女性を対象とした肩、腰、手足の関節などの慢性的な痛みと運動の関連に関するデータを公表

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概要

「第2次健康日本21」でも示されているように、超高齢化社会を迎えている日本において、健康寿命の延伸は、重要な課題のひとつと位置付けられています(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_01.pdf)。中でも女性の「日常生活に制限のある期間の平均」(平均寿命と健康寿命の差)は12.34年であり(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000166297_5.pdf)、男性と比較しても長く、依然として取り組むべき課題のひとつです。

 

肩、腰、手足の関節などの慢性的な痛みの軽減に運動が有効であることは、ガイドラインでも示されています(「慢性疼痛診療システムの均てん化と痛みセンター診療データベースの活用による医療向上を目指す研究」研究班監修/慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ編集『慢性疼痛診療ガイドライン』2021)。日本人女性における病気やけが等の有訴者率は、肩こり(11%)、腰痛(11%)、手足の関節の痛み(7%)が上位に挙げられており(厚生労働省「平成 31 年 国民生活基礎調査」)、運動器疼痛への適切な対処・治療が求められています。しかし、運動する意欲があるにも関わらず、痛みのために運動に支障をきたす女性がどの程度の割合で存在するのか、また、運動習慣によって痛みや日常生活における困難さがどの程度軽減するのか、その学術的データは明らかになっていません。

 

大阪大学大学院医学系研究科 健康スポーツ科学講座 スポーツ医学 中田 研 教授を中心に、株式会社カーブスジャパン、日本イーライリリー株式会社が参画し三者共同で研究を行い、女性に特化したフィットネスクラブであるカーブスにおいて、運動を開始する女性会員に対して調査を実施し、痛みと運動習慣について多面的にデータ収集を行い、運動器慢性疼痛の状態や運動における障壁、そして運動を励行できた場合の疼痛を軽減する効果についてデータをまとめ、Scientific Reports誌にて結果を公表しました。

 

背景

3ヶ月以上継続、または、反復する運動器慢性疼痛(CMP)は成人の20%に見られ、女性に多く、身体・心理・社会的要因が相互に関与する。身体機能低下、抑うつ、QOL低下などを引き起こし、経済損失は年間2000億ユーロと報告され医療上の重大な課題である。治療は運動療法が第一選択とされるが、未だ確立された方法はない。

 

短時間に有酸素運動と抵抗運動(筋力トレーニング)を繰り返すサーキット式Aerobic-resistance trainingは、複数人が同時に運動参加可能で少ない運動時間で十分な運動効果を得られるが、CMPへの効果はまだ明らかでない。

 

目的

CMPを有する成人女性の3ヶ月間のサーキット式Aerobic-resistance trainingの効果を評価する。

 

研究の内容

2,600名のフィットネスクラブ女性新規会員に入会時にアンケートを行い、Numeric Rating Scale (NRS) 4以上のCMPを有する女性参加者139名に対し、3ヶ月間のトレーニング(30分/回)後に再度アンケートを行った。痛みの強さをNumeric Rating Scale (NRS)、疼痛による破局的思考をPain Catastrophizing Scale (PCS)、 腰・肩・膝の自覚的機能をそれぞれ、RDQ, Shoulder36,KOOSを用いて評価を行い、入会時と3ヶ月後で比較した。

 

【結果】NRS、 PCS、 腰、 膝のADLスコアは3ヶ月間で有意な改善を認めた(p<0.0001, p=0.0013, 0.0004, 0.0295)が、肩機能の改善は認めなかった。運動頻度により参加者を3群(Low, Moderate, High-dose group)に分けると、NRSは運動頻度に関係なく全群で有意に改善し、PCS、 腰、膝はModerate-doseとHigh-dose群で有意な改善を認め、これは週2回以上の運動に相当していた。

 

Table. Comparison of pain and associated functions between baseline and 3 months after intervention. NRS score, number of pain site, and the prevalence of pain in the low back and shoulder were significantly reduced after the intervention relative to baseline. In the psychological assessment, all PCS subdomain scores and the total score, were significantly improved after the intervention relative to baseline. For physical disability assessment, RDQ and the KOOS domain score for ADL were significantly increased, but Shoulder36 score did not significantly change, after the intervention relative to baseline. Group comparisons for continuous data were performed by Wilcoxon signed-rank test, and McNemar test was used for categorical variables. NRS: numeric rating scale; PCS: pain catastrophizing scale; RDQ: Roland-Morris disability questionnaire; KOOS: knee injury and osteoarthritis outcomes survey; MCID: minimal clinically important difference; SD: standard deviation; ADL: activities of daily living. Significant differences are indicated in bold.

 

研究の成果

30分のサーキット式Aerobic-resistance trainingを3ヶ月間継続した参加者ではCMPの改善を認め、特に週2回以上の運動参加により、破局的思考、腰と膝の機能改善を認め、効率的な運動として臨床的有用性が期待される。

 

論文情報

Seira Sato, Sho Ukimoto et al., Chronic musculoskeletal pain, catastrophizing, and physical function in adult women were improved after 3-month aerobic-resistance circuit training, Sci Rep. 2021 Jul 22;11(1):14939. DOI: 10.1038/s41598-021-91731-0

 

この研究についてひとこと

我々の研究室では、スポーツをはじめ、身体活動に伴う外傷の診断や治療、予防に関する研究を行っています。運動器慢性疼痛の緩和を目的とした運動については様々な角度からの検討が必要とされており、今回の共同研究が、今後のより深い学術的考察のきっかけとなることを期待しています。(中田研 教授)

 

詳細▶︎https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210924_2

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

女性を対象とした肩、腰、手足の関節などの慢性的な痛みと運動の関連に関するデータを公表

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