リスク回避コミュニケーション
杉長先生:まず、目標の膨らませ方っていうとか、そういうコミュニケーションの取り方っていうのをワークを行いながら練習をします。
それができれば、患者さんともできるし、自分自身ともできるし、職場の後輩とか学生にもできるから、そこを実際に練習するっていう感じですね。
『こういう風に引き出すんですよ』って。五感で体感できるようにね。あたかも自分がその場にいるかのように相手に体験させます。
視覚、聴覚、体感覚っていってNLPのNは神経っていう意味で、五感のことを言ってて、あたかも自分が役に立つPTになったとしたらどういう状態になってるのかなっていうのを目で見て耳で聞いて体で感じれるような状態を相手に作ったり、自分自身で作り出したりします。
人って想像する能力があるから、例えば、ここに梅干しがなくても梅干しをイメージしてって言われると、なんとなく赤くて小さい物がって、口の中から唾が出てくるじゃないですか。
それと同じで脳っていうのは想像する力があるから、実際に自分がもし人のために役に立つ理学療法士になってるとしたら、どうかなっていうのを頭で想像すると、それだけでも体感覚的にもワクワクするっていうのが出てくるわけですよ。
まず、セラピスト自体が上手くいってるっていう状態を想像できるようになっていることが重要なんじゃないかなって思ってて、患者さんと接する時に『この人は再入院してきちゃんじゃないかな』とか『この人はもしかしたら転んじゃうんじゃないかな』とか『この人はもしかしたらよくならないんじゃないかな』とか。
そういうイメージを持ってずっとコミュニケーションをとっていくと、『これはダメなんですよ』とか『これはこういう風にすると危ないんですよ』とか患者さんにとってネガティブなイメージを言っちゃうんじゃないかなって思ってて、医療としてリスクを回避することは大事なんだろうけど、危険を回避しようと思いすぎると、患者さんにとっても自分にとっても、どんどん可能性を狭めてしまうかもしれませんね。
良くなっていくのは、怖いこと
杉長先生:実際に患者さんをみる時に、その人が3カ月後に『〜さんありがとう!おかげで退院できたよ!』って言ってくれるのをイメージして会話をしていくだけでも変わってくると思うんですよね。それをイメージできてるか。実習に言った時も、『2カ月後にこ人とどんな風に笑顔で別れるか』っていうのを想像してって言います。
インタビュアー土屋:学生さんって『失敗しちゃったらどうしよう』とか困ってることばっかり考えちゃいますよね。
杉長先生:2カ月後に、バイザーとも患者さんとも笑顔で別れるのをイメージして関わると、変わると思うんですよね。人によって語弊があるかもしれないけど、『よくなると思いますよ』っていうメッセージは伝えたほうがいいと思うんですよね。『失敗したらどうしよう』とか『上手くいかなかったらどうしよう』とか思うと、心配だから患者さんに『あなた良くなりますよ』って言わなくなるんですよね。でもそうすると、患者さんは出てこなくなっちゃうから『良くなると思いますよ』とか言ったほうがいいんじゃないかなって思いますけどね。
難しく考えちゃうと難しくなっちゃうから、でも人はいろんな意味で成長して良くなっていくから、『良くなりますよ』って言ったほうがいいと思うんですよね。
インタビュアー土屋:でも精神科の人は良くなっちゃうと自殺するという話をされたじゃないですか?
杉長先生:変わっていくこと、変化していくことに常に怖れを伴うんですよね。
インタビュアー土屋:怖れ?
杉長先生:そうです。良くなっていくことって実は怖いんですよ。そういう患者さんもいるわけですよ。だから、良くなって何がしたいかとか、良くなったらこんないいことがあるよとかいうのを見せながらやっていかないと。
私は何で精神科に入ったかっていうと、精神科のほうが想像しやすいからなんですよ。気持ちがへこんじゃう時ってあるじゃないですか。精神科はそういう状態が長く続いてる人だから。やだなぁって思うのが鬱病。考えがまとまらなくなるのが統合失調症。そんなものだと思いますよ。あと統合失調症の人は中二病みたいなところがあって、中二の時に抱えるような悩みをずっと持ってる感じ。
中二の頃って『もしかしたら自分は嫌われてるのかもしれない』とか『あの人とは上手くいかないのかもしれない』とか思うじゃないですか。そういう感じ。だけど、社会に文句もあるんだけど、親のスネをかじってて自分に自信が持てないっていうとこがあるわけじゃないですか。統合失調症はそういう感じですね。
変化は必ずあるので、その変化を伝えるといいと思います。人って絶対、昨日と同じ自分じゃないわけですよ。変わらないって思っちゃうと、何も変わってないのかもしれないけど、人は何か変化しているから、『この人は変わっていってるんだ、良くなっているんだ、いい方向に向かってるんだ』っていう前提で物事を見ていって、『前より〜なりましたね』ってお互いに伝えていくと、いつの間にか変わっていることもあります。
統合失調症の良くなった患者さんも以前はわけのわからないことを言ってたし、それを言わなくなったのかって聞くと、まだそういうことを言ってたりするし、言わなくなる人もいますし、言わないほうがいいみたいだから言わなくなったっていう人もいます。それを変わらないっていうのか、実生活が変わったから変わったっていうかの違いだと思います。」
インタビュアー土屋:とらえ方の違いですね。
杉長先生:変わらないってとらえちゃうと結局何も変わってないって思うんだけど、変わってるんだってとらえると、『ここが良くなった』っていうのが必ず見つかるから、そういう風にみたらいいんじゃないかなと思います。それはどんな職種でも一緒だと思います。
インタビュアー土屋:普通の生活にも関係しますか?
杉長先生:普段の生活でも、自分自身の成長にもそう思うといいんじゃないでしょうか。
自分でもつまらないことでミスすることがあるじゃないですか。それを注意されて2〜3ヶ月後にまた同じミスをすると周りに『同じことでミスして変わらないな』って言われるんだけど、それは変わらない部分があるっていうだけで、必ず成長はしてるんですよね。変わらない部分ばっかり見つけちゃうと、楽しくないと思ってしまうわけですよ。
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杉長 彬先生 経歴
リハビリコミュニケーション研究所代表。
リハビリ職専門コミュニケーショントレーナー。
作業療法士。
NLPマスタープラクティショナー。
2006年、作業療法士免許取得後、埼玉県内の精神科病院に就職。
現在は病院併設の高齢者のデイケアの責任者として勤務。
1日平均150人以上、職員数40人以上の大規模なデイケアにて
NLPを応用したマネジメントを実践している。
2009年リハビリ業界において、コミュニケーション能力の必要性を実感し、NLP(神経言語プログラミング)を学び始める。
2010年NLPマスタープラクティショナーの資格を取得後、NLPの考え方と自身の経験を活かして、リハビリコミュニケーション研究所を立ち上げ、
2011年よりリハビリ職に特化したコミュニケーションのセミナーを行っている。
またリハビリ職向けのコミュニケーションのコツを伝えるリハビリコミュニケーション研究所podcastを月2回配信している。
ホームページ:リハビリコミュニケーション研究所
リハビリコミュニケーション研究所podcast