千葉大学大学院医学研究院整形外科学の研究グループ(独立行政法人国立病院機構 下志津病院 整形外科 佐藤崇司医師(研究当時:千葉大学医学部附属病院整形外科医員)、未来医療教育研究機構 清水啓介特任助教、医学研究院整形外科学 大鳥精司教授ら)は、既存の治療方法が効きにくい慢性腰痛症の患者さんへの運動療法として、Nintendo Switch『リングフィットアドベンチャー(以下 RFA)』*1)を実施することで腰痛や臀部痛の軽減、痛みに対する自己効力感注 2)が向上することを明らかにしました。
本研究成果は学術誌 Games for Health Journal に掲載されました。
▶︎https://www.chiba-u.ac.jp/others/topics/info/post_983.html
研究の背景
難治性とされる慢性腰痛症は強い痛みを自覚する一方で、画像診断等では障害や病変の原因などを特定できず原因不明と診断されることが少なくありません。内服や注射、リハビリ、手術などあらゆる治療が行われてきましたが、満足な効果を得られないことが多く、新たな治療法が望まれています。
近年の研究では、中枢神経系における痛みのブレーキシステムの破綻や抑うつなどの心理社会因子が痛みを強めていることが明らかとなり、認知行動療法も積極的に取り入れられてきましたが、効果がない患者さんも一定数存在します。
また運動療法も一定の効果がある一方で、継続困難なケースも多く、「誰しもが楽しく気軽に、そして継続的に運動をすることができる」手段が求められていました。RFA は、その高いゲーム性や本格的なフィットネス要素により、痛み治療の新たな治療ツールとなる可能性があると考えました。
結果と今後の展望
本研究は、千葉大学医学部附属病院を受診した難治性腰痛の患者さん 40名を対象としました。通常の内服治療に加えて週に 1 回 40 分間の RFA を実施する介入群 20 名と、内服治療のみを行う対照群 20 名について、介入時と終了時の腰痛、臀部痛、下肢痺れ、痛みに対する自己効力感、運動恐怖感注 3)、痛みの破局的思考注 4)を比較しました。
その結果、腰痛、臀部痛、自己効力感において介入群で有意な改善が認められました(図 1)。運動療法としての全身の筋肉関節の柔軟性・可動域・血流改善による除痛効果だけではなく、自ら汗を流してキャラクターを動かし、要所をクリアするといった主体的な達成感を得る事によって、自己効力感が高まり、痛みの軽減につながった可能性が示唆されます。
介入試験の様子
図 1 介入前後における疼痛および心理スコアの変化
論文発表著者からのコメント
難治とされる慢性腰痛症に対し、医療機関の治療のみではなく、RFA を用いて専門家がいなくても腰痛や健康の自己管理ができることが本研究で示された最大の利点です。
増大を続ける我が国の医療費を、家庭用ゲームである RFA の活用によって削減できる可能性を指摘出来たことの意義は大きいと考えています。
*1リングフィットアドベンチャー:任天堂株式会社が発売した Nintendo Switch 対応のフィットネスゲーム。
論文情報
論文タイトル: "Effects of Nintendo Ring Fit Adventure Exergame on Pain and PsychologicalFactors in Patients with Chronic Low Back Pain"
雑誌名:Games for Health Journal
DOI: https://doi.org/10.1089/g4h.2020.0180
注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。