福井先生:これまでの理学療法を振り返ってみると、ほとんどは「輸入」の理学療法だったのではないかと思います。
私が理学療法士になった当時、まだ理学療法士制度が始まって15年くらいでしたので、養成校も片手で数えられるほどしかありませんでした。私より前の学生は外国人の教員から英語での授業が行われていました。
養成校を卒業後、エネルギッシュな理学療法士の中には、海外に知識・技術を学びに留学している方もいて、それらの療法士は、数年後に日本に帰国すると、それぞれの道を歩いているように見えました。
確かに海外に留学するほどのパイオニア精神を持っていること自体はすごいことですが、一方で「海外に行っている人がすごい」という日本人特有の考え方がまだまだあった時代だったと思います。それは今でも続いているように思います。
「治療の中身」よりも「留学したこと」自体がブランディングになってしまっている人がいたのも確かです。
日本にはもともと運動器に対する治療として、柔道整復師や鍼灸師といったオリエンタルな職業が根付いています。運動器の理学療法を展開する上でもそれを全く意識しないわけにはいかないと思っていました。
医療を提供する側からすれば西洋医学と東洋医学には考え方の違いがありますが、患者さん側からしたら「良くなることの方が重要」と思っているのではないでしょうか。
私はアスリート選手と接することが多かったのですが、治療結果を常に求められてきたように思います。その中でより患者さんをよくするにはどのような治療を行えばいいかを追求することが志になっていたように思います。
私自身、海外の理学療法士に治療技術を学んだこともあり、尊敬している方も多くいらっしゃいます。ただそれは、その個々の理学療法士が優れているのであって、海外の技術自体がいつも日本より優れている訳ではないと思っています。
今、日本の理学療法には、新しいものを作ろうとする人が少ないのではないかと危機感を覚えます。
新しいものを生み出す人がいなければ、それは時代の流れによって古いものになってしまいます。
これからの日本の理学療法は輸入する側から、できれば輸出する側へ。新しいものを生み出すことに比重を置いている先生が増えてくればいいなと思っています。
百聞は一見に如かず
岩田先生:私自身、JICA(青年海外協力隊)で2年間タイに派遣されていました。
例えば、タイのプロサッカーリーグには日本人選手も多く、トレーナーも日本の理学療法士が入っていたりします。
タイ人のトレーナーは日本人選手から見ると、技術的にみても劣ってあり、日本人の理学療法士が来れば、活躍できる可能性が高いと話していました。
福井先生:前にカンボジアにJICAで派遣されていたうちの大学(文京学院大学)の卒業生もカンボジアのプロサッカークラブでトレーナーをしていたのですが、日本人がもっといかないかなと話をしていました。
岩田先生:言葉の問題をクリアすれば、チャンスだと思います。
英語が話せて、タイのトップリーグで結果を出せれば、いろんなところからオファーがかかると思います。
あとは、実際にアクションを起こす人が少ないのも問題です。
福井先生:何となく保守的な人が多いことや、多様性への対応が遅れている感は否めないと思います。できたら色々なことを経験した方がいいと思います。
岩田先生:一回海外に行けば全然違うと思うのですが。
福井先生:若い学生にはよく「時間があるのだから、海外で一人旅してこい」って話をしています。行けば何か事件が起こるから、それをどうやって乗り越えるのかという経験が大切です。
聞くよりも、「体験」しなくてはいけないと思います。
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福井勉先生
文京学院大学保健医療技術学部 教授
文京学院大学大学院保健医療科学研究科
スポーツマネジメント研究所 所長
[経歴]
昭和大学藤が丘病院、東京都立医療技術短期大学、昭和大学藤が丘リハビリテーション病院主任、昭和大学医療短期大学助教授,昭和大学保健医療技術学部助教授を経て現在に至る。
昭和大学客員教授,茨城県立医療大学非常勤講師
[著書]
他多数
岩田研二先生プロフィール
学歴
2010年4月 - 2012年3月 藤田保健衛生大学大学院 保健学研究科
2008年4月 - 2010年3月 日本福祉大学 通信教育部 福祉経営学部
2004年4月 - 2007年3月 藤田保健衛生大学リハビリテーション専門学校 理学療法科
職歴
2015年10月 - 現在 医療福祉科学研究所
2013年7月 - 2015年9月 Phrapradaeng Home for Disabled People(青年海外協力隊)
2007年4月 - 2013年6月 医療法人松徳会花の丘病院
受賞歴
2013年4月 第24回理学療法ジャーナル賞 奨励賞
委員
課題解決型福祉用具実用化開発支援事業「タイ国内における福祉産業の市場規模及び法制度等に関する調査」検討委員会委員