モンゴルのリハビリテーション専門職について

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切り離せない伝統医療

1 なぞの液体 これを飲むと何でも治るというフレコミ

モンゴルの医学的リハビリテーション分野は、伝統治療という療法を学ぶ医師や看護師、まだ運動治療士という職種の方々が担ってきました。伝統治療と言うものは何か?と言うと、World health organization(WHO)は、“健康の維持に物理的また精神的に使用されるその地域独自の理論やスキル”としています1)。余談ではありますが、伝統治療=遅れている考えと言うわけでは全くありません。私も勉強不足で具体的な内容は各専門書を参考にして頂きたいのですが、WHOもこの伝統治療の効果に注目しているようです。伝統治療は西洋治療と違い低コストというメリットがあり、国や地域によっては伝統治療を普及するプロジェクトを進めていることもあります。お金のない国々では、西洋的な医療はコストがかかるという点は否めないのかもしれません。モンゴルにはなんでも治ると信じられている液体飲料もあります(写真)。

治療=受けるもの

2 物理療法

モンゴルはと言うと、中国からの東洋医療とロシアの物理療法を混合したものを指しています。東洋医療では漢方や針、ロシアの物理療法では電気治療や温熱療法など様々ありますが、この中には運動と言う概念がありません。ようするに患者の能動的な働きかけがないというのが特徴です。治療=受けるもの、こういった考えはモンゴルに限らず、医学的リハビリテーションの概念がない地域では当たり前になっているかと思います。

日本からは約40年遅れて理学療法士の要請が開始

3 モンゴルの理学療法士

そこでモンゴルでも2007年から健康科学大学という国立大学で理学療法士の養成が開始されました。こちらの養成には群馬大学大学院保健研究科の先生方もご尽力されています2),3)。現時点で養成校は1校で、だいたい1学年辺り20名~30名位の生徒数でした。授業を務める講師はモンゴル人の医師が中心となっています。講師は日本で1年程の研修を経て教鞭をとっています。モンゴル人の理学療法士は女性が中心で男性は少ない状況です。まだまだ理学療法士の数は少なく、その大半は首都のウランバートルで勤務していますが、最近は地方で働く理学療法士も出てきました。やはり理学療法士の法的な整備が整っていないことや、認知度が低いことが原因で地方では仕事が難しいようです。

1人の女性との出会い

4 幼稚園で活動する理学療法士

私の知り合いでモンゴル初の地方病院に就職したウヌル・アヨシという理学療法士の女性がいます。彼女曰く、地方病院の病棟には重症患者がなかなか入院することができず、ADLが低下するような患者は移動手段もなく病院に行くことすら難しい方も多いようです。彼女は病院勤務でしたが、病院の中に留まっていては仕事がない状況でした。そこで彼女は病院の外へ出て、幼稚園に行くことにしました。モンゴルでは日本の特別支援教育のような枠組みも整っておらず、障がいのある子も普通幼稚園に入園することが多いです。それを知っていた彼女は幼稚園を訪問し、障がいのある子に理学療法を提供することにしたのです。また彼女は、今後は銀行に赴き、腰痛指導などを始めました。   彼女は養育や産業リハなどという言葉を知っている訳ではありませんが、理学療法の技術があらゆる場面で重要であることは知っていました。そして、自分がどこに行けば役に立つのか?ということをよく考えていました。その当時、私よりも年下で23歳だったと思います。遊牧民育ちで、特別な教育を受けてきたわけではありません。もちろんモンゴル人の理学療法士誰もがこのような姿勢ではないかと思いますが、開拓しようと頑張っている若い力がそこにはあり、その能動的な姿勢からは私自身も学ぶことが多かったです。   養成校もまだ立ち上がったばかりで、システムとしては不十分なことも多いとは思いますが、モンゴルの理学療法教育に関わっている関係者の方々の熱意には本当に頭が下がりました。モンゴルの療法士は百歩譲っても日本の療法士以上の知識や技術はないとは思いますが、モンゴル独自のシステムが作られていくことを期待しています。またこれから同大学では作業療法士の養成も始まると聞いています。今後の動向に注目です。

参考資料

1)Traditional and complementary medicine http://www.who.int/medicines/areas/traditional/en/ 2)モンゴル国における理学療法士養成のための国際協力 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2008/0/2008_0_G3P2561/_pdf 3)モンゴル国における理学療法教育支援 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmj/61/4/61_4_537/_article/-char/ja/

小泉裕一先生経歴

経歴

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専門学校卒業後、埼玉県内の大学病院で勤務。3年間勤務し、青年海外協力隊員としてモンゴル国立第三病院へ派遣された。派遣中から開発途上国リハビリレポーターというweb企画を立ち上げ運営している。(30ヵ国からのリハビリレポートを日替わりで配信するもの)帰国後は訪問看護ステーションで勤務している。

 

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