他筋と関連の多い前鋸筋
まずはいつもと同じように基本的な知識から学んでいきましょう。
起始 |
1-8肋骨外側面中央部 |
停止 |
肩甲骨の内側縁 |
支配神経 | 長胸神経 |
髄節 | C5ー7 |
作用 |
肩甲骨外転 上方線維:下方回旋 下方線維:上方回旋 |
英語 |
セレータスアンテリア :serratus anterior 略語:SA |
機能上の特徴
前鋸筋と僧帽筋の偶力により、肩甲骨が上向きに回転します。これは、肩の外転と屈曲の際に不可欠です。前鋸筋と僧帽筋は、肩峰下滑液包腔の容積を維持する、肩峰下滑液包の後方傾斜と外向きの回転をガイドする別のフォークレカップルを形成します。
肩甲骨が固定位置にある場合、たとえば、短距離走後の呼吸では、前鋸筋が胸郭を持ち上げ、呼吸をサポートします。また、前鋸筋のリバースアクション(起始・停止の作用が逆になること)は腕立て伏せ時に、肩甲骨が胸郭から浮いてしまうのを防ぐ作用となります。
つまり、翼状肩甲の状態とは前鋸筋がなんらかの理由で機能しなくなり、リバースアクション作用が機能しなくなった結果、胸郭から肩甲骨が浮いた状態となります。詳しい解説を説明していきましょう。
翼状肩甲
前鋸筋の機能低下は、肩甲骨の下方回旋、内転、および肩関節の外転と屈曲の間の前傾を引き起こします。この位置が維持されると、小胸筋の短縮につながり、肩甲骨の前傾と内転が増加します。
翼状肩甲の最も一般的な原因は、長胸神経の損傷であり、前鋸筋麻痺を引き起こします。長胸神経は胸壁の外側を横切って下降し、前外側胸部手術中に損傷を受けやすくなります。
前鋸筋麻痺の他の原因は、外傷、激しい仕事、陸上競技、麻酔、感染症、特発性の原因です。長胸神経の神経弛緩症は、圧迫または伸展損傷から生じる可能性があります。
前鋸筋痛症候群(SAMPS)とトリガーポイント
非心臓性の慢性胸痛は不均一な障害であり、筋筋膜性疼痛症候群は見過ごされがちな原因で、単一の筋肉またはいくつかの機能的な筋肉単位に影響を与える可能性があります。
一般的にトリガーポイントとして説明される緊張したバンドによって特徴付けられます。この症候群には一連の症状が含まれ、その1つは、腋窩中央線の5番目から7番目の肋骨を覆う痛みです。
関連痛は、前胸壁、腕の内側、そして最後に同側の指輪と小指に向かって広がることがあります。SAMPSの痛みは、断続的または一定の場合があります。前鋸筋は主に以下に関連します:
- ・肩甲骨の間の痛み
- ・ゴルファーの肘の痛み
- ・肋骨の痛み
- ・腕の痛み
評価
MMT
国家試験でもよく出題されるものですが、以下の図のように肩関節屈曲時の前鋸筋収縮を他方の手にて触知する方法です。3以下の場合には、上肢を支え重力の影響を除いた状態で収縮を触知します。
下図他のテストでは、肩関節屈曲90°肘関節伸展の状態から検者は肩甲骨に対して軸圧をかけるテストが行われます。この時、翼状肩甲様の反応が見られる場合は前鋸筋の弱化が考えられます。
前鋸筋の筋トレ
チューブトレーニング
前鋸筋のトレーニングは様々な方法がありますが、セルフエクササイズ可能なものを今回はお伝えします。
①下記の図の通り、チューブを両手で持ちます。
②肩甲骨の位置は変えずに、上肢を前方に伸ばし肩甲骨も外転させます。
③注意点としては、肘を伸ばしたまま行い背中が丸くなるまで腕をリーチします。
④10回を1セットとして3セット行いましょう。
*負荷量はゴムの強度と長さ調節にて行います。
自重トレーニング
自重によるトレーニングでよく行われる方法は、以下の窓拭き運動です。プッシュアップでは強度が高い場合には、食のトレーニングとして以下を行います。
①下記の図の通り、両手で壁を触りましょう。
②トレーニングする側の手に雑巾(濡れていると負荷量が高まります)を持ちます。
③リーチ方向は、肩関節のゼロポジション(肩関節が安定する位置)の方向を目指します。
④10回を1セットとして3セット行いましょう。
*)トレーニングは重さで決まるのではなく、重さと回数の総重量で決まります。つまり、50kgを1回持ち上げるのと、10kgを5回持ち上げるのではトレーニング効果が同じです。怪我予防のためには、少ない不可で多い回数行うほうが安全です。
*)負荷量は徐々に増やしていきましょう。重りの目安は、10回ギリギリ持ち上げられる重さ(10RM)が理想です。
参考文献
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK531457/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22638721/