技術を知らないことで起こる弊害
― ANTが開発されるきっかけはなんだったのでしょうか?
農端先生 これも臨床的な経験です。はじまりは、仙腸関節に対してAKAを行ったときに、脱力を起こし歩行が不安定になった方がいました。このときの脱力を改善するために仙腸関節に圧迫を加えることで脱力が改善されました。
このことは脳性麻痺の方に多く見られる副反応です。また脳卒中後の片麻痺患者さんの首を抑えたら、しっかり歩けるようになったという経験をもとに、関節に圧迫を加えると筋出力が増強される、不安定な歩行が安定するという経験から開発することになりました。
― 最近、特異的腰痛と、非特異的腰痛で原因不明のものがほとんどといわれている時代で心理的側面の問題も指摘されてきていますが、先生たちから見てその辺はどうお考えですか?
農端先生 そのような方向に論理が進むのは理解できます。腰痛の診断は、X線、CTやMRIの開発で視覚的に原因が特定できること、血液検査やその他の科学的と言われる方法で数値化できること、そして原因を取り除けること、を好む科学者の指向性が表れていると思います。
これらの科学的手法に基づいた診断・治療法が否定されるとどうしても心理的問題を原因にしたくなります。原因が分かって治療できれば、心理的な問題が関係していると考える必要がないわけです。
AKAの場合は術者の技術と経験による判断によって組み立てています。科学的と言われる視覚化でき、機器によって数値化できる方法で診断治療を行っているわけではありません。その理由でなかなか普及しません。今後は研究・情報発信出来るようEBMを確立していく必要があります。
― 仙腸関節の動く動かない論争はいまだにありますが、そのあたりはいかがでしょうか?
農端先生 未だにありますね。仙腸関節は滑膜関節で、動くとは思いますが動きは1・2㎜の世界です。多くの人は関節が動くというのは、例えば肘が屈曲伸展するような大きな骨運動のことを動くと思っています。
仙腸関節の骨運動は前屈後屈で非常に小さな動きです。このイメージの違いが、動く・動かない、の表現の相違だと思っています。
AKAを学ぶためには?
― AKAのコースは実際どういったことがモジュール化されているのですか?
農端先生 研修会の参加資格は、WCPTやWFOT加盟国のPT・OTに限定しています。STの方が対象でないのは希望者がおられないためで、もしご希望があればやぶさかではありません。
AKA医学会PTOT会のホームページに研修会の情報を公開していますので、そこにアクセスして頂ければ詳細がわかります。研修会の指導者はAKA医学会PTOT会が認定した指導者と準指導者、指導者助手がつとめます。本年度大阪では、地域技術研修会を6回開催し、6回ですべての技術を習得できるように組んでいます(6回×6時間 ANTもあり)。
他の地域でも同様の形式で技術研修会を開催しています。昨年は全国で1598名のPT・OTが受講されました。最新の理論的なサポートは、年に一度の学術集会で行っています。しかし受講者のニーズに応えるために、研修会の内容や運営方法は常に改定しています。
― AKA-博田法以外でAKAと名乗り行なっている人がいると思います。見分け方はありますか?
農端先生 研修会に関しては、AKA医学会PTOT会主催の研修会であるか・ないかを確認していただければよいと思います。当会で認定した研修会以外は、別物です。
「AKA-博田法」は商標登録を行い、登録されている人のみ「標榜」を許可されています。
AKA医学会PTOT会の指導者・準指導者・指導者助手や認定療法士は当会で認定した療法士で、そのうち指導者・準指導者がAKA-博田法の標榜を許可された者です(許可された活動内容は認定資格に差があります)。その他の方は当会とは無関係な人たちです。
認定には以下の条件があります。
<認定療法士1~3・指導者助手要件1~5>(現在:認定療法士168名 指導者助手85名)
1.日本AKA医学会理学・作業療法士会入会後2年以上経過していること(入会年度を1年目として3年目以降)。
2.日本AKA医学会理学・作業療法士会学術集会、または日本AKA医学会学術集会に3回(6単位)以上参加していること。
3.日本AKA医学会理学・作業療法士会の主催する技術研修会(AKA基礎コース、フォローアップコース、地域技術研修コース等)、または日本AKA医学会の主催する地域技術研修会の単位を20単位以上修得していること。
4.認定療法士であること。
5.日本AKA医学会理学・作業療法士会学術集会、または日本AKA医学会学術集会に通算4回(8単位)以上参加していること。
<指導者・準指導者要件>(現在:指導者21名 準指導者5名)
1.指導者助手登録後2年以上経過しており更新の見込があること。
2.日本AKA医学会理学・作業療法士会が主催する技術研修会(AKA基礎コース、フォローアップコース、地域技術研修コース等)の指導単位が6単位以上であること。
3.日本AKA医学会理学・作業療法士会が主催する学術集会、または日本AKA医学会学術集会に通算7回(14単位)以上参加していること。
4.AKAに関連する演題発表、学術論文等があり、関節包内運動に関する記述または考察があること。
5.倫理規定を順守していること。
― 認定試験の合格率はどのくらいでしょうか?
農端先生 認定療法士は40%前後で、指導者助手が10%程度になり、厳しいことで評判です。博田先生のご意志が、指導者は正確に博田法を伝えられる者に担ってほしいとのことで、このような制度になっています。
指導者試験は博田先生が直接行います。さらに、上級指導者という資格がありますが、今は不在です。博田先生並みに上手くならないと認定されません。
ー完。
【目次】
第一回:AKA-博田法との出会い
第三回:運動療法の補完としてのAKA
最終回:臨床研究から培われたAKA
「AKA」は、関節包内運動の治療技術として紹介されてきたが、海外ではarthrokinematic approachは一般に、関節包内運動を治療する技術の総称で、joint mobilizationなど全てを含む呼称である。それ故、我々の使ってきたAKAが、他と違った特殊な術であることを示すため、日本語は関節運動学アプローチ-博田法、英語はarthrokinematic approach-Hakata methodという名称を用いることとした(2003年4月)。なお、省略形としてそれぞれAKA-博田法またはAKA-Hakata methodと呼ぶこととする。」
書籍紹介
農端芳之先生のプロフィール
昭和52年国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院理学療法学科卒業
昭和52年4月大阪鉄道病院入職
昭和53年12月国立大阪南病院入職
昭和58年4月米国出張
平成5年近畿中央病院附属リハビリテーション学院
平成13年大阪医療センター
平成22年京都医療センター
平成26年大阪南医療センター
平成28年大阪医療センター
趣味:草ラグビー