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本橋隆子先生-医学部で教鞭をとる理学療法士(PT)- no.2

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新人の訪問リハ就職について

学生インタビュアー:

先ほど(第1回インタビューにて)地域にもスキルを持った療法士がたくさんいるとのことでしたが、1年目から訪問リハビリテーションに従事することはどう思いますか?また、今後、訪問リハビリが実習先として増えてくると思いますか?

本橋先生:

1年目から訪問リハビリテーションに従事することはお勧めできません。

訪問リハビリテーションの現場では、傍について指導してくれる先輩や患者さんの急変時に助けてくれる医師がいるとは限りません。

また、患者さんや家族は、病院では聞けなかったことをいろいろと質問してきます。もちろん、リハビリテーションに関することだけではありません。

疾患のことや介護サービスのことなど、実際の生活で困っていることは何でも質問してきます。

このような状況において、1年目の理学療法士がひとりで適切な対応ができるのかということです。

一方で、訪問リハビリテーションは伝達講習会では学べないことが多く、OJTが必要だと思います。

しかし、現状では、先輩の理学療法士について訪問リハビリテーションを学ぶことはなかなか難しいと思います。

なぜなら、雇用された新人の理学療法士が先輩について学ぶ場合、人件費は2人分ですが、リハビリテーション料の算定は1人分だけです。

これでは、事業所の経営は成り立ちません。

訪問リハビリテーションにおいてOJTを実現させるためには、理学療法士免許の取得後の見習い期間であっても、少しは報酬を算定できるようなシステムが必要と思われます。

でも、社会保障費の財源が限界にきている現在、治療をしていないセラピストの分までお金を支払う余裕は、もはやないと思います。

学生インタビュアー:

なるほど。訪問リハビリテーションの実習としてはどうでしょうか?

橋先生:

訪問リハビリテーションが学生の実習先になることは理想です。

ただ、すでに理学療法士の資格を取得しているセラピストにとっても、慢性期や在宅の患者さんの評価や治療は難しいです。

なのでROMやMMTの測定テクニックや動作分析を学ぶ程度での実習であれば、病院実習との差別化が図れないため、わざわざ訪問リハビリテーションを実習先にする必要はないと思われます。

もし、訪問リハビリテーションを実習先にするのであれば、まずは養成校において訪問リハビリテーション教育に力を入れるべきだと思います。
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 全てに「質」が問われる

学生インタビュアー:

先生が政策や制度、経営、医療の質などに興味を持たれたきっかけは何でしょうか。

本橋先生:

きっかけは、順天堂大学医学部附属浦安病院で働いていた時の会議や各診療科のカンファレンスでよく耳にした「在院日数」というキーワードでした。

この「在院日数」を理解するためには、医療制度、医療政策、診療報酬制度、病院経営、医療の質、地域連携などについても理解する必要があり、これらについて知れば知るほど奥が深く、どんどんはまっていきました。

と同時に、現在の医療の何が問題なのかを考え始めました。

患者さんに良質な医療やケアを提供するために医師や医療スタッフに大きな負担を強いていたとしたら、いずれ医師や医療スタッフは疲弊し、事故が起きたり、辞めてしまうかもしれません。

そうなったら、良質な医療やケアは提供できなくなり、最終的には患者さんに不利益が生じます。

また、良質な医療やケアを患者さんに提供できるように、無理な経営に走れば、病院は破綻し、最終的には患者さんに不利益が生じます。

つまり、患者さんが安心して良質な医療を受けるためには、医師や医療スタッフにとっても良質な労働環境が必要であり、病院経営も健全でなければならないのです。

患者さん、医療提供者、経営者の3者がバランスよくwin-win-winの関係になるためには、どのような政策や制度、病院経営が必要なのかを研究者という立場から研究したいと思いました。

学生インタビュアー:

今言われた、政策・制度・病院経営でいえば、療法士の多くが働くのが病院です。そこでお聞きしたいのですが、病院経営に療法士が入ることは可能ですか?

本橋先生:

可能だと思います。病院は、医師さえいれば成り立つものではありません。

治療の必要性に対する決定は、医師でなければわかりません。

また、ケアの必要性に対するに決定は、看護師でなければわかりません。
リハビリテーションの必要性に対する決定は、リハビリテーション職にしかわからないと思います。

実際に、看護師が副院長をやっている病院はたくさんあります。しかし、療法士が経営陣に入るのであれば、病院全体のマネジメント能力が必要となります。

つまり、医療や経営のデータに基づく議論と戦略が立てられなければなりません。

マネジメントとは、コスト管理や労務管理などの管理業務以外に、他部署との交渉、データに基づく資料の作成、データに基づく議論、戦略立案、医療の質の管理、教育や業務評価システムの構築なども含まれます。

もし病院全体の経営陣に入りたいのであれば、これをリハビリテーション科だけでなく、病院全体で考えることができなくてはならないと思います。

学生インタビュアー:

今、話をして頂いた病院経営する療法士が増えるかもしれないという見通しもそうですが、今後の理学療法士や医療の業界予想を教えて下さい。

本橋先生:

高齢者は増加し、労働者人口は減少、医療技術は進歩し、医療費は年々増加していく一方で、増税が先送りにされ、今後益々社会保障財源は厳しくなってくると思います。

今後の医療業界は明るいかと聞かれると、決して明るいとは言えません。

医療業界がさらに厳しくなってくるということは、療法士が提供しているリハビリテーションに対しても質や成果を問われてくるということです。

さらに、リハビリテーションの付加価値も求められてくるかもしれません。

今後は、療法士一人一人の真の実力が問われ、療法士の二極化が進むと思われます。

学生インタビュアー:

例えば、どうなっていくと思われますか?

   

本橋先生:

まず、療法士が保険診療で質が高くないリハビリテーションを提供していることは問題だと思います。

 例えば、現在、患者さんが整形外科疾患で運動器リハビリテーションⅠを20分受けた場合、3割負担の患者さんは窓口で540円、1割負担の患者さんは窓口で180円支払います。

 もし仮に、10割負担(全額自費)だとしたら、窓口では1800円支払うことになります。

現在、自分が受けているリハビリテーションに1800円を支払う患者さんは何人いて、さらに、1800円のリハビリテーションを継続して受けにくる患者さんは何人いるのでしょうか。

また、20分1800円支払ってもらえる治療を提供しているセラピストは何人いるのでしょうか。

現在、我々は保険診療というものに守られているため、1800円の価値のないリハビリテーションを提供しているセラピストも、1800円以上の価値の高いリハビリテーションを提供しているセラピストも同等に給料をもらえています。

もし仮に、医師の指示のもと1800円でリハビリテーションを提供している施設があったとしましょう。

その地域には540円や180円で受診できる病院があるにもかかわらず、1800円の施設に患者さんがたくさん通院しているとしたら、その施設のセラピストは患者さんが満足する治療を提供するために努力し、質の高いリハビリテーションを提供し、患者さんの満足度を高め、その対価を支払ってもらっているということになります。

となると、「自費=金儲け」とは言い切れないと思います。

現行法ではグレーの点が多い自由診療や自費診療の導入が検討された場合、それに対して一方的に批判するのではなく、「リハビリテーションの質」という点からも議論をするべきだと私は考えています。

<バックナンバー>

第一回:外部から感じる療法士の2つの問題点

 

   本橋隆子先生の経歴

【主な経歴】

法政大学法学部法律学科卒業

東邦薬品(株)営業職に就職。中外製薬(株)営業職に転職

北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻卒業

順天堂大学医学部附浦安病院リハビリテーション室(現在はリハビリテーション科)就職

京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学専攻 MPH授与

京都大学 博士(社会健康医学)

現在は、聖マリアンナ医科大学 予防医学教室 助教 週1回、国立病院機構本部 診療情報分析研究員として勤務
 
本橋隆子先生-医学部で教鞭をとる理学療法士(PT)- no.2

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