10月7日、佐藤らの研究グループは、モデル動物にて、大脳皮質損傷後の回復時、運動機能に関係する新たな神経路が作成されることを発見した。
▶脳損傷後に新たに形成される神経路を発見-脳の変化を適切に促すことで運動機能が回復する可能性-
研究グループは今回の研究を実施するにあたり、第一次運動野が損傷した際の運動機能を、運動前野腹側部が代償したとき、どのような神経路の変化が生じているのか着目した。
研究の内容では、第一次運動野損傷後に運動前野腹側部で生じる神経路を観察するため、ビオチン化デキストランアミン(BDA)という解剖学的トレーサーを使った組織化学的解析を実施した。
このBDAは神経細胞の細胞体に取り込まれ、軸索内の終末に至るので、運動前野腹側部に注入し、1か月後のBDAを含む軸索終末(BDA陽性軸索終末)の分布を観察した。BDA軸索終末の分布を、脳損傷を受けていない個体(健常個体)と第一次運動野に損傷を作製して手の運動機能を回復した個体(脳損傷個体)の2つで比較した。
その結果、健常個体ではBDA陽性軸索終末が小脳核にみられたなかったことに対して、脳損傷個体ではBDA陽性軸索終末がみられた結果となった。さらに研究グループは、脳損傷個体の小脳核では新たに神経路が形成されたと考え、BDAとシナプスの構成タンパク質を多重蛍光染色した。
結果、BDA陽性軸索終末の一部はシナプス構成タンパク質を発現することが明らかとなり、脳損傷後の回復過程にて運動前野腹側部から小脳核に新たなシナプスが作られたことを示唆するものとなった。研究グループは、今回の結果から新しい代償的な運動出力路(運動前野腹側部→小脳核→脊髄)が形成された可能性があると考えている。
今後の予定として、産総研では遺伝子レベルの変化、理研では神経ネットワークの構造変化を解析して、脳損傷後の機能回復に関係する詳細な過程を多角的に解明し、産総研を中心に、得られた知見を外部機関に展開させ、連携による新しいニューロリハビリテーション技術の開発を目指すと述べている。