jp/news/pdf/press_release_20230804.pdf
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。