東京大学大学院農学生命科学研究科の佐藤隆一郎教授、佐々木崇特任助教らの研究グループは、遺伝子改変マウスおよび培養骨格筋細胞を用いた研究により、胆汁酸受容体TGR5 の活性化が骨格筋の肥大化や筋力の増大を誘導することを明らかにした。また骨格筋における TGR5 の発現量は運動後に上昇したことから、運動( TGR5 発現増加)と食事(胆汁酸の分泌)が相乗的に骨格筋機能を改善する、これまで未知であった分子機構の存在が示唆された。
▶︎ 食と運動が骨格筋を肥大化する新たなメカニズムの解明-胆汁酸が骨格筋機能を改善する-
胆汁酸受容体 TGR5 は全身に広く発現しており、食後分泌される胆汁酸を感知し、様々な代謝改善効果を発揮する事が知られている。しかし骨格筋における TGR5 の機能に関しては不明な点が多く残されていた。
本研究グループは、TGR5 欠損マウスの骨格筋を観察した結果、TGR5 欠損マウスにおいて骨格筋量および筋力の低下が認められ、TGR5 が筋機能維持に寄与する可能性が示された。次に骨格筋特異的に TGR5 を過剰発現するトランスジェニックマウスを作製したところ、期待通り骨格筋の肥大化が確認され、大腿四頭筋重量の増加率は 14.6%にも及んだ。 TGR5 トランスジェニックマウスは若齢期から高齢期まで一貫して筋力が増大していたため、TGR5 の活性化はサルコペニアの予防にも効果的であると考えられる。
次に、TGR5 が筋肥大を誘導する分子メカニズムの解析を進めた結果、TGR5 が胆汁酸を感知すると筋細胞分化を亢進すること、そして PGC-1α4 や IGF-1 とい った筋肥大遺伝子の発現を増大させることを明らかにした。この遺伝子発現変動はマウスの骨格筋細胞だけでなくヒト由来の培養骨格筋細胞でも確認されたことから、TGR5 を介した筋機能改善効果はヒトでも同様に誘導されることが期待される。