Ⅲ.CT読影の前のチェックポイント
CT読影前のチェックポイントとして以下の4点があります。
① 誰の画像か
② いつ撮像されたか(発症からどのくらい経過した画像か)
③ 左右はどちらか
④ 撮像時の頭位の確認(OMラインで正確にスライスが切られているか)
①、②については、画像が電子カルテで管理されている昨今、データを取り違えたり、患者や撮像日を読み違えることはあまりないと思います。しかし、ひと昔前は、脳画像はフィルムが使われていました。フィルムを収納ケースから取り出して、シャーカステンに照らして画像を読影します。その際、誤って別の患者の収納ケースからフィルムを取り出したり、該当患者の収納ケースに、別の患者のフィルムが収納されていたりと、人為的なミスも可能性としては十分ありました。
また、脳卒中などの画像は、時間の経過とともにその見え方が変わってくるため(病態の変化を反映するため)、撮像日を確認しておくことは、臨床的意義はとても高くなります。そのため、今、自分が読影しようとする画像は、誰のもので、発症からいつ経過したものなのか、読影前に必ずチェックするようにしましょう。
③の左右判断については、最近の機器では左が右に、右が左に逆転している画像がほとんどです(古い機器では左が左、右が右というものも多くありました)。なぜ画像が左右逆なのかは、見る視点がもともと違うからです。つまり、脳を下から見る(足裏からのぞき込んでいる)イメージだと辻褄が合うように設定されているため、頭を上から見下ろすイメージだと左右が逆になるという理屈なのです。
いずれにしても、画像の左右の判断は誤らないように、画面に記載されているL(左)や R(右)の文字は必ずチェックしましょう。左右の間違いは、症状や障害の予測を180度変えてしまうことに繋がってしまいますので。
④の撮像時の頭位の確認は、臨床上かなり重要になります。なぜなら、正常な脳の形態はほぼ左右対称であり、CTやMRIの異常所見の拾い上げは、左右差を探すことが基本となるからです(しかし厳密には左半球の方が右半球より若干大きく、左右非対称であることが多いです)。
異常所見の拾い上げを左右差で探す場合は、前提条件として、画像がOMライン(orbito-meatal line)に合わせて、水平にスライスされていている(左右対称性である)ことが挙げられます。
それでは、頭位の位置関係を無視して読影すると誤ってしまう例を示しましょう。
次のCT(図1)の異常所見はどこか分かりますか?
図1 このCTの異常部位は?
左右差ですぐに目に付く箇所は、左前頭葉(図2上段の赤矢印)と左側頭葉(図2上段の青矢印)の高吸収域で、血腫に見えます。
しかし、実はこの高吸収域は血腫でなく、骨になるため、この画像からは異常箇所は認められません。
図2 OMラインが正確でない左右非対称のCT
なぜ、これが骨なのかというと、この画像(図1および図2上段)のすぐ下のスライス(図2下段)を見ると骨の位置と重なることが分かります。画像が水平にスライスされていない(左が右よりも低い)左右非対称な画像のため、右半球にはない骨の画像が、左半球には残って映っていたのです。
実はこのような左右非対称(OMラインが正確ではない)な画像は臨床でも珍しくなく、しばしば目にします。そのため、読影する際には常にチェックすることが必要です。
重要なのは、OMラインが正確ではないから信頼性の低い画像なのではなく、左右非対称な画像であることを周知の上で(前提にして)、読影(活用)できるか、ということになると思います。
ではこのような左右非対称な画像を見分けるには、どうすれば良いでしょうか?
まずは、一枚だけのスライスで判断するのは難しいので、上下の位置関係に着目しながら全てのスライスに目を通すと良いです。特にOMラインで正確にスライスされているかを確認するのが判別しやすいです。
OMラインとは、眼窩中心(位置的には外眼角)と外耳孔を結ぶ眼窩耳孔線のことで、CTを撮像する際の最もポピュラーな基準線になります。OMラインで正確にスライスされた画像(OMライン0mm)は、左右の水晶体(図3赤矢印の高吸収域)と左右の外耳道(図3黄色矢印の低吸収域)の4点が揃っています。この4点が揃っていることが確認できれば、OMラインは正しく撮像されていることになります。
つまり、これより上のスライスも水平の(左右対称性が保証されている)画像になるため、左右差で異常所見を拾い上げても良いと判断できるのです。
図3 OMライン0mmのCT
ちなみに、CTの基準線には、このOMライン以外に、ドイツ水平線(あるいはライド基準線:Reid’s base line、RBライン)があります。このドイツ水平線(RBライン)は、眼窩下縁と外耳孔上縁とを結ぶ眼窩下縁外耳孔線となります。
OMラインは、大脳の断面が広く捉えられ、大脳病変の診断に適しているため、一般的に採用されている基準線です。一方、ドイツ水平線(RBライン)は、眼窩や頭蓋底の診断に適しています。病変に応じて基準線を使い分けできるようにしています。
Ⅳ.異常所見ではない高吸収域
以下の図4の症例のCTはどこが異常部位か分かりますか。
図4 ある症例のCT
右の被殻に高吸収域があるので、診断は右被殻出血となります。さらに血腫の境界線はぼやけて高吸収域が淡くなって(低吸収域が混ざって)います。これは、時間が経過した出血巣(発症後3週経ち、血腫が分解されている時期)を反映しています。
では、被殻出血の他に異常所見はあるでしょうか?
側脳室後角(図5黄色矢印)、第3脳室の一部(図5赤矢印)に高吸収域が確認できます。実はこの高吸収域は、生理的石灰化といってカルシウム分が脈絡叢(図5黄色矢印)や松果体(図5赤矢印)に沈着するために起こります。これらは、視床出血例では脳室に漏れ出た血腫と間違われることも多いので注意が必要です。
図5 生理的石灰化
生理的石灰化は、この部位以外にも両側の大脳基底核に見られることがあります。高齢者の画像でよく目にする所見ですが、特に異常所見ではありません。血腫と見間違えないようにしましょう。
生理的石灰化と血腫を見分けるポイントは、高吸収域が左右対称か非対称かという点にあります。左右対称の場合は、ほとんどが異常所見はないケースということです。なぜなら左右対称に、同時期に、同じ大きさ(形)の出血が起こる可能性はほとんどないと言って良いからです。