神戸大学大学院保健学研究科博士前期課程学生 (伊丹恒生脳神経外科病院リハビリテーション科理学療法士) の槇原史乃氏、金沢大学融合研究域融合科学系の金居督之准教授、神戸大学大学院保健学研究科の井澤和大准教授らの研究グループは、入院中の亜急性期脳卒中患者を対象に、入院中の疲労感と身体活動量の関連性を明らかにしました。
亜急性期脳卒中患者の入院中の身体活動量は、将来的な身体機能に関連することが報告されており、身体活動量を増加させる方策が必要です。本研究の結果は、入院中の身体活動量増加のための方策として、疲労感を管理することが必要であることを示しました。
この研究成果は、12月30日にTopics in Stroke Rehabilitationに掲載されました。
ポイント
・入院中の亜急性期脳卒中患者の疲労感と身体活動量の関連性を調査した。
・疲労感が強ければ強いほど、座位行動時間が長く、活動量が低いことが分かった。
・入院中の亜急性期脳卒中患者の身体活動量増加のための方策の一つとして、疲労感を管理することが必要であることを示した。
研究の背景
脳卒中患者の約3割から7割が疲労感を有していることが知られています。この疲労感の原因ははっきりと分かっていませんが、高齢であることや、うつや不安などの心理的要因、不眠などが関連していることが報告されています。脳卒中後の疲労感は長年にわたって続き、中にはその影響により仕事や外出などを制限しなければならない人もいます。脳卒中患者にとって疲労感は、生活の質を低下させる危険因子であると言えます。また、脳卒中を発症すると、中枢神経障害などの影響により、身体活動量※1が低下します。亜急性期※2脳卒中患者では、入院中の身体活動量が少ないほど、将来的な歩行能力や日常生活の自立度が低かったことが報告されています。そのため、身体活動量を減少させる因子を特定し、その管理を行うことで身体活動量を増やしていく必要があります。臨床現場では患者の疲労感が強く、リハビリテーションなどの活動を行うことが出来ないといった場面が度々あります。しかし、脳卒中患者の疲労感と身体活動量の関連は明らかになっていませんでした。以上よりこの研究では、入院中の亜急性期脳卒中患者の疲労感と身体活動量の関連を明らかにすることを目的としました。
研究の内容
本研究では、2021年7月から2023年5月に伊丹恒生脳神経外科病院リハビリテーション病棟に入院した、244例の亜急性期脳卒中患者を対象としました。失語症や認知症を有する患者や、入院前に既に要介護状態だった患者、データ欠損例などを除外した85例を最終解析対象者としました。疲労感の評価には、Fatigue Assessment Scale (FAS) を用いました。また、身体活動量の評価には3軸加速度センサー搭載型活動量計 (Active style Pro HJA750-C、オムロン社製)を用いました。私たちは、入院中の疲労感と身体活動量の関連を統計学的に調査しました。
その結果、身体活動量に影響する年齢、脳卒中重症度、バランス機能などの影響を取り除く統計解析を行っても、入院中の疲労感は座位行動※3時間と関連していました。座ったり横になったりして過ごしている時間が長く、身体活動量が少ない人の方が、疲労感が強い傾向にありました。疲労感と軽強度活動時間※4、中高強度活動時間※5には、関連はありませんでした。脳卒中患者は疲労を感じると座ったり、横になったりして休憩することが多いと言われています。しかし、本研究の結果から、入院中の亜急性期脳卒中患者が疲労感を感じ、長時間座ったり、横になったりして休憩したとしても、疲労感が軽減しない可能性が示唆されました。
本研究の新規性は、入院中の亜急性期脳卒中患者において、疲労感が強ければ強いほど、座ったり横になったりして過ごしている時間が長いということを明らかにしたことです。一日の中でそのような時間を減らし、立ったり歩いたりする時間を増やすことは、身体機能の改善や、病気の再発予防の観点からも重要です。本研究の結果は、入院中の座っている時間・横になっている時間を減らすためには、患者の疲労感の強さを医療スタッフが把握し、軽減するよう働きかけることが必要であることを示しました。
図: 疲労感と身体活動量の関連
今後の展開
これらの発見は、入院中の亜急性期脳卒中患者の身体活動量増加を促す方策の一つとして、疲労感を管理することが必要となる可能性を示しました。今後は介入研究を行い、疲労感を管理する方法を検討する必要があります。また、入院中の疲労感を管理することが、身体活動量や将来的な身体機能にどのような影響を与えるかについても検証していきたいと考えています。
用語解説
※1 身体活動
安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動きのこと。歩数計や加速度計を用いて測定する。
※2 亜急性期
急性期の段階を過ぎて病状が安定し、リハビリテーションや退院支援を行う段階にある状態のこと。
※3 座位行動
座っていたり横になっていたりする状態で、エネルギー消費量が1.5メッツ (1メット:安静座位時の酸素摂取量3.5ml/kg/分) 以下の活動のこと。座位行動時間が長すぎる場合、Ⅱ型糖尿病や心臓病の発症率、肥満度が高くなるなどの健康問題が発生することが知られている。
※4 軽強度活動
エネルギー消費量が1.5メッツより高く、3メッツ未満の活動のこと。健常成人では立ち仕事やゆっくりとした歩行などが該当する。
※5 中高強度活動
エネルギー消費量が3メッツから6メッツの活動のこと。健常成人ではウォーキングや自転車走行、水泳などが該当する。
論文情報
タイトル
DOI
10.1080/10749357.2023.2293337
著者
Ayano Makihara1,2, Masashi Kanai, PhD2,3, Kazuhiro P. Izawa, PhD2, Hiroki Kubo, PhD4, Asami Inamoto1, Asami Ogura, PhD2, Ikko Kubo, MSc2, Shinichi Shimada, MD, PhD5
1.Department of Rehabilitation, Itami Kousei Neurosurgical Hospital
2.Graduate School of Health Sciences, Kobe University
3.Institute of Transdisciplinary Sciences for Innovation, Kanazawa University
4.Department of Physical Therapy, Faculty of Nursing and Rehabilitation, Konan Women’s University
5.Department of Neurosurgery, Itami Kousei Neurosurgical Hospital
掲載誌
Topics in Stroke Rehabilitation
詳細▶︎https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20240111-21757/
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。