人工膝関節全置換術(TKA)は、高齢化が進む現代において、患者のQOL(生活の質)向上に大きな役割を果たしています。しかし、手術後のリハビリテーションの重要性については、まだ十分に認識されていない側面もあります。本記事では、TKAの術前術後リハを牽引する小池先生に、これまでのキャリアや研究背景、TKAにおける術前・術後リハビリの重要性についてお話を伺いました。理学療法士としての成長や、患者に寄り添う姿勢のヒントを得られる内容となっています。ぜひ最後までご覧ください。
プロフィール
【経歴】
2009 北海道千歳リハビリテーション学院卒業
2009 函館厚生院 函館中央病院
2015 我汝会 えにわ病院
2020 修士過程修了(弘前大学保健学研究科)
2023 博士過程終了(弘前大学保健学研究科)
【所属学会(士会)】 日本運動器理学療法学会 専門会員A
日本人工関節学会
北海道整形災害外科学会
北海道理学療法士会
【委員会等】 北海道理学療法士会 事務部 部員
日本運動器理学療法学会 標準化委員会 委員
【経歴】
2009 北海道千歳リハビリテーション学院卒業
2009 函館厚生院 函館中央病院
2015 我汝会 えにわ病院
2020 修士過程修了(弘前大学保健学研究科)
2023 博士過程終了(弘前大学保健学研究科)
【所属学会(士会)】 日本運動器理学療法学会 専門会員A
日本人工関節学会
北海道整形災害外科学会
北海道理学療法士会
【委員会等】 北海道理学療法士会 事務部 部員
日本運動器理学療法学会 標準化委員会 委員
輪違
POSTの輪違と申します。今日はよろしくお願いします。
小池さん
こちらこそよろしくお願いします。
輪違
今日は小池先生に、主に人工膝関節全置換術のリハビリテーションについてお話を伺いたいのですが、まずその前に、小池先生がどんな方かについて少し深掘りさせていただけたらと思っています。理学療法士になろうと思ったきっかけは何ですか?
小池さん
僕は元々高校二年生までは教師を目指していました。ずっと国公立のクラスにいたのですが、ある授業で先生が理学療法士の話をしたんです。その時、ウソのような話ですが、本当に急に「これになりたい」と思いまして、その授業が終わったらすぐに先生に「どこに行けば理学療法士になれるのか」と尋ねました。そしてその日のうちに親に伝え、理学療法士の道に進むことを決めました。
輪違
学校の先生になりたかったのに、理学療法士という職業を知って、どんな仕事か分からないまま進む決断をしたのですか?
小池さん
その先生が、スポーツやケガ、病気をされた方へのリハビリという仕事について紹介してくれました。僕もサッカーをしていたので、なんとなくトレーナーのようなイメージを持ち、「これ面白そうだな」と直感的に感じて目指しました。
輪違
生まれも育ちもずっと北海道ですか?
小池さん
はい、札幌です。
輪違
札幌の大学に通われたのですか?それとも専門学校ですか?
小池さん
千歳にある3年制の専門学校に通いました。当時はそこで学びました。
輪違
学生生活はどんな感じでしたか?
小池さん
正直、学業として優秀な学生ではありませんでした。遊びも頑張ってました。
輪違
学校を卒業して、最初に就職したのはどちらですか?
小池さん
函館中央病院という総合病院です。
輪違
どんな方々を診ることが多かったのですか?
小池さん
急性期の総合病院で、整形外科が強い病院でした。整形外科の患者さんが多く、病棟も整形外科が三つありました。
輪違
函館中央病院に就職しようと思ったきっかけは何ですか?
小池さん
実習で訪れた際にお声がけいただいたことと、高校時代のサッカー部の先輩がその病院で働いていたことです。その先輩は今でも尊敬していて、同じ職場で働きたいと思ったのが大きな理由です。
輪違
函館中央病院で整形外科を学ばれて、どのくらい勤務されていたのですか?
小池さん
丸6年間勤務しました。
輪違
結構長いですね。その次の職場が「えにわ病院」ですか?
小池さん
はい、そうです。
輪違
なぜ「えにわ病院」に行こうと思ったのですか?
小池さん
函館中央病院で一緒に働いていた高校時代の先輩が「えにわ病院」に転職していたことが一つのきっかけです。ただ、その先輩とは1年しか一緒に働けませんでした。僕が「えにわ病院」に行く頃には、もうその先輩は退職されていました。
輪違
え?高校の先輩ですよね?その先輩と働きたいから行ったのに、すぐ辞められたんですか?
小池さん
そうなんです。その先輩が辞めた後も函館中央病院で6年間頑張りましたが、自分としてはもっと整形外科に特化した環境で働きたいという気持ちが強くなっていました。また、札幌の実家に戻るタイミングや、研究を続けたいという思いもあって、「えにわ病院」への転職を決めました。
輪違
函館時代から研究もされていたんですね。どうして研究をしようと思ったんですか?
小池さん
函館中央病院自体がアカデミックな活動に力を入れている病院だったのが大きいですね。学生時代は不真面目でしたが、そういう環境にいると自然と意識が高まるんです。また、学会や論文などに挑戦することに憧れを感じていました。病院の先生方も非常に教え上手で、そういう環境に身を置けたのが一つのきっかけです。
輪違
環境って大事ですよね。
小池さん
本当にそう思います。
輪違
特に整形外科のような分野では、アカデミックな環境や、学会活動を重視する先生方と働けることが大きな学びになりますよね。
小池さん
その通りです。函館中央病院にいた頃、3年目で学会発表にチャレンジしたのですが、それも先生から「やってみないか?」と声をかけていただいたのがきっかけでした。手取り足取り教えていただきながら進めました。
輪違
「えにわ病院」に移られてから大学院にも通われたそうですね。どうして大学院進学を決めたのですか?
小池さん
函館時代から研究していたTKA(人工膝関節全置換術)への興味が強かったことが一番の理由です。弘前大学の対馬先生のもとで研究手法を学びたいと思い、進学しました。最初は「研究を自力でやっていける力を身につけたい」という思いが強かったです。
輪違
修士から博士までずっと弘前大学で学ばれたんですか?
小池さん
そうです。
輪違
函館から「えにわ病院」に移られたのも、研究や整形外科への特化を目指しての決断だったのですね。
小池さん
はい。えにわ病院は症例数も多く、整形外科に特化した中では全国的にも有名な病院でした。また、リハビリのスタッフもアカデミックな方が多く、厳しい環境だろうとは思いながらも挑戦したいという気持ちが強かったです。
輪違
いわば、サッカーでいうとレアル・マドリードのような病院ということですよね?
小池さん
当時の僕にとってはそういう気持ちでしたね。
輪違
北海道の理学療法士で「えにわ病院」を知らないと言ったら、ちょっと偽物っぽい感じですか?
小池さん
整形外科に携わる方なら、多くの方が知っていると思います。
輪違
中途採用で入職されたということですが、新卒よりも中途で入る方が難しい気がします。どうしてうまく入れたのですか?
小池さん
実は1年前に、学会で発表した際に「えにわ病院」の先生方に質問攻めにされる機会がありました。その後、一緒に飲みに行く機会があり、そこでご縁ができました。一度はお断りしたのですが、翌年、自分からお願いして入職させていただいた形です。
輪違
なかなかない話ですね。
小池さん
本当に珍しいケースだと思います。ただ、あのタイミングで再チャレンジできたことは大きな転機になったと思います。
輪違
「えにわ病院」ではどのようなことを中心に取り組まれているのですか?
小池さん
えにわ病院では病棟が膝、股関節、腰など疾患ごとに分かれています。僕はずっと膝のチームに所属しています。特にTKA(人工膝関節全置換術)を主軸に置き、患者さんの満足度やQOL(生活の質)を高めることを目指しています。
輪違
具体的にはどのような課題に取り組んでいますか?
小池さん
患者さんの術後の痛みや、日常生活での制限をどう改善するかが課題です。例えば、ひざまずく動作など、患者さんが「これだけできればいいのに」と望む動作に注目しています。また、術前からのリハビリ介入が術後の満足度や回復にどのような影響を与えるのかについても研究しています。
輪違
確かに術前のリハビリの重要性は大きいですよね。術前に運動習慣があるかないかで術後のリハビリの進み具合も違う気がします。
小池さん
そう思います。術前に運動習慣をつけることで、術後の回復がスムーズになるケースも多いです。最近は医師と連携して、術前リハビリを実施する取り組みも始めています。
輪違
私もリハビリ特化型デイサービスを運営していますが、そこでも術前のリハビリとして通っている方が何年も運動を続けて、術後も元気に戻ってくるケースがあります。やはり運動習慣があると違いますね。
小池さん
本当にそう思います。地域でそういった運動の場があることは非常に重要だと感じています。
輪違
理学療法士として、技術的な手技にはまり込んでいた時期はありましたか?
小池さん
正直、手技にのめり込んだ時期はあまりありませんでした。総合病院で働いていたので、病態や生活にどう戻していくかを重視してきました。もちろん手技も重要ですが、僕の場合はADL(活動的日常生活)や患者さんの生活全体に目が向いていたと思います。
輪違
僕も以前は手技にこだわっていましたが、結局は患者さんの生活にどうつながるかが大事だと気づきました。
小池さん
そうですね。僕も研修会などで少しずつ手技を学んできましたが、最終的には患者さんの日常生活をどう改善するかが一番重要だと感じています。
輪違
今回セラピスTVで「人工膝関節全置換術のリハビリテーション」についてお話しいただいたそうですが、どんな内容でしたか?
小池さん
患者さんの症例を基に、術前の評価や術後のリハビリにどうつなげるかを解説しました。術前の評価が特に重要で、術後は炎症や痛みで評価が難しくなるので、術前にしっかりと情報を集めることがポイントだと伝えました。
輪違
地域の病院でも参考になりそうな内容ですね。
小池さん
そう思います。難しい症例を紹介するのではなく、よく遭遇するケースや、僕自身の失敗談を含めた内容にしました。リスク管理や改善点についても話しましたので、視聴者の方に役立てていただければと思います。
輪違
ありがとうございます。視聴者の方にもぜひ見ていただきたいですね。今日はお忙しい中、ありがとうございました。
小池さん
こちらこそありがとうございました。
今回のインタビューを通じて、小池先生の理学療法士としてのキャリアが、環境や人との縁によって大きく育まれてきたことが印象的でした。特に、TKA患者に対する術前リハビリの重要性や、日常生活の改善に焦点を当てた研究姿勢は、理学療法士としての新しい視点を与えてくれます。私自身、話を伺いながら「患者目線に立つこと」の重要性を改めて感じました。このインタビューが、読者の皆さんの臨床やキャリア形成の一助となれば幸いです。