第5回:口下手な私が実践している伝えかたの工夫 | 松山太士先生

4977 posts

前回までは、管理職(マネジメント)に必要とされる3つのスキル、「コンセプチュアルスキル」、「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」のうち「コンセプチュアルスキル」をテーマに、プレイヤーとマネジャーの違いについて話を進めてきました。今回は、「ヒューマンスキル」の一部である、コミュニケーションをテーマに話をすすめたいと思います。

 


マネジメント=他者を介して成果を出す(Getting things through others)を実践しようとすれば、他者とのコミュニケーションは避けて通れません。

では、成果の出せる組織を作るために必要なマネジャーのコミュニケーションとは、何だと思いますか?

 


『話し上手、聞き上手にならなければ・・・』
『要点を簡潔にまとめ分かりやすく伝えなければ・・・』
『相手の立場に立ってコミュニケーションを図らなければ・・・』


様々なイメージが想起されますよね。これらはどれも大切なことに間違いはありません。


しかし、もっと簡単で明日からすぐにできる大切なことがあります。

それは、「頻度」です。

 

コミュニケーションの内容(質)とコミュニケーションの頻度(量)の双方が大切ではありますが、何よりもまずは頻度が大切なのです。

難しく考えず、ただ会う頻度・話す頻度・メールする頻度を増やすことがマネジャーとして周囲から信頼を得ることにつながります。

 

口下手な私が部署責任者となった時にやったこと

数年前、リハビリテーション部門の責任者となった時、何をしたらよいのか分からず戸惑いました。

 

それまで、ナンバー2ならいいけれど部署のトップになるのだけは嫌だと思っていました。
部署のトップは、部署を代表して法人の経営者(理事長)や他部署の責任者らとコミュニケーションを図ることが求められます。
しかし、私はそれが最も苦手でした。自分より目上の方と話をすると緊張して頭が真っ白になったり、変に恐縮してしまうようなタイプの人間でした。ですから、特に上司とのコミュニケーションには人一倍自信がなかったのです。


(そうは言っても、部署のトップになったからには「苦手だからやらない」では後輩たちに迷惑をかけてしまう。果たしてこんな口下手で緊張しやすい自分が務まるのか?自分にできることは何かないだろうか?)

とずいぶん自問自答していました。

長らく考えた末に、自分がやれる範囲のことをやる以外に選択肢は無いと覚悟を決め、導き出した結論は『コミュニケーションの頻度を増やすこと』でした。


これなら、口下手かどうかはあまり関係無く、やると決めればできるはずだと思ったのです。

まずはやるかやらないかの2択だけで、コミュニケーションが得意なのか苦手なのかはその次の話です。

『うまく話せなくてもいいから、他部署のトップと比較して接触頻度だけは負けないようにしよう』と決めて実行し続けることにしました。

 

『たとえ忙しくても、とにかく理由を付けて理事長室・院長室・看護部長室等に足を運ぶこと』

 

やったことといえば、これだけです。
たったこれだけですが、継続し続けることで私の想定以上の効果がありました。

 

繰り返し話をすることでお互い徐々に打ち解け、当初は緊張していた私も自然に話ができるようになりました。私が考えていることを上司が理解してくれていることが分かると、積極的に提案ができるようになり、そんな私を信頼してくれていると実感できるようになってきました。
話が上手ではなくても、接触頻度でかなりの部分はカバーできると思った経験でした。


やったことはシンプルで誰にでもできることです。
ただ、実行し続けるという意識を持っていないと、「忙しいから・・・」「この程度のことは報告しなくてもいいか・・・」など、やれない理由を自分で作って疎かにしがちです。私は、自分自身が上司とのコミュニケーションに苦手意識があったからこそ、自分でもできることだけは必ずやるという強い意志が働き、やり続けることができたのかもしれません。簡単なことだからこそ、常に意識して実行し続けることが重要です。

 

接触頻度を増やすと好意度が増すカラクリ

私がずいぶん考えて実行した「接触頻度を増やす」という戦略は、ロバート・ボレスワフ・ザイアンスという社会心理学者が発表した”ザイアンス効果”と呼ばれるものだということを後から知りました。

単純接触効果とも呼ばれ、『人は同じ対象物に繰り返し接することで警戒心が薄れ、好意度が増していく』という認知心理学の法則として広く知られているものでした。


もちろん、頻度が多ければ確実に好かれるというわけではありません。お互い知らない者同士の関係性の場合に特に有効だと言われており、関係づくりの初期段階には非常に効果が高いコミュニケーションだと思います。私の経験からも、部署のトップになった初期段階でこれを実行したからこそ効果があったのだと思います。


そして、これは上司に限らず、後輩・部下に対しても同様の効果があります。
裏を返せば、接触頻度が低い相手とは、それだけで良好なコミュニケーションは成り立ちにくい訳です。

普段あまり話をしていない後輩・部下には、特に意識して自分から声をかけて日々ザイアンス効果を活かした関係づくりを心掛けること、これはすぐにでもできるマネジャーの大切な仕事だと思います(自戒を込めて)。

 

ただし、いったん嫌われてしまうとザイアンス効果は殆ど効力を失います。中長期的には、コミュニケーションの質が問われるのは言うまでもありません。ザイアンス効果の限界も知ったうえで、うまく活用することをお勧めします。
 

今回は、「誰にでもすぐにできるコミュニケーションの工夫」と題して、マネジャーに必要なコミュニケーションの実際について私の実践と内省を基に考えてみました。

次回は、コミュニケーションや関係性の観点から組織全体の状態を把握する方法について考えてみたいと思います。


【お願い】

読者の皆さんからの感想やマネジメントについての悩み、知りたいこと等をtwitter(@taishimatsuyama)または、tmatsuyama☆yachiyo-hosp.or.jp (☆→@に変えて送ってください)にてお寄せください。頂いた感想や質問に返答するかたちで、連載後半の記事を執筆したいと考えています。

第5回:口下手な私が実践している伝えかたの工夫 | 松山太士先生

Popular articles

PR

Articles