【理学療法】坐骨神経痛の原因は神経か?筋か?

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「坐骨神経痛を徒手療法で治す」というネット上で良く出会うパワーワード。「おそらくこういうことを言いたいんだろうな」と想像しながらまとめてみました。神経因性疼痛、神経障害性疼痛、非特異的腰下肢痛の再確認と腰下肢痛に対するNICEガイドラインを盛り込んだ坐骨神経痛の記事です。

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Buenas noches!terapeuta!(スペイン語でこんばんは療法士のみなさん)、週の真ん中水曜日の江原です。理学療法士が最も関わると思われる慢性疼痛、腰下肢痛。腰部が原因で生じる坐骨神経痛を筆頭に神経絞扼症状の梨状筋症候群など多くの疾患があります。

 

坐骨神経痛はその名の通り神経の異常で生じる疾患のはずですが、「徒手療法で坐骨神経痛が治った」というネット上の広告や書き込みをかなり多く散見します。実際のところどうなんでしょうか?本日は「坐骨神経痛の痛みは神経の痛みが原因である」を命題に、チーム医療において理学療法士が坐骨神経痛に対してやるべきことを整理します。

本日のトピックス

坐骨神経痛の基本情報

神経因性疼痛と神経障害性疼痛

坐骨神経痛の原因は神経か筋か

チーム医療の中で坐骨神経痛に対してどのようにかかわるか

坐骨神経痛の基本情報

坐骨神経痛の定義は一般的に坐骨神経の支配領域である部位に痛みを生じる疾患の総称です。症状の多くは片側の腰部・臀部~下肢のしびれや痛みであり、体動時に痛みが増強します。腰部脊柱管狭窄症の症状の一つである間欠性跛行も坐骨神経痛に含まれる症状であります。

症状

・痛み・しびれ(重症化することもある)

・筋力低下

・感覚鈍麻

・排尿・排便障害(膀胱直腸障害)

病態の80~90%が腰椎疾患によって二次的に神経根障害が起こる根性坐骨神経痛といわれており、神経の陰性徴候の一つの感覚鈍麻が起こります。場合により筋力低下が認められることもあります。このように定義からも坐骨神経痛は原因のほとんどが神経根障害に該当するでしょう。

 

神経が原因の慢性疼痛は「神経障害性疼痛」と定義されているとSPOT Writerでもたびたび書いてきました。坐骨神経痛も該当するのかどうか、一度神経障害性疼痛の定義をおさらいします。

神経因性疼痛と神経障害性疼痛

神経が原因となる痛みは以前は神経因性疼痛(neurogenic pain)と呼ばれていましたが、1994年に神経因性疼痛と神経障害性疼痛に分けられました。神経因性疼痛は一時的な末梢・中枢神経の不調を伴う神経痛で、正座の後に生じるあの触れてほしくない下肢のしびれも含まれます。余談ですが正座の後のしびれは阻血による血流障害とその解除によるATPの合成や、静止電位異常の回復過程で起こります。

 

一方神経障害性疼痛は、いくつかの定義変更を経て『体性感覚神経系の損傷や疾患によって引き起こされる痛み』と定義されています。

末梢神経障害性疼痛は、神経損傷または疾患によって引き起こされる可能性があります。 重要な原因には腰椎神経根障害「坐骨神経痛」、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパチー、HIV関連のニューロパチー、慢性的な術後痛が含まれます。

Peripheral neuropathic pain can be caused by nerve injury or disease. Important causes include lumbar radiculopathy (“sciatica”), postherpetic neuralgia (persistent pain after a shingles episode), diabetic neuropathy, HIV-related neuropathy, and chronic postsurgical pain.

IASP FACT Sheet

 

原因としては、末梢神経の損傷や機械的刺激、変性、過敏化などが影響し病的状態となります。上記の通り坐骨神経痛だけでなく、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパチー、HIV関連ニューロパチー、術後痛など多くの要因で神経の異常が出るようです。ここまで整理すると坐骨神経痛はもう完全に神経障害性疼痛だとしか思えません。神経障害性疼痛は求心路遮断痛なども含まれていて非常に重篤な痛みの症状を作る疾患です。

 

話を元に戻すと、本日のテーマは坐骨神経痛の痛みは神経なのか筋なのか、徒手療法で坐骨神経痛は改善できるのかどうか?というところでした。末梢神経の異常を体表上からの徒手療法で改善できるわけないですし、病態とその回復過程を論理的に説明するのは無理です。

 

しかし、その一方で「坐骨神経痛持ちです」といいながらランニングもできてしまう患者もいます。謎は深まるばかりですが、トランキーロ(スペイン語で焦るな)!この良くわからない病態についての結論を、参考文献の病態の項から引用しましたのでよくお読みください。

鑑別疾患としては、骨折や打撲による局所の痛みの他、椎間関節・仙腸関節の炎症による痛み、およびその関連痛、腰下肢に分布する筋肉における筋・筋膜性疼痛、閉塞性動脈硬化症などの血行障害によるものが挙げられる。

参考文献より引用

坐骨神経痛の原因は神経か筋か

命題通り「坐骨神経痛は神経障害性疼痛に分類される神経の痛み」ですが、一方徒手療法で改善する坐骨神経痛も存在します。これは『医師が腰下肢の筋筋膜性疼痛を鑑別しきれずに坐骨神経痛と間違えて診断した腰下肢痛患者』に対して徒手療法を行っていたのではないかと推測できます。筋原性疼痛が一部混在し、坐骨神経痛と思われた腰下肢痛が改善しただけであります。鑑別も間違いでありますし、それを勘違いして「坐骨神経痛を改善させた」と認識していた理学療法士にも問題があると言えます。

 

私もペインクリニックの臨床では、初診時医師の診察の途中に入り器質的な症状と筋筋膜症状をアセスメントして医師に伝えますが、内服治療や神経ブロック療法の効果が頭打ちの患者の中にはかなりの確率で筋筋膜症状が混在している方が多いです。このような症例では画像所見と症状の一致、圧痛の有無、神経徴候の確認を行いますが画像所見と一致した神経徴候が評価される場合は非常に稀だと思います。

 

このように坐骨神経痛は総称のため、様々な要因が混在しやすい神経障害性疼痛疾患と言えます。したがって総称として坐骨神経痛を使ってしまいがちですが、筋筋膜要因の場合は腰下肢痛ではあるが坐骨神経痛ではないということ知っておくべきです。

チーム医療の中で坐骨神経痛に対してどのようにかかわるか

「神経障害性疼痛の坐骨神経痛」に対しては、効果を示す理学療法のエビデンスはありません。神経障害性疼痛そのものに対しては医師の治療を行うべきです。理学療法・リハビリテーションとしては筋委縮予防のために行うことが提唱されています。坐骨神経痛と間違えやすい筋原性疼痛は、問診や画像所見程度の評価では神経障害性疼痛と混同してしまう可能性が高いです。医師診断や治療効果を下支えする、理学療法での機能評価から得られた情報がそのミスを減らすのではないかと私は考えていまして、評価結果を医師に伝え神経ブロック療法の診断的治療等に活用するシステムを職場で作っています。

 

ネット上でみる坐骨神経痛に関する記載では、坐骨神経痛に対する筋原性疼痛を改善させたことから「整形外科医は当てにならない。理学療法士が痛みを治せる」という結論を導こうとする動きが以前にありました。当てにならないのではなく混在する痛みは診断を間違えやすいのです。チーム医療の仲間に不利益を与えるより、しっかり評価して報告することが数倍も患者には有用だと考えています。

 

また坐骨神経痛を含む腰下肢痛に対して徒手療法はどの様に扱えばいいのでしょうか?

 

イギリスのNICEガイダンスで紹介されている、腰下肢痛に対する図案化したインフォグラフでは腰下肢痛の診断から運動処方までをフローチャート化しています。そこではスクリーニングテストで比較的問題がなかった患者は徒手療法は運動療法を組み合わせて使うことを推奨しています。適応に応じて使えば徒手療法も無駄ではありません。このように痛みの原因が比較的明確な場合もあります。はっきりした急性痛である器質的な痛みも、そして混在する痛みもありますので、医師と意見交換を行い診断に有用な情報を送れるようにするとよいですね。

 

本日はこれまで!Adios!(スペイン語でさようなら)

この記事を書いた江原先生による慢性腰痛の講習会

慢性腰下肢痛のリハビリテーション

腰痛や坐骨神経痛などの下肢痛に対して理学療法を実施しても、あまり効果的ではないと感じ悩んだことはありませんか?痛み治療に特化したペインクリニックでは、腰下肢痛に対しては医師と理学療法士が分業して治療しています。理学療法士は主に診断に基づき、診断の補助やトリアージを行いますが、実はこの過程が非常に重要なのです。

トリアージを適切に行うことで、臨床での悩みはかなり改善すると思います。知識と経験を要する領域ですが、評価フローを使えば確実性は高まるのではないかと考えています。そこで今回は、【慢性腰下肢痛のためのTo Doリストを作りました】。侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・痛覚変調性疼痛や認知情動面の影響をトリアージして、慢性腰下肢痛にメカニズムベースのアプローチを実践していきましょう。

講師プロフィール

江原 弘之先生
運動器認定理学療法士・いたみ専門医療者・公認心理師
西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科 部長
NPO法人ペイン・ヘルスケア・ネットワーク 代表理事

プログラム

・慢性腰下肢痛で知っておいた方がいい「痛み」の知識
・痛みの構造化問診票・9つの質問
・痛みの評価フローとトリアージ
・理学療法評価の活用方法
・理学療法の守備範囲とチーム医療
・症例提示

◆概要
【日時】 3月24日(金) 21:00~23:00
【参加費】3,300円
*POST有料会員は無料で受講可能です。
有料会員はこちらをご確認ください。
【参加方法】ZOOM(オンライン会議室)にて行います。お申し込みの方へ、後日専用の視聴ページをご案内致します。

申込▶︎https://chronic-pain.peatix.com/

慢性非特異的腰下肢痛に対する徒手療法の扱いについて確認しよう

Low back pain and sciatica: summary of NICE guidance

参考文献

ペインクリニック治療指針改訂第6版

 

【目次】

第1回:私が経験した慢性疼痛に対する1つの大きな勘違い

第2回:慢性疼痛の種類と痛みの評価~どこがなんで痛いのか~

第3回:一次性慢性疼痛をコントロールせよ①~慢性骨盤内疼痛症例~

第4回:骨盤内の痛みは3ステップで見極める~一次性慢性疼痛をコントロールせよ②~

第5回:脊柱モーターコントロール評価と会陰部痛~一次性慢性疼痛③~

第6回:両肩・両上肢痛はPMRを見逃すな

第7回:今僕らが「ママさんの腱鞘炎」にできること

第8回:「毎回VASで痛み診るのがめんどい」と感じた理学療法士が読むコラム

第9回:痛み有訴率オッズ比約2.6!心的状況「アレキシサイミア」とは

第10回:慢性非特異的腰痛へのOberテスト活用法

第11回:私が考える『認知行動療法的運動器理学療法』

第12回:慢性疼痛リハビリに向き合うただ1つの資質

第13回:変形性膝関節症の多様な痛みを把握しよう

第14回:『偏頭痛』ウラ話~頭痛に対する理学療法士の正しい作法シリーズ①~

第15回:歩行観察なんか大嫌い~批評と今後の展望~

第16回:臨床での『想定外』がリハビリにもたらす事象~ホリエモンから脳科学まで~

第17回:この秋に行きたい痛み関連学会4選

第18回:緊張型頭痛と運動器理学療法~頭痛に対する理学療法士の正しい作法シリーズ②~

第19回:痛みのfear-avoidance modelを臨床でちゃんと使いこなすコツ

第20回:症例報告・腹部痛3例のリハビリテーション経過

第21回:児童虐待と慢性疼痛

第22回:母指機能が痛みの運動療法にもたらす効果

第23回:痛みとともに生活する高齢者へのリハビリの注意点

第24回:『肋骨がえぐられる痛み』心因性疼痛の再考と理学療法

第25回:発達運動学と身体機能評価から見た痛みのブリッジ運動と指導

第26回:睡眠時の腰背部痛に対する学際的アプローチと理学療法

第27回:増悪因子から考える片頭痛への運動療法の影響~頭痛に対する理学療法士の正しい作法シリーズ③~

第28回:慢性頚部痛への全身的な運動療法~徒手との比較研究と臨床応用~

第29回:母指IP伸展促通で改善した手関節痛症例

第30回:知っててよかった慢性疼痛とクスリの話

第31回:運動器の理学療法士が医師に進言するタイミング

第32回:嘘つき患者・ミュンヒハウゼン症候群を疑った時に理学療法士ができること

第33回:痛み増強時こそ発揮すべき理学療法士の臨床判断

第34回:坐骨神経痛の原因は神経か?筋か?

【理学療法】坐骨神経痛の原因は神経か?筋か?

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