ヨーロッパは療法士の”住み分け”ができている
POSTインタビュアー:よろしくお願いします。いきなりなんですが、なぜ今回ヨーロッパへ行かれたのでしょうか?
中川先生:孔子の言葉に『けいこ春分を知らず』という言葉があります。
蝉は夏しか知らない(春や秋を知らない)から、夏すら知りえないという意味ですが、リハビリテーションにおいても日本のリハビリテーションしか知らないということは日本のリハビリテーションすら知りえないのではないかと思っています。
また日本におけるリハビリテーションは誤訳されているともいわれていますが、その真意を追求したいと思い、本場欧州へ行ってきました。
POSTインタビュアー:今回は約1ヶ月の滞在とお聞きしましたが、どちらの国に行ってきたのですか?
中川先生:フランスから入り、イタリア、オランダ、ドイツ、デンマークと周遊していました。
フランスでは入国翌日に近くでテロがあり、驚きましたね。たくさん日本からメッセージを頂いて知りました。ちょうど診療所で研修中のことでした。
POSTインタビュアー:その中で印象に残る国はどこでしたか?
中川先生:5カ国で診療所や福祉施設、教育機関など含めて40ほどの視察をしてきました。それでも文化を知れずにはその制度や取り組みは知りえないので、今回の短期間では答えるのは難しいですね。
ただイタリアは楽しかったです。観光地でも有名な漁村の島で滞在していたのですが、とにかく挨拶がすごいです。自転車に乗っていようが、電話をしていようが、橋を渡っていようが挨拶をしていました。
最近注目されている社会関係資本(Social Capital)が豊かなのではないかと感じました。その割に立ち話は少ない、ドライな関係性なのでしょうか。
日本では徳島県海部町は自殺率が最も少ない地域なのですが、そこにある関係性と近いように感じました。また精神科病棟が20年ほど前に廃止されていたりしていて、どのようになっているのか気になっています。カトリックの本家ですので、考え方も大きく異なるのでしょうね。
あとは世界一幸せな国デンマーク。徹底した民主主義をみられました。国家に権力はないと言うデンマーク人は素敵でした。教育機関にも行きましたが、非常に面白かったですね。OECD1位の教育がみられました。
POSTインタビュアー:実際にヨーロッパのリハビリテーションをみてどうでしたか?
中川先生:日本人にリハビリテーションは何か?と問うと、訓練だとか運動だとか、下手したらマッサージという答えが返ってくると思います。向こうではリハビリテーションと問うと、社会復帰や自立支援と返ってきます。
さすが、ジャンヌダルクのリハビリテーション裁判が起源なだけあって、社会通念として、リハビリテーションが認知されており、ものすごく羨ましく感じました。
そういうわけですから、療法士の棲み分けもしっかりしています。理学療法士は開業権を持っていますが、Physio Therapy(理学療法)という看板を掲げています。選ぶ側もしっかりその意味を知って来院するのでしょうね。
またリハビリテーション部というと日本では療法士しかいないことが多いですが、向こうではいろんな職種が集まってリハビリテーション部を形成しています。このあたりも非常にうらやましいですね。
医療従事者のモラルが高い
インタビュアー:地域医療が発達していると聞きますが、そのあたりはどうでしたか?
中川先生:欧州は地域の医療資源が大きく発達しています。数十年も前から今後の高齢化を考えて、地域での医療充実化を図っています。なので、急性期の在院日数はどこも一桁です。
福祉国家デンマークなどでは人工関節術後でも翌日には居宅系の施設へ行くのが当たり前のようです。居宅系の施設で訪問看護や訪問リハビリテーションを受けます。
なぜそのように在院日数を早められるかというと、退院支援は入院と同時に始まるからです。また居宅系施設に移動したときに、同時に家屋評価も行います。ですので、目標をはっきりさせてから、リハビリテーション職は関わっています。
インタビュアー:なるほど。そのことで具体的に現地の療法士に何か聞きましたか?
中川先生:デンマークの療法士にシームレスな移行が素晴らしいと伝えたとき、当たり前だよ、目標なしには関われない、税金も使っているのだから。との返事でした。
医療従事者としてのモラルが高いというか、衝撃を受けましたね。目的を持って初めて関われる、そういう姿勢でありたいなと強く感じました。提供する側がそういう姿勢だと受ける側もきっと変わりますよね。
また認知症はどこも問題視していて、大統領・首相クラスがリーダーシップをとって取り決めている国家戦略が練られています。「認知症の人の想いを尊重し、住み慣れた地域での生活の継続を目指す」が各国の共通理念で、実際に認知症者の7割ほどが在宅で暮らしています。
それが達成できるように、市民に認知症は怖くないよという啓発をしっかりされています。なので、認知症を病気だと認識している人は少ないようです。日本では恐怖心を持つ人が多いでしょうか。介護予防教室なんかで認知症をテーマにすると、怖いわぁ~という声があちらこちらから聞こえてきますよね。
認知症問題は有吉佐和子の『恍惚の人』から始まったと聞きますが、大きく変わってきたのでしょうか。あの内容にあるような地域での取り組みなんかを考えていくことが今後の地域包括ケアシステムには求められるだと思います。
<中川RPTがヨーロッパ滞在中にインタビューした先生方>
中川征士先生経歴
フリーランス理学療法士
<現在の活動>
半農半療法士・診療所・訪問看護・西日本ヘルスリサーチラボ・介護予防ネットワーク・竹の園(竹林の管理)・地域リハビリテーション支援センター・SHUHA-Re Project・社会課題を考えるセラピストの会(ATSSI)・暮らしの保健室<所属>半農半療法士/暮らしの保健室さくらい
<運営・掲載ページ(一部)> ・地域に溶け込む新たな形!?半農半療法士とは?(All About掲載)・なぜ半分は農をし、半分は療法士をする半農半療法士をしているのか?(POST掲載)
<受賞歴>
2014年:奈良介護大賞(個人) 奈良介護大賞 中川さんら - 6団体2個人に/あたたか介護賞(奈良新聞)キーワード
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