理学療法士を目指したきっかけ
―――先生が理学療法士を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
赤羽根先生:私は、中学の時から柔道をやっていまして、やっていく中で柔道整復師という仕事を知りました。
父親が肉体労働で腰痛・ひざ痛があったので、マッサージや指圧をするのが日常的でした。祖母にマッサージをしたときは、余計に肩が凝るからって言われてやめました(笑)
最初のきっかけは柔道整復師でしたね。父親のように痛みで困っている方を楽にしてあげたいという思いがありました。そこから、ちょっとしたきっかけがあり理学療法士という職業を知ることになるのですが、気が付いたら理学療法士を目指していましたね。
―――どのような学生生活を送られていましたか?
赤羽根先生:学生の頃に出会った、林先生(中部学院大学名誉教授)の授業がわすれられないですね。
それまでに出会った理学療法士の先生とは異色の雰囲気を発していました。おいそれと話しかけることができないオーラをまとっていまして、生徒からの尊敬のまなざしは特に林先生に向けられていましたね。
オーラだけではなく、授業の内容も非常にわかりやすく面白かったです。生徒の中でも話題でしたね。今でも、そのオーラは変わっていません。
3時間勉強。レントゲン2万枚。寝るな。
―――特に林先生から言われて今でも心に残っていることはありますか?
赤羽根先生:最初の職場では、自分の理想とは違った場所に就職しまして、転職を考えていた時に、林先生に相談をしたことがありました。そこで、言われたことは今でも心に残っていますし、実践しています。これがあったから、理学療法士としての基礎が磨かれたなと思います。
その内容ですが、一流の理学療法士になりたいのであれば、「1日3時間は勉強しなさい」、「レントゲンを2万枚見なさい」、「休み時間は絶対に寝るな」とのことでした。言われたのはこの3つで、最初の3年間の間、とにかく忠実に守ってやり続けました。
4年目くらい経ったでしょうか、林先生が私の勤め先に突然入職されました。事前に知ってはいたものの、転職せずに職場に残っていて良かったなと本当に思いました。
それまでは、院内での勉強意欲はあまり高いといえず、正直理学療法のレベルもそこまで高いレベルではなかったと思います。それが、林先生が入社されたことをきっかけに、ガラッと一変しました。
先ほど挙げた3つの課題にプラスして「この症例で論文書いてみて」、「この症例をこれ位の期間で治せるように」など、それから沢山の課題を与えてもらいながら、日々を過ごしていました。
今考えると、20代のうちにベースを作ってしまわないと、30代・40代となったときに、周りに取り残されてしまうように思います。上手く治療が出来るようになるためには20代でのベース作りというのは必要だと思います。自分自身の経験から言うと、20代の時にいろいろ勉強以外にもしたいことがあったのですが、それでも時間を作って論文を読んだり、土日だけでもレントゲンを見続けたりしました。
後は触診する能力ですね。我々セラピストは触診により病態を探求することが重要となります。正常な組織と異常な組織を鑑別できなければなりません。
表層・中間層・深層を見分け、どの層に異常をきたしているか、筋肉であれば筋腹?筋腱移行部?付着部?など、それぞれを触診能力によって詳細な情報を読み取ることが必要になります。触診能力を高めれば、そういった組織の変化もわかるようになります。
触診はセラピストの基本となる技術なので、すごく重要視しています。触診はどの職種よりも療法士が優れているべき技術であると考えています。手で触って体の中がわかる。これは専売特許ではないかと思います。
また、レントゲン写真から軟部組織をイメージして、さらに触診で得られた情報を付加していきます。すると、病態と臨床症状がリンクしていきます。
触診は非常に重要な技術
最近では、超音波画像診断により、詳細に評価していくことは可能となりました。超音波画像診断の進歩によって組織の硬さの程度までわかるようになりました。我々の手から感じ取る情報と、これらを合わせることで、これまで以上のたくさん情報を拾い上げることができます。これが出来ると、治療成績は飛躍的によくなります。
論文から得られる情報というのは、あくまで知識の一つであり、実際の臨床では、得られた情報から病態を組み立てていく能力が重要となります。「科学と技術を融合していく」という林先生の言葉にもあるように、表面から触って体の中がわかる能力。
これは毎日鍛えていかないと養われない能力です。だから私自身も休みの日や患者さんを触ることのない日は、自分の体を触ったり、セミナー講師をするときは受講生の体を触ったりすることで、全く触らない日を作らないように心掛けています。触らないとすぐに感覚が落ちてしまいます(笑)。
実際、土日に触診することが少なかった場合は、月曜日の手の感覚が全然違います。触診の能力がしっかりできていれば、何が異常なのか必然とわかってくる。異常がわかれば、どのような病態なのかが掴めてきます。病態がわかれば治療方針は決まってきます。
おそらく多くのセラピストに共通して言えることは、病態がちゃんとつかめていないので、治療方針も定まらない。だから治る人もいたり、治らない人もいたりというようなことになってくると思います。
つまり、病態を絞りこむ技術というのは論文などの知識も必要ではありますが、やはり触診から病態を絞り込んだ情報を得るということが一番重要なことだと思います。
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赤羽根 良和先生経歴
【資格】
理学療法士
【経歴】
平成11年:吉田整形外科病院 入職
平成21年:さとう整形外科 入職
【書籍】