療法士の転職は夏が良い理由!

理学療法士はおむつ宅配便で何を届けているのか【おむつ宅配便|八木大志】

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「おむつ」と聞いて多くの人が連想するのは、介護の現場や病院で使われる消耗品かもしれません。しかし、理学療法士として現場でおむつに関わり続けてきた八木大志さんは、その背後にある「自立支援」という大きなテーマに気づきました。八木さんが運営する「おむつ宅配便」は、単なる物資の配達ではなく、利用者の生活の質を向上させるためのサポートです。

今回のインタビューでは、八木さんがどのような背景からこのサービスを始めたのか、どのような課題に直面してきたのか、そして「おむつ」という存在を通じて八木さんが伝えたいメッセージについて深く掘り下げていきます。理学療法士としての経験が生かされた八木さんのユニークな視点と熱意を、ぜひご覧ください。

 

イマイ
本日は、理学療法士で「おむつ宅配便」というサービスをやられている八木さんに来ていただきました。本日はよろしくお願いいたします。

 

八木さん:
よろしくお願いいたします。

 

イマイ
さっそく「おむつ宅配便」を始めたきっかけを聞きたいところですが、まず、八木さんが理学療法士になられた経緯やきっかけを教えていただけますか?

 

八木さん:
大それた理由はないんですが、6人兄弟で、母が看護師、兄が薬剤師、姉が看護師という家庭環境がありました。親がレールを引いてくれて、母親から「理学療法士という仕事があるよ」と紹介されました。それを調べてみて面白そうだと思い、理学療法士を目指すことにしました。正直なところ、自分の意思というよりは、親が引いてくれたレールに乗ったという感じです。

 

イマイ
では、卒業後、最初のキャリアはどういった職場を選ばれたのですか?

 

八木さん:
新卒ではクリニックを選びました。進路担当の方から「小さい組織のほうが向いているかもしれない」というアドバイスを受け、それに納得してクリニックでのスタートを切りました。

 

イマイ
そのクリニックからすぐに「おむつ宅配便」のサービスを開始されたのですか?

 

八木さん:
転職は何度かしました。1年目はクリニック、2年目は同じ法人のデイサービス、3~4年目は病院母体の訪問リハビリに転職しました。その後、5年目には住宅改修に興味を持ち、建築母体の会社に転職しました。

 

イマイ
その転職先では、理学療法士としての採用ではなかったのですか?

 

八木さん:
そうですね、理学療法士というワードはなかったですが、住宅改修に興味があったので、ドリルを持てることと一級建築士がいることを条件としてその会社に辿り着き、転職しました。

 

イマイ
最初はどのような仕事をされていたのですか?

 

八木さん:
その会社は建築が母体で、福祉用具や有料老人ホームも持っていました。理学療法士としての職はなかったのですが、その中でおむつの給付事業も手がけていて、そこでおむつに関わるようになったのがきっかけです。

 

イマイ
ついに“おむつ”というワードが出てきましたね。私も家族のきっかけで行政がやっているおむつ給付事業のことを知りましたが、行政とは別の仕組みで、会社単位で行っているものもあるんですか?

 

八木さん:
そうですね。日本には1700以上の自治体がありますが、その中の1000ほどが自治体ごとにおむつの給付事業をやっています。しかし、その対象外の方はドラッグストアで購入することになります。私が2年間関わったのは、そうしたおむつ給付事業の一環でした。

 

イマイ
行政の基準から外れる方もいるんですね。具体的にはどのような人が外れるんですか?

 

八木さん:
例えば、要介護3以上で非課税世帯の方など、各自治体で基準が異なります。また、要支援1や非課税ではない方なども基準から外れる場合があります。自治体ごとに異なる条件があって、私がいた会社の例では要介護度3以上の方は月額5000円まで、要介護度4や5の方は月額8000円まで給付されるという形です。

 

イマイ
福祉用具は数多くありますが、なぜ八木さんは“おむつ”に注目されたのでしょうか?

 

八木さん:
住宅改修や福祉用具全般に興味を持っていたのですが、転職先の会社で毎月500人以上の在宅におむつを配ることになり、その際に多くのトラブルに直面しました。例えば、テープ型紙おむつの中にパッドを複数枚重ねて使用することが一般的でしたが、それが動きにくさや皮膚トラブルの原因になっていました。そうした課題を解決するために、理学療法士としての視点で介入しようと決めました。

 

イマイ
理学療法士としてのバックグラウンドがあるからこそ、そうした問題に気づかれたんですね。

 

八木さん:
そうですね。もちろん他の方も問題に気づいているとは思いますが、理学療法士としての視点があったからこそ、動きにくさや姿勢の悪化などに強く関心を持ち、対処するべきだと感じました。

 

イマイ
おむつの使い方による課題は、介護者の都合による部分が大きいのでしょうか?

 

八木さん:
はい、介護者が交換の手間を省くために重ね付けすることもあります。本人側からしても漏れて家族に迷惑をかけるぐらいなら、つけて重ね付けしてほしいという方もいます。また、給付事業で多くのおむつが提供されるため、消費しきれないことがあり、その結果として重ね付けが行われることもあります。

 

イマイ
無知を承知で質問しますが、今はAmazonや楽天などで簡単におむつを購入できる時代ですよね。それでもこうした給付事業のサービスを使う理由は何ですか?

 

八木さん:
給付事業のおむつは、オンラインやドラッグストアで購入するよりも非常に安いんです。入札によって業者が提供するので、8000円分の市販品を買うのと、給付で8000円分のおむつを受け取るのでは、まったく別次元のコストになります。

 

イマイ
そのことは一般の人にはあまり知られていないのでしょうか?

 

八木さん:
そうですね。ケアマネージャーが教えてくれないと、利用者が気づくことはほとんどありません。

 

イマイ
おむつに関する問題に気づかれ、その後「おむつ宅配便」を始められたということですね?

 

八木さん:
はい、2年間給付事業に関わる中で、課題に気づいてもアドバイスをする時間が取れなかったため、思い切って自分でサービスを始め、時間を調整しながら利用者に直接アドバイスを提供することにしました。

 

イマイ
ビジネスとして「おむつ宅配便」を行う場合、給付だけでお金を得ることはできますが、実際の使い方の指導などはどうされていますか?別料金で提供されているのですか?それとも給付の中で付随しているサービスなのでしょうか?

 

八木さん:
私の場合は、おむつの使い方の指導は無料で行っています。その分、他の業者に比べると少しだけ価格を高めに設定していますが、その差額でフォローさせていただいています。

 

イマイ
ただ、八木さんのようなサービスを行っている方が全国にいるわけではないと思います。実際に現場でおむつに関する問題が発生した場合、まず何から着手すべきでしょうか?

 

八木さん:
そうですね、医療・介護従事者も必ずしも適切な使い方を指導してくれるわけではなく、現場によっては重ね付けを推奨してしまうこともあります。ですので、利用者や家族が自分で正しい使い方を学ぶ必要があります。

 

イマイ
重ね付けによってリハビリにも影響が出るということですが、具体的にどういった問題が発生するのでしょうか?

 

八木さん:
例えば、テープ型紙おむつにパッドを何枚も重ねて入れると、動きが制限されることがあります。男性の場合であれば、前側にパッドを重ねると股間部分がモコモコになり、骨盤が後傾しやすくなります。また、股の下側にパッドを重ねることで足が広がりやすくなり、歩行がしづらくなることもあります。さらに、車椅子に座っていると姿勢が崩れやすくなります。また、皮膚トラブルの原因にもなりやすく、摩擦や湿潤環境で皮膚が荒れることがあります。

 

イマイ
つまり、リハビリで姿勢不良や機能障害が見られる場合、その原因の一つとして「おむつ」の問題も考えられるということですね?

 

八木さん:
はい、その通りです。おむつは最もデリケートな部分に直接触れるものですので、理学療法士の仕事の一環として、環境整備の一つにおむつも含まれるべきだと思います。ポジショニングで姿勢を整える際、おむつの存在が姿勢に影響を与えている場合もあります。クッションや車椅子の調整だけでなく、おむつも姿勢に影響を与える要因として考える必要があります。

*療法士が業務でおむつ交換をすべきと推奨するものではありません。

イマイ
八木さんが実際に訪問して指導されたケースで、おむつの使い方を改善することで姿勢が変わった例もあるのですか?

 

八木さん:
はい、多くのケースでビフォーアフターを見てきました。重ね付けをしている状態から、パンツ型紙おむつとパッドのみの使用に変更しただけで、姿勢が大きく改善したケースもあります。影響が全くないとは言えないですね。

 

イマイ
お話を伺って、おむつが姿勢やリハビリに与える影響に気づいた場合、理学療法士としてすぐにおむつの交換をするのは難しい現場もあると思いますが、どう対処すべきでしょうか?

 

八木さん:
確かに、現場の状況によってはすぐにおむつの交換ができないことも多いと思います。まずは、看護師や介護士に相談して、交換の方法や改善点について共有するのが良いでしょう。私は療法士の皆さんに業務的におむつ交換をしないといけないと全く思っていませんが、適切な使い方を理解しておくことは重要です。特に在宅では、理学療法士が最後の支援者として訪問することも多く、その場で対応できる知識が必要です。

 

イマイ
現場で働く療法士の方々が、こうした問題に気づくためにはどのように経験を積むべきでしょうか?

 

八木さん:
おむつ交換の技術は一朝一夕で身につくものではありません。長い時間をかけて学んでいく必要があります。病院や施設で働いている方は、看護師や介護士と協力して、業務内でおむつ交換を経験する機会を作ることが大切です。もし業務内でできない場合は、業務外でも練習することが必要かもしれません。

 

イマイ
リハビリと介護の業務の境界線がある中で、その壁を超えるためにできる活動はありますか?

 

八木さん:
リハビリと介護は確かに異なる業務ですが、理学療法士がスキルとしておむつ交換を身につけておくことは重要だと思います。例えば17-18時の訪問リハの介入で、リハ終了後に利用者さんが便や尿を排泄したとします。つまり療法士がその日の最後の支援者となります。次の介入は翌日の9時。排泄物をそのままにしていれば失禁関連皮膚炎という皮膚トラブルになる可能性もあります。ですので、スキルとして持っておくことが重要だと思います。

 

イマイ
おむつ交換の技術を身につけることは、やはり簡単なことではないですよね。

 

八木さん:
そうですね、最初は私も甘く見ていました。「数をこなせば慣れるだろう」と思っていましたが、実際にはおむつ交換歴8年以上経った今でも難しいと感じることがあります。例えば、背臥位から側臥位に体位を変えた瞬間に排尿が始まってしまうこともあります。こういったトラブルは経験を積まないと予測できないものです。ですので、やはり経験を積むことが非常に大切ですね。

 

イマイ
経験を積むためにはどのような方法があるでしょうか?例えば講習会などはあるのでしょうか?

 

八木さん:
おむつに関する講習会は全国で開催されていますので、そうした講習会に参加するのも良い方法だと思います。しかし、最も効果的なのは現場で実際におむつ交換を経験することです。所属する職場に相談し、少しでもおむつ交換の経験を積みたいと伝えてみるのも一つの手ですね。 

 

イマイ
八木さんのキャリアの中で、ネット上にある情報なのですが、MED Japanのプレゼンで「大阪市旭区の千林商店街のトイレ清掃」から始められたという話があります。これはおむつに関わる活動の一環だったのでしょうか?

 

八木さん:
この話はおむつに関連して始めた活動です。おむつを使用している方々が外出先でトイレを利用する際、トイレ環境が整っていないことに気づいたのがきっかけです。例えば、公衆トイレでおむつを交換する際には、ズボンや靴も脱がなければならないため、汚れた床に足をつけなければならないことがあります。こういった環境が整っていないと、せっかくおむつで安心して生活している方でも外出を控えてしまいます。そこで、トイレの美化活動を通じて、少しでも快適な排泄環境を提供しようと考えたのです。

イマイ
外出する際のトイレ環境という視点は、実際におむつを使用している人でないと気づきにくいものですね。

 

八木さん:
そうですね。おむつを履いている人の立場に立たないと、こうした問題には気づきにくいです。私自身もおむつのことをもっと理解するために、実際に自分でおむつを履いて生活してみたことがあります。一番長い時期で1年間ずっと履き続けたこともあります。こうした体験を通じて、おむつのトラブルや課題に気づくことができました。

 

イマイ
そこまでおむつにこだわるようになった理由や、強い使命感がある背景には何か特別なエピソードがあったのでしょうか?

 

八木さん:
ある勉強会で「気づいたものが責任者」という言葉を聞いたことが大きなきっかけでした。おむつの問題に気づいたからには、私がその責任者として取り組むべきだと感じました。

 

イマイ
そのタイミングはまさに運命だったという感じですね。

 

八木さん:
そうですね。使命感を感じたというよりも、その言葉が響いてしまいました。

 

イマイ
これまでお話を伺い、おむつを取り巻く社会課題は非常に多いと思いました。現在もさまざまな課題が残っている中で、来年の大阪・関西万博で「未来おむつコレクション」というおむつのファッションショーを開催する予定だと聞きました。これはどのような課題を解決するために始まったものなのでしょうか?

 

八木さん:
ありがとうございます。日本福祉医療ファッション協会の代表である平林が、パリコレやHCR(国際福祉機器展)でユニバーサルデザインのファッションショーを手がけた際に、おむつを履いている方々から「もっと選択肢のあるおむつが欲しい」という声が上がったことが背景にあります。私自身はおむつの販売業者として専門的な道を歩んでいましたが、平林さんと意気投合し、万博でファッションショーを行うことになりました。

 

イマイ
ファッションとおむつというのは一見異なる分野のように思えますが、どういった意味があるのでしょうか?

 

八木さん:
社会課題は、正論だけで解決できるものではありません。そこには、面白いストーリーやインパクトが必要です。おむつの正しい使い方や重ね付けが良くないという話をしても、なかなか広がりませんが、ファッションショーというフックを使うことで、多くの人に関心を持ってもらい、課題を伝えることができます。万博を通じて、多くの人々におむつの問題を知ってもらいたいと思っています。

 

イマイ
ファッションショーという形でおむつに関心を持ってもらうというのは、非常にユニークなアプローチですね。大阪・関西万博の「未来おむつコレクション」は、6月24日に行われると聞いていますが、どうやって参加することができるのでしょうか?

 

八木さん:
参加方法ですが、万博の公式ホームページでチケットの申し込みができる予定です。具体的なタイミングはまだ決まっていませんが、申し込みが開始されたら、公式ホームページでご確認いただければと思います。ファッションショーの参加は先着順ですので、応募開始のタイミングを見逃さないようにしていただけると良いですね。

 

イマイ
最後に今回のテーマとして、八木さんが行う「おむつの宅配便」というサービスは、単におむつを届けるだけではなく、それ以上の何か大切なものを届けるサービスだと感じました。このサービスを通じて、おむつ以外に何をユーザーに届けたいと思っていらっしゃるのでしょうか?

 

八木さん:
ありがとうございます。おむつは、私は自立支援のための福祉用具と捉えています。単なる日用品として使うだけではなく、適切に選定して使うことで、その人がより良い生活を送ることができると考えています。もちろん、商品を届けることは重要ですが、それ以上にその先の生活に目を向けて、理学療法士としての視点から支援を届けたいと思っています。おむつは単なる道具ではなく、福祉用具としてしっかり選定しないと、場合によっては不適切な状況を引き起こす可能性もあります。そうした視点をユーザーに持っていただけると嬉しいです。

 

イマイ
本日は、「おむつ宅配便」を運営されている理学療法士の八木大志さんに、たくさんのお話を伺いました。お時間をいただき、ありがとうございました。

 

八木さん:
こちらこそ、ありがとうございました。

編集後

今回のインタビューを通じて、八木さんが「おむつ宅配便」をただの物資提供サービスにとどめず、利用者の生活の質や自立を支援するための重要な役割を果たしていることを強く感じました。特に印象に残ったのは、「気づいたものが責任者だ」という八木さんの言葉です。私たちも日常の中で気づいたことに対して、どう行動するかが大切だと再認識させられました。

理学療法士としての経験を生かし、おむつという日常的なツールを福祉用具として再定義し、利用者の自立支援に貢献する八木さんの姿勢には、介護や医療に携わる方々だけでなく、私たちすべてが学べる点が多いのではないでしょうか。

この記事を読んで、少しでも八木さんの取り組みが伝わり、介護に対する新たな視点が広がることを願っています。今後も八木さんの活動がどのように発展していくのか、非常に楽しみです。

未来のおむつコレクション(ファッションショー) 

一般社団法人 日本福祉医療ファッション協会:https://wel-fashion.jp/expo2025/

X(旧Twitter): @KeiHirabayashi

平林のHP:https://keihirabayashi.com/ 

理学療法士はおむつ宅配便で何を届けているのか【おむつ宅配便|八木大志】

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