人生3度目のガンジス川
世界の医療を旅する男・山本啓太
前回の山本は、ベトナムでの国際協力の葛藤について報告した
そして今回、インドのボランティア施設マザーハウスへ行く!
今夜、山本啓太が療法士たちの知らない医療の世界へとお連れします!
※この記事はTBSクレイジージャーニーを少しだけパロディーしてます
MC:今回はなぜインドへ?
山本:コルカタという街に世界中からボランティアが集まるマザーハウスという施設があるんです。学生の時に一度このボランティアに参加したのですが、当時とどのように見え方が変わったかを確かめたくて行ってきました。
MC:それではVTRです。
マザーハウスとは
マザーテレサの銅像
ディレクター(D):いきなりですが、マザーハウスって何ですか?
山本:カトリック教会の修道士マザー・テレサが設立した「神の愛の宣教者会」本部の通称で、1952年に路上やスラムで亡くなりかけている人たちを救うために「死を待つ人の家」を開設したことが今の活動の始まりとされています。
D:参加者はどのような人が多いですか?
山本:キリスト教の施設だけあって欧米人が圧倒的に多いです。おそらく80名近くいますね。ここにいる参加者たちが数カ所の施設に振り分けられ、半日、もしくは一日ボランティアを行います。
D:具体的にどのようなことをするのですか?
山本:特に決められてはいませんが、洗濯、移動・食事・排泄の介助、髭剃りといった介護士のような仕事をします。またマッサージをしたり、入居者の話し相手になるといった人もいます。
D:今日の山本さんの派遣先は?
山本:Prem Danという障害の比較的軽い人たちが集まる施設です。
6年ぶりに参加してみて・・・
施設内は写真撮影禁止
~ボランティア終了後~
D:お疲れさまでした。いかがでしたか?
山本:え~と、このボランティア僕には合いませんでした。実は行く前までは、見学と取材だけしようと思っていたんです。けどせっかく来たし、とりあえず働いてみようかと思い、洗濯や排尿・移動の介助をしていました。
D:それで?
山本:頑張ってやってみましたが、1時間が限界でした。
D:なぜ1時間でやめてしまったのですか?
山本:そもそも無償で働くってのが嫌いなんですよ。それに僕一人がいなくても彼らの仕事は成り立つので「だったらやらなくて良いやん、やめよ」って・・・。
D:そんなことないでしょ?一人でも多いと助かるでしょ?
山本:どうですかね。例えば、洗濯し終わった衣服はバケツリレーで屋上に運んでいたんですが、人が多すぎて隣との距離たったの50cm!逆に時間かかるやろって(笑)
D:確かに・・・。
山本:まあ、それも理由の1つですが、僕がこのボランティアをどうしても好きになれない理由は他にもあります。
貧困層と継続性の問題
Prem Danまでの道中①
D:一体なぜですか?私は困っている人たちを救う素晴らしい施設だと思いますが?
山本:確かに素晴らしい施設だと思います。参加者たちは、ここでボランティアを経験することで、貧困や障害に対する認識を深めたり、他の参加者たちと交流できたりしますからね。それにこの施設のおかげで、大勢の外国人旅行者がこの街を訪れ、お金を落としていきますしね。
D:それに参加者たちは人助けができるから良いじゃないですか!
山本:そこなんですよね。僕はそれって地元の人がやることじゃないか?って思うんですよ。
D:どういうことですか?
山本:インドでは2億人弱が栄養失調状態だと言われています。実際に今日、この施設に着くまでにスラム街を通りましたが、たくさんのやせ細った物乞いがいました。海外からボランティアを呼ぶのなら、彼らに仕事を与えてほしいと思うんです。今なお残ると言われるカースト制度の影響で難しいのかも知れませんが・・・。
またテロなど凶悪事件が起きると当然その国を訪れる旅行者は減少します。つまり、継続性の観点からも労働力を外国人ボランティアに依存しきっている今の現状はどうかと思います。実際に2013年に集団婦女暴行事件が報道された際、その年にインドを訪れた女性旅行者は35%も減少したそうです。
参加者たちの衛生・リスクに対する認識
各国から来たボランティア参加者たち
山本:僕がこのボランティアを好きになれない2つめの理由は、参加者たちの衛生・リスクに対する認識が乏しいと感じてしまうからです。6年前に比べると手指衛生やエプロンの着用など衛生管理に関しては多少改善したのかもしれません。(配属された施設の問題かもしれない)しかし、問題は残っていると思います。
D:どのような問題ですか?
山本:例えば、英語も話せず、医療介護の知識もない者が平気で汚物のついた衣服を洗濯したり、食事や移動の介助をしています。もし、参加者自身が感染したり、入居者を誤嚥、窒息、転倒なんかさせてしまったらどうなるのでしょう。
D:どうなるんでしょうね・・・。
山本:やはり参加者たちには、相手だけでなく自分を守るためにも最低限の英語と医療介護の知識を身につけてから参加してほしいと思います。
汝の隣人を本当に愛せますか?
半日労働の対価+愛?
山本:3つめが、この施設のコンセプトでもある”愛”ですね。
D:”愛”ですか。
山本:マザー・テレサは「強い愛は分け隔てをせず、ただ与えるものです」という言葉を残していますが、その日出会った人を心から愛するなんて本当にできるのでしょうか?カトリック教徒の彼らには可能なのでしょう。なぜなら彼らの行動の背景には神のためという意図が存在するからです。けど僕にはできませんでした。そしてこの日出会った日本人の多くが同様の意見でした。
D:なるほど。欧米に比べて宗教に関心の低い私たちには理解しにくい考えなのかもしれませんね。
山本:前回報告したベトナムでの現地スタッフへの教育も、このインドでの活動も同じボランティアです。この二つを経験し、自分は何がしたくて何がしたくないかを知ることができました。そう考えるとたった1時間のためですが、インドにきて良かったです。
わざわざインドを訪れる必要はない
Prem danまでの道中②
D:最後に何か伝えたいことはありますか?
山本:6年前に来たときは、この施設の入居者はみな悲惨な状態で一人でも多くのボランティアが必要だと思っていました。けど日本で臨床を経験し、改めてここPrem danに住む障害者たちを見ると彼らの状況は日本とそう変わらないのではないかと感じました。
マザー・テレサは「彼らに奉仕するためにわざわざコルカタに来る必要はない、貧しい人がいる場所はどこでもコルカタなのです」と生前よく言っていたそうです。僕もこの言葉の通り、あえてインドを訪れる必要はなく、それぞれが継続してできることを可能な範囲で行うべきだという結論に至りました。
当然ですが、これはあくまで僕個人の考えです。この記事を読んで、このボランティアに参加したいと思われた方がいましたら、犯罪(特に性犯罪)には十分注意してインドを訪れて下さい。
D:今日はお疲れさまでした。
山本啓太の世界の医療を巡る旅はこれからも続く!
【目次】
第四回:旧ソ連の影響残る地で生きる障害者たちに会う in キルギス