慢性閉塞性肺疾患患者のイメージ画像(画像生成AI(Image Creator)を用いて生成)
近畿大学病院(大阪府大阪狭山市)リハビリテーション部理学療法士 水澤裕貴、近畿大学医学部リハビリテーション医学教室臨床教授 東本有司、同内科学教室(呼吸器・アレルギー内科部門)主任教授 松本久子を中心とする研究グループは、喫煙等が原因で発症し、正常に呼吸ができなくなる慢性閉塞性肺疾患(COPD)について研究しています。近畿大学病院に通院するCOPD患者に対して吸気筋力と横隔膜の機能評価を行い、呼吸筋力の低下と呼吸筋量の減少が見られる「呼吸サルコペニア」に該当する患者の特徴を明らかにしました。本研究成果は、COPD患者の呼吸サルコペニア※1 の診断や、症状改善の手法確立に役立つ可能性があります。
本件に関する論文が、令和6年(2024年)1月17日(水)に、一般社団法人日本呼吸器学会が発行する国際的な学術誌"Respiratory Investigation(レスピラトリー インベスティゲイション)"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
・COPD患者について、吸気筋力や横隔膜の機能、全身の耐久性、運動時の呼吸などを評価
・呼吸サルコペニアに該当する患者では、運動時の呼吸が非効率的であることが明らかに
・呼吸サルコペニアの診断や、症状改善の手法の確立に役立つ可能性のある研究成果
【本件の背景】
COPDは主に喫煙が原因で発症する疾患で、令和3年(2021年)時点で日本男性の死亡原因の第9位であり、潜在的な患者数は40歳以上の男性の8.6%、およそ530万人と推定されています。COPDでは、タバコの煙により肺の構造が破壊され過膨張となり、重要な呼吸筋である横隔膜が押し下げられるため、正常に呼吸ができなくなります。そのため運動時に息苦しさが増強し、身体活動性が低下することで、サルコペニア(筋力・筋量・身体能力の低下)が生じやすくなります。喫煙以外に、加齢や疾患を原因とする全身性の炎症なども、COPDのサルコペニアのリスクを上げると言われています。
サルコペニアのうち、呼吸器疾患の有無にかかわらず、呼吸筋力の低下と呼吸筋量の減少の両方が生じる「呼吸サルコペニア」が近年注目されています。COPDでは呼吸サルコペニアのリスクも非常に高く、全身の持久力(運動耐容能)の低下に深く関与していると考えられていますが、COPD患者における呼吸サルコペニアの症状の詳細や、持久力、運動時の呼吸等については明らかになっていません。
【本件の内容】
研究グループは、近畿大学病院の呼吸リハビリテーションに通院中のCOPD患者に対して、呼吸筋力と横隔膜機能、運動耐容能、運動時の呼吸を測定し、評価しました。その結果、COPD患者のうち、吸気筋力と横隔膜機能が低下し呼吸サルコペニアに該当する患者は運動耐容能が低く、呼吸数増加に依存して肺が大きく過膨張し、運動時の呼吸が非効率的であることが明らかになりました。
これにより、呼吸筋力と横隔膜機能の測定が、COPD患者の呼吸サルコペニアの診断に役立つことが示唆されました。また、こうした患者に呼吸リハビリテーションを導入することによって、運動耐容能と呼吸方法の改善を図る必要性も明らかになりました。
【論文概要】
掲載誌:Respiratory Investigation(インパクトファクター:3.1@2022)
論文名:
Evaluation of patients with chronic obstructive pulmonary disease by maximal inspiratory pressure and diaphragmatic excursion with ultrasound sonography(COPD患者における最大吸気圧と超音波画像診断装置による横隔膜移動距離の評価)
著者 :
水澤裕貴1,2*、松本久子3、白石匡1、杉谷竜司1、武田優1、野口雅矢1、木村保1、石川朗2、西山理3、東本有司3,4
*責任著者
所属 :
1 近畿大学病院リハビリテーション部、2 神戸大学大学院保健学研究科、3 近畿大学医学部内科学教室(呼吸器・アレルギー内科部門)、4 近畿大学医学部リハビリテーション医学教室
URL :https://doi.org/10.1016/j.resinv.2023.12.013
DOI :10.1016/j.resinv.2023.12.013
【本件の詳細】
研究グループは先行研究において、主要な呼吸筋である横隔膜や呼吸補助筋である胸鎖乳突筋などの動態について、超音波画像診断装置を用いて評価し、COPD患者の呼吸筋動態について明らかにしてきました。本研究では、これらの知見を活用し、呼吸サルコペニアに該当するCOPD患者の運動耐容能や換気様式を明らかにすることを目的としました。
研究グループは、近畿大学病院の呼吸リハビリテーションに通院中のCOPD患者58人を対象として、後方視的観察研究※2 を実施しました。主な測定項目は、呼吸筋力(最大吸気筋力)、超音波画像診断装置により測定した横隔膜移動距離、胸鎖乳突筋の筋厚、心肺運動負荷試験による運動耐容能、および換気様式で、カルテから情報を収集して解析を行いました。
その結果、最大吸気筋力と横隔膜機能(移動距離で評価)の両方が低下している、いわゆる呼吸サルコペニアに該当するCOPD患者では、一方のみが低下している群よりも、特に運動耐容能が低く、動的肺過膨張※3 の程度が強いことから、運動時の換気様式が非効率的であることが明らかになりました。COPD患者では、加齢に加え低栄養や低活動によりサルコペニアが生じるリスクが健常高齢者よりも高くなります。今回の研究によって、COPD患者におけるサルコペニアの影響が呼吸筋にも波及し、一部の患者では吸気筋力の低下と呼吸筋機能の低下が起きていることが示唆されました。さらに、吸気筋力と呼吸筋機能の低下しているCOPD患者では、運動耐容能や運動時の呼吸様式が非効率的になっていることから、呼吸リハビリテーションの導入により運動耐容能改善と呼吸様式の是正を図る必要性が考えられます。
【用語解説】
※1 呼吸サルコペニア:呼吸器疾患の有無にかかわらず、呼吸筋力の低下と呼吸筋量の減少の両方が生じる病態。息切れ、呼吸困難などの症状が見られる。
※2 後方視的観察研究:過去に行われた診療のカルテ等を匿名化して用いる研究。
※3 動的肺過膨張:COPD患者において、一定以上の運動を行うと呼吸回数が増加し、その結果うまく息を吐き切ることができず、肺内の残気量が増加すること。
詳細▶︎https://newscast.jp/news/9354909
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。