キャリアコンサルタントが徹底サポート

理学療法士(PT)脇元幸一先生 -医療法人社団 SEISEN 専務理事- 第3回

5953 posts

スポーツ現場で必要とされる"勝たせる"理学療法士

これまで30年の間、多くのスポーツ現場に出向いて感じることは、現場が必要としている理学療法士(以下PT)像とは、“治す”ことに特化した理学療法を行えるPTではなく、選手が勝つことに貢献できるPTなのです。

 

しかし、“勝たせる”理学療法をできるPTがどれほどいるでしょうか。

 

私が知る限り、国内ではほんの一握りしかいないのが現状だと思います。スポーツ現場で必要とされるPTを目指すのであれば、スポーツ障害を“治す”ことに特化せず、勝つことに貢献できるPTでなければなりません。

 

 “勝たせる”理学療法とは何か? それはスポーツ現場で2つの仕事を成就することです。

 

一つは、「ケガを起こさないチーム作り」に貢献することです。具体的には、「選手がケガをする心身環境」とはどういった状態かをPTは正確に把握し、それを「ケガをしない心身環境」へと改善・維持させための『身体作り』と『心作り』を選手に施すことです。

 

そのためには、身体と心どちらの評価もできなければなりません。心の環境が不安定な状態にあると、十分な筋力が発揮できなくなり、パフォーマンスの低下へとつながります。

 

それを量的に評価し、監督やコーチには「選手はどういった心身環境でケガをしやすいか」を常にマネジメントできるようサポートします。

 

PTは、選手の心身環境に合わせてトレーニング強度やウォームアップ・クールダウンメニューの調整を行い、シーズンを通して練習・試合でケガをしない心身環境を選手に維持させるのです。

31554efa34ea34a2bce66115fe77faea44a23128std

 

 

心とカラダ、それを全て。

次に行うことは、試合当日に選手がピークパフォーマンスになるように心身環境を整えてあげることです。

 

選手が120%の力を発揮し、“勝つ”ことができる心身環境を獲得するための『工程表作りとその実践』を行うことです。加えて、“勝たせる理学療法”の実践には、選手が練習をしていない時間の心身マネジメントが重要です。「慢性疼痛疾患は起こるべくして起きたプロセスがある」と前述しましたが、実はケガにも同様なプロセスがあるのです。つまり、慢性疼痛が起こるプロセスの背景に患者の生き方があるように、「起こすべくして起こしたケガ」もまた選手の生き方に原因があるのです。その生き方とは選手の「練習をしていない時間」の生活習慣(習慣性情動・行動パターン)に原因がある場合が多く、練習メニューの考案以外に、練習をしていない時間もケガをしない心身環境づくりに選手が取り組めるよう具体的に教えることが“勝たせる理学療法”を成功させる秘訣です。

選手がケガに悩むことなく練習ができ、試合時には120%のチカラを発揮させる。それこそが“勝たせる”理学療法です。以上のことを踏まえスポーツ現場で働くチャンスがあるのならば、現場スタッフに「このPTがいたから試合に勝てた」と思わせるくらいの努力をしてください。そこまで出来て初めてスポーツ現場に必要とされるPTといえるでしょう。

a619f53cb33f9a200192041b4aeb8e35e888ae6dstd

 

 

 理学療法の歴史は、まだ50年。

PTとして臨床に出て、理由はわからないがなんとなくその将来性に不安を感じる新人の方も少なくないのではないでしょうか。

 

私自身は今でも将来に不安を感じ続けています。なぜなら、現在のPTの社会的身分保障があまりにも曖昧であり、名称独占のみで業務独占がなされていません。なぜ業務独占ができないのかというと、私たちが業務を行う上での専門知識・治療技術レベルが、看護師・柔道整復師が短期の講習を受ければ診療報酬を算定できるほどの、低い業務独占ハードルでしかないからだと考えています。

西洋医学の歴史が200年なのに対し、理学療法の歴史はまだ50年ほどです。50年では、まだまだ学問・学術は浅く、効果的な治療を開発するだけの知識の集積が得られていません。

具体的にいうと、理学療法士は「評価から得た問題点を解決するための治療を選択」して、結果を出す専門業種です。この半世紀の学術の成果は、「評価法」に関しては妥当性と信頼性において大きな進歩を得ましたが、効果的な「治療法」においてはエビデンスの集積が圧倒的に不足しています。ですから臨床の現状は、効果が得られにくい、もしくは良くなるかわからない治療法を選択するしかなく、結局結果がでない理学療法を漫然と続けることになってしまっています。そのことが業務独占できていない根因であると私は考えています。

ですから、新人の皆さんが今後半世紀でやるべきこと、つまり効果的な治療を開発するための知識の集積を、臨床で積み重ねていくような生き方をして欲しいと願っています。

将来への不安を自ら解消し、我々の社会的身分保障を得るためにも、各人が患者さんの病態を見抜ける目を養うためにも、どん欲に知識を身につける必要があります。良い結果を伴う理学療法を行うための本物の知識を身につけ、実践できるレベルになって欲しい。またそれを他のPTや他職種、病気に悩む人々に伝えられるレベルになって欲しいと切に願います。

d16c50dfe1e49bff11c2fc764378cef9e8ef7087std

 

脇元幸一先生経歴


【主な経歴】
西日本リハビリテーション学院卒業
1987年:東京慈恵医科大学病院
1989年:船橋整形外科病院 理学診療部 部長
2006年:清泉クリニック整形外科 設立(現在 医療法人 SEISEN 専務理事)
東海大学 医学部基礎医学系分子生命科学 研究員
国立電機通信大学産学官プロジェクト人間工学共同研究員
信州大学医学部大学院医学研究科共同研究員

【著書】
スポーツ選手のための心身調律プログラム」(大修館書店)
アスレチックリハビリテーションガイド」(文光堂)

【バックナンバー】
第1回:Spine Dynamics療法とは?
第2回:慢性疼痛疾患とは?

 

理学療法士(PT)脇元幸一先生 -医療法人社団 SEISEN 専務理事- 第3回

Popular articles

PR

Articles