AIが胸部レントゲン画像から体内年齢を推定 重症化リスクを予測するバイオマーカーの開発に期待

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<ポイント>

・複数施設から収集した健常者の胸部レントゲン画像を使用して、高精度に年齢推定を行う AIモデルを開発

・AIが推定した年齢と実年齢の差が、慢性疾患の罹患と正の相関関係があることが明らかに

・余命予測、慢性疾患の重症度や手術リスクの推定などを行う AI バイオマーカーの開発に期待

<概要>

大阪公立大学大学院 医学研究科放射線診断学・IVR 学の光山 容仁大学院生(博士課程 2 年)、植田 大樹研究員、三木 幸雄教授らの研究グループは、胸部レントゲン画像から体内年齢を推定する AI モデルを開発し、推定年齢から実際の年齢を引いた年齢差とさまざまな疾患の関係を実証しました。

年齢推定を行う AI モデルの開発と訓練、外部テストには、3 施設から収集した 67,099 枚、36,051 人の健常者(既往歴のある人は除外)の胸部レントゲン画像を利用しました。その結果、AI モデルは相関係数 0.95(99%信頼区間:0.95‐0.95)の非常に高い推定精度を示しました。また、AI が年齢推定する際の可視化画像より、下肺野や大動脈弓に加齢を判定する判断根拠がある可能性を示唆しました(図)。

さらに、本 AI モデルを、別の 2 施設から収集した有疾患者 34,197 人の胸部レントゲン画像を用いて、疾患と年齢差をオッズ比により分析。推定年齢が実年齢より高いほど、高血圧や高尿酸血症、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎といった慢性疾患の罹患と正の相関関係があることを明らかにしました。

胸部レントゲン画像は、撮影が簡便で広く利用可能な検査方法です。AI の活用により、バイオマーカーとして余命予測、慢性疾患の重症度推定や手術時の合併症予測への応用が期待されます。

本研究成果は、8 月 17 日(木)午前 7 時 30 分(日本時間)に国際学術誌「The Lancet HealthyLongevity」にオンライン掲載されました。

図:AI による年齢特徴部の可視化

上が胸部レントゲン写真、下が可視化画像(いずれも平均化処理後)。赤が加齢判定ポイント

<研究者からのコメント>

多くの施設に胸部レントゲン画像を提供いただきました。特に、AI モデル開発には健康診断時の胸部レントゲン画像から、既往歴のある人を除外したデータを用いることで、バイオマーカーの定義を満たす精度の高い年齢推定モデルを作成することができました。引き続き AI と医学の可能性を探り、新たな価値を創造してまいります。

光山 容仁大学院生

<研究の背景>

加齢による変化は複雑で、同じ年齢でも日常生活に介助が必要な方もいれば、自立した生活を送ることができる方もいます。こうした生物学的な老化を理解するためにさまざまな加齢のバイオマーカーが提唱されています。

胸部レントゲン画像は最も一般的な検査の一つです。入院時やさまざまな疾患の検査だけでなく、健康診断でも広く用いられています。これまで胸部レントゲン画像を用いて AI で年齢を推定する報告はありますが、複数施設から収集した健常者の胸部レントゲン画像を基にした AI モデルの開発は行われていませんでした。そこで、年齢推定する AI モデルを、健康診断受診者から既往歴のある患者を除外した胸部レントゲン画像を基に開発できれば、加齢の新たなバイオマーカーになるのではと考えました。

<研究の内容>

AI のディープラーニングを用いて、健康診断で撮影された胸部レントゲン画像から年齢を推定するモデルを開発しました。AI モデルの開発と検証を行うため、2008 年から 2021 年までの間に 3 施設から合計 36,051 人、67,099 枚(同一患者データ含む)の健康診断の胸部レントゲン画像を収集しました。収集したデータは、入力に胸部レントゲン画像を、出力に年齢を設定し、AI モデルには両データ間の特徴を学習させました。その結果、実際の年齢と推定年齢との相関係数は、0.95 を示しました。相関係数は通常 0.9 で非常に強い相関とされていますので、本モデルは高い精度を示したと言えます。

さらに、この AI モデルのバイオマーカーとしての有用性を検証するために、疾患と年齢差の関係を分析。検証には、2018 年から 2021 年までの間に別の 2 施設から収集した、疾患のある患者合計 34,197 人、34,197 枚の胸部レントゲン画像を利用しました。この AI モデルを用いた結果、高血圧や高尿酸血症、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、慢性腎不全、心房細動、骨粗鬆症、肝硬変などの、慢性疾患と年齢差の間にそれぞれ関連性がみられました。一方で肺炎や虫垂炎、尿路感染症などの急性疾患では関連性は示されませんでした。

<期待される効果・今後の展開>

生物学的年齢は、医学の中で最も重要な因子の一つです。本研究は、さまざまな慢性疾患と年齢差の関係性を示しました。これは、胸部レントゲン画像に表現される年齢が、生物学的年齢よりも健康情報を正確に反映する可能性を示唆しています。今後この研究を発展させ、慢性疾患の重症化推定、余命の予測、悪性腫瘍の予後の層別化、手術合併症の予測などへ応用することを目指して研究を進めていきます。

<掲載誌情報>

【発表雑誌】

The Lancet Healthy Longevity

【論文名】

Chest radiography as a biomarker of ageing: artificial intelligence-based,multi-institutional model development and validation in Japan

【著者】

Yasuhito Mitsuyama, Toshimasa Matsumoto, Hiroyuki Tatekawa,Shannon L Walston, Tatsuo Kimura, Akira Yamamoto, Toshio Watanabe,Yukio Miki, Daiju Ueda

【DOI】

https://doi.org/10.1016/S2666-7568(23)00133-2

詳細▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-07425.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

AIが胸部レントゲン画像から体内年齢を推定 重症化リスクを予測するバイオマーカーの開発に期待

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