阿部勉先生-リハビリ旅行から学ぶ在宅ケア-

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ホテルの女将さんが”よくなりましたね”と言ってくれる

前回の記事『旅行リハビリを生活に繋げる』はこちら

インタビュアー土屋:リハビリ旅行の具体的な内容を教えていただけますか?

阿部先生:まずは、医療従事者が一緒に旅行に行っているので家族の方も安心できますよね。看護師、リハビリ専門職がついていきます。大体二泊三日で、中日にいろんなイベントがあり、地元の人と交流したり魚釣り大会で海岸にも出かけます。事前準備がとても重要ですしその分大変です。単に旅行に行くのではなくて旅行をいかにマネージメントすることができるか。

もちろん自分たちだけでは到底できないので観光組合に協力していただいて行っています。稲取温泉と昼神温泉の二ヶ所の観光組合と一緒に行っています。 何故かというと、旅行先がきちんと迎える体制が整っていないと当然旅行が楽しくないです。ある時すごいなと思ったのがホテルの女将さんが“この間より良くなりましたね”と参加者に声をかけているときです。最初は色々と手を出しすぎてしまうのですよね。

また、そもそも受け入れることに難色を示していた時期もありました。何故なら、お客さんは癒しを求めてきているのに障害を持った方々を前にすると癒されないからうちは受け入れませんというところが結構多かったのですよ。でも別に障害があってもなくても旅行を楽しむ、旅館の温泉を楽しむ権利はあるわけですし、普通の方と同じですということをきちんと説明して、分からないからこそ様々なことを危惧するので、そこはきちんと理解していただいたところ、観光組合の方がひと肌脱いでくださり、沢山の旅館が観光組合に入って旅行リハビリが実施できました。


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阿部先生:あとはもちろん旅行で足を運ぶ駅の段差を測ることや電車の中、旅館などをすべて評価しています。いわゆる家屋評価です。地元のドクターと連携してリスク管理も徹底しています。もちろんそういうことをやらないと、ただリハビリ旅行をしますというのも勢いがあっていいのかと思いますが、安全を担保しないと継続できません。あとは旅行に行くときって一緒に行く人がどういう人かで楽しさが変わりますよね。

そういう意味で一緒に行くスタッフの質も上げていかなければと思い「リハビリ旅行療法士養成研修会」を既に三回行っています。在京で二日間目標設定や接遇の座学を行い、一泊二日実際に現地で女将さんから接遇の実技を行いました。あとはホテルの家屋評価をしたり、露天風呂でどう介助をするのか貸し切ってみんなで水着を着て行いました。観光協会の理解と協力がないとできないですね。だからこそ利用者さんも旅行にいったときに安心していくことができるし、スタッフも安心して連れていけることができます。


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阿部先生: 一年に一回「リハビリ友の会」というのが行われるのですが、リハビリ旅行に行った利用者さん同士で報告会をします。スライドを使ってどこに行ったとか、行った先でどのようなことにチャレンジしたかを報告して、最後は皆さんの前で表彰します。三回行いました。報告しあうと自己効力感、できる自信がつきます。人間は自信がないと行動に移せないですよね。自己効力感を高めるうちの一つに代理体験というのがあり他の人が経験しているのを見て、自分もやってみようと思うことです。例えば長嶋茂雄さんのリハビリをみて自分も頑張ろうと思うのが例です。そういったことも期待して行っています。

物理療法を在宅に

インタビュアー土屋:今後の展望を教えてください。

阿部先生:旅行に行っていると、着替えなどの生活行為の介助はヘルパーさんの方が上手いです。現在スタッフにヘルパーさんは入っていないので、一緒にリハビリ旅行事業をしていただきたいと思い、今度はリハビリ旅行ヘルパーの養成会を今秋に予定しています。また、リハビリ旅行に協力していただく観光組合の拠点を増やしていくこと、全国どこでもリハビリ旅行に行ける体制を整えたいので今どうすればいいのかを考えています。

2020年に東京オリンピック・パラリンピックが控えているので海外の障害を持った方も日本にたくさん来ていただけること目標として考えています。昨年から産業リハも取り組んでいます。従業員が元気にならないと企業が元気にならないということで、会社で働いている人の健康管理というところで例えば腰痛を起こさないための指導やうつ病のサポート。うつ病のきっかけは体の不調からきていることもあり、呼吸パターン、体力低下など特有な症状が出現するため身体からアプローチをする、復職支援にも取り組んでいます。


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あとは、物理療法をもっと在宅に活用できたら訪問リハの幅ももっと広がるのではないかと思っています。日本では物理療法をうまく取り入れている人が少ないので。 それがすべてではないですけど、ひとつのきっかけとして入れ込むことが大事かなと思います。小型の経皮的電気治療器や超音波をカバンの中に入れていつも持ち歩いています。“押しつけにならないような形で必要なものを必要な人に必要なだけ届ける”ということをモットーとしています。

インタビュアー土屋:最後に学生、新人理学療法士の方にメッセージをお願いします。

阿部先生:僕が実習の時に“疑問を持つこと。疑問を解決するための努力を惜しまないこと。”をバイザーから言われました。まず疑問を持たないと始まらないですよね。どうしてだろう。他に何かできることはないかなと。そうしたらそれを解決するための努力を惜しまないこと。思っても行動しない、解決する努力をしないのはもったいないですね。目の前の現象がありどうしてこの人こうやって歩いているのだろうとか疑問なんていくらでも思いくと思います。 目の前の現象をとらえず何かフィルターが掛かっていると見えるものも見えなくなると思います。純粋に捉えると色々なものが見えてくるはずです。

病院で実習生を担当していた時に言っていたことは“知識は求めていません。分からないことをどうやったら解決することができるのか。解決の仕方を学んでください”と 必ず言っていました。そうじゃないと応用が利かないですから。知識は教科書を見ればいくらでも分かります。分からないことをどうやったら分かるようになるのか。 よく“先生がどのように勉強しているのか。オススメの本を聞いてみてごらん”と言っていました。呼吸器や中枢など好きな本がそれぞれあると思うので。聞くことが大事だと。僕は同職種やドクターにもよくオススメの本や勉強法を聞いていて、あるとき脳神経外科の女医さんに神経回路の勉強法を聞いたところ、自分で紙と毛糸で模型を作ったと言っていました。意外な発見がありますよ笑

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医療は命を守る最適なサービスで、介護保険はその人の生活の質をいかに支えるかという最低限のサービスですよね。人の人生に係われるということは素晴らしい仕事だと思いますただ、そこで我々がいかに色々な選択肢を提示することができるかが大事です。それを選択するのが利用者さんやご家族で、ある意味生活の仕方、生き方の選択だと思うので、どれだけたくさん提示することができるかがセラピストの技量だと思います。たくさん提示することができるように様々な経験、バイトや勉強以外の事、 勉強は当たり前としてそれ以外のプラスアルファをどんどんやり、僕自身もまだまだですが、幅を広げていくということが大事なのではないかなと。日本はこれから人口が減っていくため障害を持った方でも社会復帰、復職支援できるようにしていくのもこれからセラピストの仕事になっていくと思います。支えられる人をいかに支える側にまわすか。それが大事ですね。

阿部勉先生経歴

平成4年 東京都老人医療センター理学療法科勤務平成6年 東京理科大学 理学部物理学科卒業
平成14年 筑波大学大学院 教育研究科リハビリテーションコース卒業
板橋区役所前診療所勤務
東京都老人総合研究所 疫学部客員研究員兼務
平成15年 リハビリ推進センター株式会社代表取締役
平成20年 植草学園大学 保健医療学部 講師兼務
平成22年 首都大学東京大学院 後期博士課程 修了

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阿部勉先生-リハビリ旅行から学ぶ在宅ケア-

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