今回は三輪書店様より献本いただきましたので、書評させていただきます。本書は、「メモリーブックの活用法ー効果ある認知症の人とのコミュニケーション」です。メモリーブックとはアメリカのSpeech-language pathology(言語病理学者) である、 Bourgeois MS教授が考案した言語機能や意欲の向上に効果がある認知症の人とのコミュニケーションツールです。
身近に認知症を患っている方がいる私にとって、「認知症」を療法士としての視点以外で新たな発見をもたらしてくれたこの書籍についてお伝えしたいと思います。療法士にとって認知症患者とのコミュニケーションは一つの課題でもありますが、家族にとっては別の意味で重要なものとなります。
私にとって一つの疾患でしかなかった認知症が身近なものとなり、その家族とのあり方の助けとなる可能性を見出すことができたメモリーブックの考え方ですが、実践するには簡単ではありません。本書でも諸注意が書かれていますが、実践となるとまた一つ大きなハードルを感じます。まだまだ活用し始めて、日が浅いためここでお伝えする内容には限りがありますが、実践してみての感想含め本書のポイントをお伝えしたいと思います。
過去・現在・未来
本来のメモリーブックは、過去と現在について認知症患者から情報を得て作っていくものですが、本書はそれに「未来」を含んだ内容で紹介されています。本書を読むとわかる通り、過去・現在・未来は分断されたものではなく、また通り過ぎたものでもありません。
過去の中に現在があり、当然未来もあります。また、現在の中に過去もあり、未来もあります。未来に関しても例外ではありません。便宜上本書では、各分類ごとに認知症患者から情報収集する方法等が書かれていますが、実践してみると単純ではありません。
本書の活用法に沿うと「生い立ち→幼少時代→学生時代→成年時代→現在→未来」の順でメモリーブックを作成していきますが、実践すると過去の中に現在が混じり、過去にも今も経験していないことが過去の中で語られることがあります。
メモリーブックの場合、それは本人の思い出と捉え訂正することはありません。ただし、メモリーブックに落とし込む際には本人にとってキーとなるワードを使用することが求められます。この選定が実は非常に難しく、特に家族にとっては想像の範疇を超えてしまう場合もあります。その点、我々のような第三者が入ることによってキーワードを選定することができる場合があり、家族だけでも我々療法士だけでも足りません。
ただ、キーワードを見つけることができるとそれまでに理解とは180°異なる景色が見えることがあります。これは家族にとって非常に重要な要素で、認知症の理解、強いては本人を理解するために必要な要素であったりします。
認知症の特徴として、「過去の記憶は比較的保たれる」という認識がありますが、人によっては時間軸が複雑に絡み合い何が過去で現在で未来なのかがわからなくなっている状況を経験します。その点、メモリーブックに沿っていくとこの時間軸の整理が行えると感じました。歪んだ時間軸で話をすることは困難ですが、その歪みを理解すると会話の内容に一貫性があるなどの発見もあります。
そういった意味で、認知症患者の頭の中の歪みを大きな視点で捉えるためのツールとしてメモリーブックは重宝されます。これによって患者自身もさることながら、認知症への理解、そして患者自身の理解につながっていく一つのツールではないかと実感しています。まだまだ、実践としてメモリーブックの作成には至っていませんが、一つの成果物として完成させたいと思っています。
もし、身近な人で認知症を患っている方がいる場合、メモリーブックを活用してみてはいかがでしょうか?我々療法士の手の届かない理解がきっと得られると思います。