12月19日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、回復期リハビリテーション病棟入院料における「重症患者割合」の算定基準見直しが議論された。厚労省はFIM総得点20点以下の患者を重症基準から除外した場合のシミュレーションを提示。診療側は「一概に改善しないと決めつけるべきではない」と慎重姿勢を示す一方、支払側は「下限設定は妥当」との認識を示した。
「重症4割」基準が招くジレンマ
現行の回復期リハビリテーション病棟入院料1・2では、新規入院患者のうち「重症の患者」(日常生活機能評価10点以上またはFIM総得点55点以下)が4割以上という施設基準が設けられている。

厚労省の分析によると、入院料1・2を算定する病棟では、重症患者割合が基準値(4割)付近に集中している傾向がみられた。この結果について厚労省は、「高い基準を満たすために、本来なら回リハ病棟における集中的なリハビリテーションは難しいような患者の入棟を受け入れなければならない状況になっているのではないか」との問題意識を示した。
実際、重症基準を満たす患者(全体の約38.9%)のうち約1割は、FIM得点20点以下の極めて重度な状態にある。これらの患者は運動・認知項目ともにほぼ全介助の状態であり、FIM利得(改善度)が全体と比べて小さいことがデータで示されている。

FIM20点以下を除外した場合、分布は低い方向へシフト
今回厚労省が示したシミュレーションでは、入棟時FIM20点以下の患者を施設基準上の「重症患者」の範囲から除いた場合の重症患者割合の変化が分析された。

その結果、入院料1・2では現行基準(4割以上)を満たす病棟の割合が92.1%から81.6%に低下。グラフ全体が左(低い方向)にシフトする傾向がみられた。
診療側「改善しないと決めつけるべきでない」
支払側の健康保険組合連合会・松本真人理事は、シミュレーション結果を踏まえ「上と下のグラフを比較すると、重症患者の基準に下限を設定した場合、病院の分布が全体的に左の低い方向に動くことがわかる。これは回復の見込みの小さい患者が病棟にそれなりに入っていたことを意味しており、下限を設定することは妥当」との見解を示した。
一方、診療側の日本医師会・江澤和彦常任理事は、「11月7日の総会で示された箱ひげ図をみると、FIM20点以下の患者であってもFIM利得の平均値はさほど変わらず、FIM利得を一定以上獲得している事例も多い」と指摘。「一概にFIM運動項目20点以下は改善しないと決めつけて、重症基準の対象外とすることについては慎重に対応すべき」と主張した。
ただし江澤常任理事は、「仮にFIM運動項目20点以下を重症患者から除く場合は、データに示されているとおり、実態に即して重症患者の割合の基準も当然見直すべき」とも付け加え、基準変更時には実績指数の計算対象についても連動した見直しが必要との認識を示した。
まとめ・今後の展望
今回の議論では、回復期リハ病棟における「重症患者4割」基準が、かえって集中的なリハビリテーションが困難な患者の入棟を促している可能性がデータで示された。厚労省は、重症患者の範囲を狭めることで「医療機関が自らの裁量により適応を判断することのできる割合が増える」と説明している。
FIM20点以下の患者への対応と、回リハ病棟本来のアウトカム向上機能をどう両立させるか、引き続き議論が進む見通しだ。
理学療法士としての現場経験を経て、医療・リハビリ分野の報道・編集に携わり、医療メディアを創業。これまでに数百人の医療従事者へのインタビューや記事執筆を行う。厚生労働省の検討会や政策資料を継続的に分析し、医療制度の変化を現場目線でわかりやすく伝える記事を多数制作。
近年は療法士専門の人材紹介・キャリア支援事業を立ち上げ、臨床現場で働く療法士の悩みや課題にも直接向き合いながら、政策・報道・現場支援の三方向から医療・リハビリ業界の発展に取り組んでいる。







