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山本先生: “発声表現のプロであるヴォーカリストに、発声方法の指導のプロである言語聴覚士が発声を教え、発声時の身体運動のプロである理学療法士が解剖学を教える” そんな興味深いセミナーを先日開催いたしました。今回はそのセミナーをご報告申し上げます。
夏の盛りを少しばかりすぎたセミナー開場には、約20名の方々がご参加なさいました。その方々は、現役のプロヴォーカリストや各種ジャンルのヴォイストレーナー、ミュージカル出演者等、日常的に”音声表現の第一線”におられる方々ばかりです。そのような”発声のプロ”の方々に、我々のような西洋医学の専門職が、どのような役割を果たすことができるのでしょうか。
セミナー冒頭で、私は1つの質問をしてみました。「みなさまは、身体のことを学んだことがありますか?」さて、セミナーに参加された約20名の”発声のプロ”の方々の中で、挙手なさった方は何人ほどいらっしゃったと思われますか。その数字に驚かないでください。なんと0人なのです。
今回のセミナーにご参加いただいた方々の中には、つい最近音楽大学をご卒業されたクラシックの声楽家の方から、何十年とJazzヴォーカルの世界でご活躍なさっておられる方までいらっしゃいます。そのような方々に、失礼を承知で「身体のことを学んだことがありますか?」と問いかけたのですが、誰一人として手が挙がらないのです。
そのような光景を前に、質問者である私は少しばかり驚きながらも、実はこのような答えになることを予想もしていました。と申しますのも、管楽器奏者はもとより、声帯という肉体そのものを使って表現する声楽家でさえ、身体のことを学ぶ選択肢が、日本には皆無であることを私は知っているからです。
“音楽家と身体”を取り巻く環境の国内外の温度差
山本先生:例えば、小学校から高校を卒業するまで、保健体育と称される科目がありますが、身体の知識にどれほど触れることができるでしょうか。現状ではほとんど無いといえるでしょう。また、音楽家を高度かつ専門的に教育する音楽大学や芸術大学においても、身体を使って一日に何時間も楽器の練習や発声の訓練をするにも関わらず、身体のことを学ぶ講義がほとんどありません。
つまり、日本国内において、一人の人間が音楽家として育ってゆく時間軸の中に、身体を学ぶという機会が、幼少の頃から大学を卒業するまでほとんど無いのです。さらに申しますと、現役音楽家としての活躍が始まると、身体のことを学ぶという時間や機会を手に入れることはさらに制限されることでしょう。
このような現状ですので、日本国内の音楽家の身体を取り巻く環境は、残念ながら豊かであるとは決して言えないのです。それでは、海外の現状はどうなのでしょうか。 先日、海外の音楽大学に進学された生徒さんを持つ高校の吹奏楽部顧問の先生が、その生徒さんからこうお聞きになったそうです。
「海外の音楽大学では身体を徹底的に学ぶ。その内容は、日本では学んだことが無いことばかりだ。」
この一言からも読み取れるように、海外においては、音楽家と医学のつながり(私はこれを”アートとサイエンスの架け橋”と表現しています)は特別なものではないのです。科学が芸術をサポートする体制や思想が、すでに当たり前となっており、音楽家が身体を学ぶことは常識となっているのです。
だからこそ、私は今回のようなセミナーを開催したのです。日本の音楽家が、その生涯のうちに身体を学ぶ機会を得られないのであれば、それに気づいた者がその機会を作り、音楽家に提供すれば良いのです。
⇨解剖学・運動学的にみた「歌う」ということ ~音楽家の身体セミナー報告 no.2~
山本 篤先生
バックナンバー:音楽家の身体を支える理学療法士
音楽コラム1:管楽器奏者のブレスについて
音楽コラム2:管楽器奏者の呼吸と姿勢
1995年 行岡リハビリテーション専門学校 卒業
同年 兵庫県立総合リハビリテーションセンター
2014年~ 音楽家専門の身体ケアスタジオ”Merge Labo”開設
Facebook:http://www.facebook.com/MergeLabo
HP:http://www.mergelabo.com
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