キャリアコンサルタントが徹底サポート

【運動器7】なぜ解剖学的肢位は前腕回外位なのか?

18646 posts

なぜ解剖学的肢位は前腕回外位か考えたことがありますか?
その理由はヒトにおける上肢の役割を考えると推察することが可能です。

日曜日担当の東馬込しば整形外科勤務兼Crawling Lab代表稲垣です。

今回から自身が臨床で考えてきた手部について解説していきます。みなさん、なぜ解剖学的肢位は前腕回外位か考えたことはありますか?その理由はヒトにおける上肢の役割を考えると推察することが可能です。

 

ヒトにおける上肢の役割とは 

 一般的にヒトにおける上肢の役割は非荷重位における「把持動作」だと考えられています。進化や発達過程で地面に接地させていた手を非荷重位にする事で色々な把持動作を獲得しました。

 

 

その非荷重位における手部や上肢の動きが脳を発達させたともされております。

確かに上肢の役割は「把持動作」ですが、これだけでは臨床上、色々と解釈出来ない現象が生じてきます。その一つが手部からの反応です。

 

 

みなさんも臨床で手部や上肢に介入した事はあるかと思います。その際に手部や上肢に介入しただけで姿勢やバランス能力が改善した経験をされたこともあるのではないでしょうか。では、改善した理由は何故だと考えておりますか?

 

 

「上肢の力が抜けたから」

「上肢が安定したから」

「感覚刺激によるもの」

「カウンターとしての反応が使えるようになったから」

 

 

などを耳にした事はないでしょうか。どれも抽象的ですよね。抽象的な理学療法の中でも、手部や上肢からの介入における反応の説明は特に抽象的だと感じております。

 

 

それだけ手部や上肢に関しては明確化されていない部分なんだと思います。実際に臨床現場でも、肘関節や手関節における疼痛は、下肢の疼痛みたいに劇的に変化しにくいと感じております。

 

これが荷重位と非荷重位の違いなのか、下肢ほど運動連鎖などバイオメカニクスが明確化されていないからかは定かではありませんが、疼痛軽減に難渋する例は多いかと思います。

 

 

そこで自身はどのようにしたら手部からの反応を把握しやすいのか、なぜ手部をコントロールすると身体機能が変化するのか、とても悩みました。

 

 

そして出した答えが「ハイハイ時の手部の反応」なのではないかと考えてました。

PTになりたてだったころ、手部における反応は四つ足動物や四足歩行の名残りだとかは聞いた事はありましたが、誰も明確に述べられる方はおりませんでした。

 

 

そもそも名残りとかの前に、今現在も発達過程でハイハイ動作時に手部を使うからその動きを反映しているのではないかと考えたのです。そして今ではヒトにおける手部の役割は、「荷重位での支持機能」「その機能を反映させた把持動作」と捉えるようになりました。

 

 

ここで少し分かりやすいようにイメージをつけてもらいたいと思います。

これは手部を荷重位にした状態での並進動作の左右比較(図1)と、手部を非荷重位にした座位での並進動作の左右比較です(図2)。

 

 

図1:手部を荷重位にした状態での並進動作(左右比較)

 

 

図2:手部を非荷重位にした状態での並進動作(左右比較)

 

 

いかがでしょうか。四つ這い位でも座位でも左並進の方が移動しているように感じませんか

同一人物が四つ這い位と座位で並進動作を行なっているので、一見当たり前のように感じるかもしれませんが、ここに手部からの反応の秘密が隠されていると考えております。

 

 

 

また、手部のみではなく、上肢においてもイメージすることは可能です。みなさん、肘関節の機能解剖は分かりますでしょうか。肘関節は屈曲に伴い内反して、伸展に伴い外反するってやつです。では、なぜそのような動きが存在するのでしょうか?

 

 

よくこの質問をしたときに「そのような骨構造だから」など言われることがあるのですが、では、「なぜそのような骨構造」なのでしょうか。その理由はハイハイ時の上肢の動きに隠されております。一度ハイハイ動作を行ってみてください。

いかがでしょうか。わかりましたか?

 

 

そうです。ハイハイ動作時には、手部を接地させ衝撃吸収するために肘関節が屈曲―内反しやすいと思います。その後、推進力をつけて上肢で蹴り出す(前肢として)際に肘関節が伸展―外反しやすいと思います。

 

 

このように荷重位におけるハイハイ時の上肢の動きが非荷重位における上肢の動きの基になっているのだと思います。この理論がより明確化となり、手部や上肢へに介入も明確化すれば、曖昧な上肢疾患を治療する糸口になるのではないかと思っております。

 

 

だいぶ前置きが長くなってしまいましたが、今回はこの荷重位における手部と身体反応を説明するための総論をお話しさせていただきます。

 

 

なぜ解剖学的肢位は前腕回外位なのか?

 みなさん疑問に思った事はありませんか?なぜ解剖学的肢位は前腕回外なのでしょうか?自身も色々と調べましたが、明確な理由をみつけることはできませんでした。

 

 

「前腕回外位の方が解剖しやすかったから」

「前腕回外位では筋や神経、血管が捻じれないから」

 

 

など、色々と意見はあるかと思いますが、私自身どれもしっくりきていません。笑 この理由も荷重位における手部と身体の関係をみると見えくるものがあります。自身が考えた答えはこれです。上肢帯において「解剖学的肢位と四つ這い位には共通する部分がある」です。

 

 

意味わかりませんよね?ごめんなさい。できるだけ丁寧に詳しく解説していきます。

共通する部分とは肩甲骨と上肢の面が致するという事です。

まず、解剖学的肢位では周知の通り、肩甲骨、上腕、前腕の背側面のすべてが後方を向いており、面が一致しております(図3)

 

図3:解剖学的肢位における肩甲骨、上腕、前腕の面の一致(後方)

 

 

四つ這い位ではどうかというと、肩甲骨背側面は上方?を向き、上腕、前腕の背側面は前方を向いているように見えます。これでは面が一致していないように感じますね。

しかし、下の図4を見てください。

 

図4:ニホンザルの骨格標本(肩-その機能と臨床-から引用改変)

 

 

これはニホンザルの骨格標本です。肩甲骨背側面はしっかりと前方を向いています。ヒトの四つ這い位では肩甲骨の背側面が前方を向いているようにはみえませんが、安静座位でも肩甲骨は軽度前傾しております。その形をそのまま四つ這いにしてみると肩甲骨背側面も軽度前方を向いていることになります。つまり、四つ這い位の状態では、肩甲骨と上腕、前腕の背側面はすべで前方を向いており、面が一致していると考えられます。

 

 

これで少しはお解り頂けたでしょうか。

解剖学的肢位でも四つ這い位でも、前方と後方の向きは違えど、上肢帯における肩甲骨、上腕、前腕の全ての面は一致していると考えられます。

 

 

このため、乳幼児期から四つ這い位やハイハイ動作で身体を発達させ、形成していった形を、より正確に反映した肢位解剖学的肢位なんだと考えられます。そのため解剖学的肢位は前腕回外位なんだと思います。

そして、この前腕回外位が手部からの反応を理解していくために重要であると考えておりますので、是非覚えておいてください。

総論のもう一つは、ハイハイ時の上肢の動きについてです。

 

 

ハイハイ動作時の上肢の動き

 ハイハイ動作時の上肢の動きは歩行時に下肢と明確に違うところがあります。

それは「肘関節と膝関節の向き」です。

ハイハイ動作時における肘関節は屈曲すると後方に前腕が傾斜しますが、歩行時における膝関節は屈曲すると下腿が前方に傾斜いたします。

この傾斜が異なるために下肢と上肢の運動パターンは少し異なると考えております。

例えば、足関節底屈に伴う矢状面の運動連鎖は、膝関節伸展―股関節屈曲ですが(図5)、手関節掌屈に伴う矢状面の運動連鎖は肘関節伸展―肩関節伸展と考えられます(図6)。このように肘関節と膝関節の屈曲する方向が異なるために、少し下肢とは違い運動パターンを行うことは少し頭に入れておいたほうがよいかと思います。

 

図5:足関節底屈に伴う運動連鎖

 

図6:手関節掌屈に伴う運動連鎖

 

 

 

上記のように

①四つ這い位は立位時の解剖学的肢位とリンクする

②上肢における運動連鎖は下肢と異なる(屈曲方向の違い)

 

は手部からの反応を理解していくうえで、とても重要ですのでご興味ある方は覚えておいてください。

次回はこの点を活かしてより詳細な手部からの運動連鎖は提示していきたいと思います。

 

 

【目次】

第1回:インソールの技術をハンドに応用する

第2回:運動療法の効果を上げるポイント①-頭位を固定する意義-

第3回:運動療法の効果を上げるポイント②-背臥位から腹臥位へ介入した方が良い3つの理由-

第4回:背臥位から歩行動作を予測する10のアライメント評価 (前編)

第5回:背臥位から歩行動作を予測する10のアライメント評価 (後編)

第6回:番外編「理学療法エステ」の名称使用は違法なのか?

第7回:背臥位から歩行動作を予測する10の筋緊張評価(前編)

第8回:アライメントの偏位をどう解釈するか?-骨盤後方偏位のメリットとデメリット―

第9回:個人で特許出願はできるものなのか?

第10回:なぜ解剖学的肢位は前腕回外位なのか?

【運動器7】なぜ解剖学的肢位は前腕回外位なのか?

Popular articles

PR

Articles