中央社会保険医療協議会(中医協)総会で18日、令和6年度診療報酬改定の効果を検証する調査結果が報告され、新設された「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」の届出率が調査対象医療機関の9.0%にとどまっていることが明らかになりました。入院・外来医療等の調査・評価分科会の尾形裕也分科会長が調査結果を報告しました。
新加算の届出状況は低調、人員確保が最大の課題
令和6年度改定で新設されたリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算(120点/日)は、急性期医療におけるADL低下防止の取組を推進し、土曜日、日曜日及び祝日に行うリハビリテーションを含むリハビリテーション、栄養管理及び口腔管理について評価するものです。しかし、急性期病棟を有する医療機関1,065施設を対象とした調査では、届出を行った医療機関は96施設(9.0%)と低い水準にとどまりました。
【図表1:リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算に関する状況】 資料:中医協総-3「令和6年度調査結果(速報)概要」43ページ
届出していない理由として最も多かったのは「常勤専従の理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士を2名以上配置(うち1名は専任でも可)することが困難であるため」で56.3%に上りました。続いて「土日祝日における1日あたりの疾患別リハビリテーション料の提供単位数が平日の提供単位数の8割以上を満たさないため」が53.9%で、人員不足と休日におけるリハビリテーション提供体制の整備が大きな課題となっています。
地域包括医療病棟でも同様の問題
新設された地域包括医療病棟におけるリハビリテーション栄養口腔連携加算についても、同様の傾向が見られました。A票の地域包括医療病棟のうち、回答のあった27施設中、算定回数を1回以上と回答した施設は11%にとどまりました。
【図表2:地域包括医療病棟におけるリハビリテーション・栄養・口腔連携加算の状況】 資料:中医協総-3「令和6年度調査結果(速報)概要」66ページ
届出していない理由については「土・日・祝日において平日の8割以上のリハビリテーション提供が困難」という回答が最も多く、休日におけるリハビリテーション提供体制の整備が大きな課題となっています。また、「リハビリテーション経験3年以上+適切な研修を受けた常勤医師の確保が困難」「入棟後3日までに疾患別リハが算定された患者が8割未満」といった回答も多く見られました。
回復期リハ病棟では算定単位数に変化
一方、回復期リハビリテーション病棟入院料については、令和6年度改定で運動期リハビリテーション料の算定単位数の見直し等が行われました。調査結果によると、各入院料において運動期リハビリテーション料を算定する患者については、1日6単位以下の患者が大部分を占めているという結果が示されました。これは改定により、運動器リハビリテーション料について回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者を算定上限緩和対象患者から除外したことの影響と考えられます。
【図表3:回復期リハビリテーション病棟入院料別 運動器リハビリテーション料を算定する患者の実施単位数】 資料:中医協総-3「令和6年度調査結果(速報)概要」86ページ
療養病棟の経腸栄養管理加算も低調
療養病棟入院基本料関連では、令和6年度改定で新設された経腸栄養管理加算(300点/日、7日限度)の算定状況についても報告されました。令和6年8月~10月の3か月で算定ありと回答したのは9.3%となっており、届出が困難な理由としては「栄養サポートチーム加算を届け出ていないため」が最も多く、80%以上を占めました。
【図表4:療養病棟における経腸栄養管理加算の状況】 資料:中医協総-3「令和6年度調査結果(速報)概要」94ページ
委員からの指摘と意見
人員配置要件の厳しさを指摘する声
調査結果を受けて、支払側の太田圭洋委員(日本経済団体連合会)は「前回の改定では機能分化と連携の推進を目的に様々な改定が行われたが、今回の調査結果を見ると令和6年度の診療報酬改定で意図した結果が十分出ていないと思われる結果も多かった」と分析しました。
太田委員はその理由として「人配置を要件とした点数の設定が現行診療報酬には多いということが一因だと思っている。今回結果が示された様々な点数においてそれを算定していないまたできない理由に人員の確保が困難という回答が多数に上っている」と指摘しました。
さらに「現在我が国は生産年齢人口が急激に減少していく局面を迎えており、より効率的に医療を提供していくことを医療現場は求められている。しかし様々改定で意図した効果を求めるために設定される人員配置に関する算定要件が厳しすぎることで現場が対応できない状態は本末転倒である」として、ストラクチャーよりもプロセスやアウトカムを評価する要件を重視していく必要があると提言しました。
太田委員は「今回の改定議論においては求められる医療機能を現場が担っていきやすくなるよう医療機関が対応しやすくなるように入院関連の点数に対して事業側と議論させていただければと思っている」と述べ、より現実的な要件設定の必要性を訴えました。また、「これは前回開庭時の議論でも主張したが病院は今経営的に非常に厳しい状況に置かれている。今後各医療機関が機能分担を進め地域で求められるどの医療機能になるとしてもそれで医療提供を継続していくことができる点数の設定を強く求めていきたい」と経営面での課題も指摘しました。
診療側からの要望
診療側の長島委員は「現在病院診療所問わず医療機関の経営が大変厳しい状況にあることから医療機関の経営悪化との関係を明確にするような調査結果の分析ができるようにすべきである」と述べ、「分科会ではあくまでも技術的指定について分析いただいていることを前提に今後中医協で各論点の議論を深めていきたい」と今後の議論の方向性を示しました。
病院機能に着目した議論の重要性
松本委員は「入院医療については新たな地域医療構想で医療機関としての機能を有する考え方が示されている。この方向性は賛同するものであり診療報酬においても病棟だけではなく病院機能に着目した議論がこれまで以上に重要になる」と述べました。
また、「病院の経営者が収益性を考えることは否定するものではないが、それぞれの病院が地域の実情を十分に念頭において自らの立ち位置を判断した場合最適な組み合わせというものがある程度は考えられる」として、望ましいケアミックスの形や病院単位での役割分担の姿について引き続き分科会で技術的に検討することを要望しました。
働き方改革の二極化を指摘
佐本委員は医療従事者の負担軽減について「医師に関して地域医療体制確保加算の届出がある医療機関は届出がない医療機関より改善したと回答した割合が多い一方悪化したと回答している割合も多い」と指摘しました。
看護職員についても「総合的な勤務状況を見ると改善した・どちらかというと改善したと悪化した・どちらかというと悪化したの割合はどちらも約30%ずつで同数となっている。また病棟看護職員の勤務状況を見ると改善傾向のある病棟がある一方悪化傾向にある病棟もある」として、「調査結果から二極化しているようにも考えられるのでどういった医療機関が改善しているのかなど要因など分析してはいかがか」と提案しました。
地域包括ケア病棟での実績改善も
一方で、地域包括ケア病棟における実績要件については一定の改善が見られました。地域包括ケア病棟入院料1を算定する施設において、自宅等からの緊急患者の受入れについて施設基準(3月で9人以上)を下回る医療機関が7%程度存在するものの、令和4年度の25%と比較して大幅に減少しています。
【図表5:地域包括ケア病棟・病室の自宅等からの緊急患者の受入れ数】 資料:中医協総-3「令和6年度調査結果(速報)概要」77ページ
今後の議論に向けて
今回の調査結果は、診療報酬改定で意図した機能分化と連携の推進において、人員配置要件が大きな障壁となっている実態を浮き彫りにしました。特にリハビリテーション関連の新加算については、人材確保の困難さと休日提供体制の整備が主要な課題として明確化されています。
中医協では今後、各論点について詳細な議論を進めていく予定で、医療現場が実際に対応可能な要件設定のあり方について検討が求められています。