半月板変性(*1)断裂は半月板機能の低下をもたらし、変形性膝関節症(*2)の進行に関与していると考えられていますが、現在のところ確立した有効な治療法はありません。
群馬大学大学院医学系研究科整形外科学分野(筑田博隆教授)の研究チームは、ラットの半月板に対する体外衝撃波(*3)の治療効果が確認された先行研究を基に、人を対象とした半月板変性断裂に対する体外衝撃波治療の効果を調査しました。
その結果、体外衝撃波は治療後 1 年において、MRI T2 マッピング(*4)での T2 緩和時間(半月板変性の指標や損傷治癒の指標となる)の改善と、疼痛を緩和する効果が確認されました。
本研究成果は、 2024 年 8 月 5 日(月)に国際医学雑誌 『 Knee Surgery, SportsTraumatology, Arthroscopy』に掲載されました。
1.本件のポイント
・確立した治療法のない半月板変性断裂において、体外衝撃波による治療効果が確認された。
・体外衝撃波は治療後 1 年において、MRI での T2 緩和時間の減少と、疼痛の緩和を示した。
2.本件の概要
成果:
半月板は衝撃吸収などの重要な役割を担っており、変形性膝関節症の発症や進行を予防するためには、半月板の変性や損傷の予防と治療が不可欠です。半月板変性断裂は、加齢に伴って変性が生じた半月板に発生する断裂であり、若年者のスポーツによる断裂とは異なり、治療効果が得られにくいとされています。このため、一般的には関節鏡視下半月板切除術が行われますが、この手術では半月板機能を完全に保つことが難しく、術後に関節軟骨の減少を引き起こすことが知られています。そのため、半月板変性断裂による機能損失を防ぐ新たな治療法が求められています。
研究チームは、ラットの半月板を用いた先行研究で、体外衝撃波治療が効果を示すことを確認しており、この知見を基に、人を対象とした体外衝撃波治療の半月板変性断裂に対する効果を調査する無作為化臨床試験を行いました。本試験では 29 名を対象に、治療群と未治療群に無作為に分けて調査を実施し、衝撃波治療を行うことで、治療後 1 年で半月板変性の指標や治癒の指標である MRI T2 マッピングで測定した T2 緩和時間の減少と、疼痛の緩和効果が確認されました。
新規性:
体外衝撃波治療は、筋肉や腱膜に対する組織修復効果や疼痛緩和効果が知られています。また、我々のラットを用いた先行研究では、体外衝撃波が半月板に対して治療効果を示すことが確認されました。しかしながら、人において変性半月板に対する衝撃波治療の効果は依然として不明でした。研究チームは、人を対象とした変性半月板に対する衝撃波治療の臨床試験を行い、その有効性の一助となる結果を世界に先駆けて示しました。
本研究の成果は、変性半月板に対する新たな治療法の確立に向けた重要なステップとなることが期待されます。
3.研究の成果発表等
掲載雑誌 :
Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy
国際的に評価されている、欧州 膝学会 発 行の膝関節 疾 患 やスポーツ外傷 、関節鏡 に関する代表的国際医学雑誌 。
タイトル:
Extracorporeal shockwave therapy for degenerative meniscal tears results in a decreased T2 relaxation time and pain relief: An exploratory randomized clinical trial
DOI: 10.1002/ksa.12384
URL: https://doi.org/10.1002/ksa.12384
責任著者 :
橋本章吾(HASHIMOTO, Shogo)
研究責任者 :
筑田博隆(CHIKUDA, Hirotaka)
所属:
群馬大学大学院医学系研究科整形外科学
4.今後の展開
今回の臨床試験では、MRI 画像上での改善を示唆する所見と疼痛の緩和効果が確認されましたが、同時に調査した患者立脚型評価(*5)では有意な改善効果は認められませんでした。本試験は比較的少数の患者を対象とした探索的研究であったため、今後はより多くの患者を対象とした臨床試験を行い、治療効果をさらに明確にすることで、体外衝撃波治療が変性半月板の治療法の一つとなることが期待されます。
用語解説
*1 半月板変性
半月板は膝関節を構成する大腿骨と脛骨の間に存在し、衝撃を吸収する重要な役割を担っています。半月板の機能低下が生じると膝の機能が損なわれます。半月板の本来持つ機能が低下する退行性変化が生じた結果が変性です。
*2 変形性膝関節症
膝関節の軟骨がすり減った結果生じる疼痛などの歩きづらさにより、日常生活に悪影響を与える疾患です。特に女性に多く、世界的にも多数の患者さんが罹患しております。
*3 体外衝撃波治療(ESWT:extracorporeal shockwave therapy)
衝撃波治療(しょうげきはちりょう)とは、波の速さが音速を超えるときに発生する圧力波である衝撃波を利用して除痛と組織修復を促す治療法です。整形外科領域においても腱付着部症などに有効な治療法とされています。
*4 T2 マッピング
MRI(磁気共鳴画像)を用いて組織内の水分含有量やその状態を定量的に評価する技術です。特に軟骨や半月板などの組織の変性や損傷を評価する際に有用で、T2 緩和時間の測定により、組織の健康状態や変性の程度を客観的に把握することができます。
*5 患者立脚型評価
患者自身が感じている症状、生活の質、治療の効果、機能的な状態などを評価する方法です。これは、医師や医療者の観察による評価とは異なり、患者が自ら回答するアンケートや質問票を用いることで得られます。
詳細︎▶︎https://www.gunma-u.ac.jp/information/185156
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。