糖尿病患者と虚血性心疾患の特徴
糖尿病患者は虚血性心疾患(IHD)を合併するリスクが高く、その特徴として以下の点が挙げられます:
1. 無痛性心筋虚血:糖尿病患者は痛みを感じにくく、無痛性の心筋虚血が多くみられます。
2. 多枝病変:冠動脈の複数の枝に病変が及ぶことが多い。
3. びまん性病変:冠動脈全体にプラークが蓄積し、細くなる。
4. 高度石灰化:長年にわたりプラークが蓄積され、硬くなる。
これらの特徴により、カテーテル治療(PCI)だけでは不十分なケースが多く、理学療法が重要となります。
糖尿病合併症としての虚血性心疾患に対する理学療法
糖尿病の有無にかかわらず、虚血性心疾患の発症や合併に対しては、心臓リハビリテーションの原則に従って進めることが重要です。急性期から在宅期までの標準的なリハビリテーションは以下のように進められます:
1. 急性期(フェーズ1):ICUでの入院期からリハビリ室での運動療法に移行。
2. 運動療法の進行:運動療法とともに、服薬・食事・禁煙・疾病管理教育が並行して進められます。
3. 在宅期:退院後も運動療法を継続し、冠危険因子の是正に努めます。
虚血性心疾患を急性に発症した場合、不安定狭心症や心筋梗塞で入院した場合は、急性冠症候群(ACS)の離床プログラムに従います。治療が落ち着くと、慢性冠動脈疾患として包括的なリハビリテーションに進みます。
急性冠症候群(ACS)に対するリハビリテーション
ACSで入院した直後の急性期には、血行再建と血行動態の安定を目指した治療が実施されます。安静臥床が長引くと筋力低下や運動耐容能の低下を招くため、離床プログラムを開始します。これには以下の基準が含まれます:
1. CKデータの安定:採血データが安定していること。
2. 血圧・心拍数の安定:治療後の合併症がないこと。
3.血流再建の程度確認:TIMI分類が1などを確認する
4. 発熱:炎症反応が改善傾向。
5.不整脈の確認:心室不整脈の頻発がない。
6.貧血がない:Hb:8g/dl以上
慢性冠動脈疾患に対するリハビリテーション
慢性冠動脈疾患に対しては、運動療法に加えて、栄養指導や心理カウンセリング、冠危険因子の管理を含む包括的なプログラムが推奨されています。運動療法の原則は以下の通りです:
1. 運動頻度:週5日以上、1日30分から60分の中から高強度の有酸素運動。
2. リスク評価:冠動脈の狭窄病変や治療の成功度を評価し、運動処方のリスクを確認。
3. 心筋酸素の供給と需要のバランス:運動療法や生活指導においてバランスを崩さないよう進める。
リスク評価と運動処方
運動療法を行う前に、以下のリスク評価を実施します:
1. 冠動脈の病変評価:現時点での冠動脈の病変を評価し、症状の大元となっている責任病変を特定します。
2. 治療の成功度確認:治療が正しく成功しているか確認し、TIMI分類を用いて血流再建の程度を評価。
3. 症状の確認:胸痛や息切れ、動悸などの症状の有無を確認。
4. 心電図検査:標準の12誘導心電図検査の結果を確認し、リスクを評価。
TIMI分類
TIMI分類は、血流再建の程度を評価するために用いられる重要な指標です。治療後の冠動脈の血流状態を評価するために使用され、以下の4つのグレードに分かれます:
1. グレード0:完全閉塞で再灌流がない状態。
2. グレード1:部分灌流で明らかな造影遅延があり、抹消まで造影されない。
3.グレード2:部分灌流で造影が遅延しながらも抹消まで到達する。
4. グレード3:完全灌流で、抹消までしっかり造影される。
治療後のTIMI分類を確認することで、血流再建がどの程度行われているかを評価し、運動療法のリスクを適切に管理することができます。
まとめ
糖尿病患者は虚血性心疾患を合併するリスクが高く、その特徴や治療の複雑さから理学療法の役割は非常に重要です。無痛性心筋虚血や多枝病変など、糖尿病患者特有のリスクを理解し、心臓リハビリテーションの原則に従って包括的なアプローチを行うことが求められます。また、TIMI分類を用いたリスク評価を行い、適切な運動処方を行うことで、患者の生活の質を向上させることができます。理学療法士として、これらの知識と技術を駆使し、患者の健康維持と治療効果の最大化に努めていきましょう。
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