目次
- 1. 腰痛治療の新たな選択肢
- 2. McKenzie法のDPに基づくエビデンス
- 3. 2024年の無作為化臨床試験から明らかになった知見
- 4. 考察:生理学的メカニズムと臨床的意義
- 5. 他研究との比較
- 6. 実践ガイド:STEの臨床応用
- 7. 補足情報
- 8. 参考文献
腰痛治療の新たな選択肢
腰痛の原因は多岐にわたりますが、その多くが椎間板の変性や脊柱の柔軟性低下に起因することは周知の事実です。日本国内でも整形外科受診者の上位にランクインし、米国労働省の報告によれば、年間約19万件もの労働離脱の原因が腰痛によるものとされています。
理学療法の現場では、「どの運動が最も機能的か?」「患者が日常生活で継続できるか?」という視点が重要です。こうした観点から、"立ったまま行える"体幹伸展運動が注目されています。
McKenzie法のDPに基づくエビデンス
整形リハビリの分野では、McKenzie法が腰痛へのアプローチとして一定の評価を受けてきました。特に「体幹の伸展方向に動かすことで痛みが軽減する」いわゆるDP(directional preference)がある患者に対して有効であるとされています。
これまでは仰臥位や腹臥位での施行が中心でしたが、立位での「持続的伸展(Sustained Trunk Extension:STE)」と「反復的伸展(Repetitive Trunk Extension:RTE)」の有効性の違いについては、十分なエビデンスがありませんでした。
2024年の無作為化臨床試験から明らかになった知見
2024年に発表されたHarrisonらの研究は、腰痛患者30名を対象に、STEとRTEの効果を無作為化比較試験で評価した重要な研究です。
研究デザイン
- P (対象):18~80歳の腰痛患者、体幹伸展に方向選好がある者
- I (介入):45秒間のSTE×5回(1日5セット)
- C (比較):45秒間に10回RTE×5セット(同上)
- O (評価指標):脊柱伸長(mm)、疼痛(NPRS)、中枢化スコア、Modified Oswestry
主要結果:統計的有意差を伴う臨床効果
STE群は、初回セッション後に4.54 ± 1.61mmの脊柱伸長を記録し、2回目セッションでも3.91 ± 2.06mmと継続的な改善を示しました(RTE群は各2.07 ± 1.32mm、2.39 ± 1.46mm)。この差は統計的に有意であり、初回セッションでは効果量(ES)1.67(p<0.001)、2回目セッションでは効果量0.85(p=0.027)という大きな効果を示しています。
疼痛スコア(NPRS)においても、STE群は5.4 ± 1.6から2.6 ± 2へと大幅に軽減したのに対し、RTE群では変化が小さいことが示されました(p=0.0013、ES=0.23)。
機能(Modified Oswestry)や中枢化については群間差は認められませんでした(p=0.88、p=0.77)。
考察:生理学的メカニズムと臨床的意義
椎間板への影響
著者らは、椎間板(IVD)の水分補充や栄養輸送の促進という生理学的観点からSTEの効果を考察しています。