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リズムに合わせて身体が動くしくみを解明~小脳による予測制御のメカニズム~

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ポイント

・音楽に合わせたダンスや手拍子など,リズムに合わせた運動に小脳が関与するしくみを解明。

・同期運動中,小脳に刺激タイミングや時間誤差の情報をもつ細胞があることを発見。

・小脳の予測制御のしくみを解明することで,小脳疾患の病態理解と診断などへの応用が期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院・脳科学研究教育センターの岡田研一助教と田中真樹教授らの研究グループは,リズムに合わせた同期運動に小脳が関わるメカニズムを解明しました。

小脳が運動の予測制御に関与することは従来から知られていますが,詳しい神経機構はよくわかっていません。本研究では,周期的に交互に現れる標的に同期して眼球運動を行っている際に,標的が現れるタイミングの予測や,実際に行った同期運動の時間誤差に関連した活動を示す神経細胞が小脳の出力部に存在していることを明らかにしました。電気刺激による外乱を加えると運動のタイミングが変化したことから,小脳は,運動制御,標的の内部モデル*1,同期エラーに関した信号を上位の中枢に送ることで,同期運動のタイミング調節を行っていると考えられます。本研究成果は,小脳疾患の病態を理解して機能評価する方法の開発に役立つだけでなく,ニューロモジュレーション*2を用いた介入法の開発や,様々な情報処理に応用できる脳型回路による予測アルゴリズムの開発などに貢献することが期待されます。

なお,本研究成果は,2022 年 5 月 6 日(金)公開の Nature Communications 誌に掲載されました。

リズムにあわせた同期運動のメカニズム

背景

小脳は運動に関与することがよく知られています。とくに,何かにつまずいたときや飛んできたボールをキャッチするときなど,次に起こる状況を予測し,それに先回りして体を動かす場合に必要になると考えられています。小脳に損傷のある人の行動解析や脳のシミュレーションを用いた研究によると,小脳は行うべき運動の内部モデルを学習によって生成し,これによって運動の制御や誤差(エラー)の検出を行っているとされています。しかし,実際に内部モデルと運動情報を分離することは難しく,これらに対応した小脳の神経活動が具体的にどういったものなのか,よくわかっていません。近年,私たちの研究グループでは,周期的に現れる視覚刺激に同期して眼を動かすようにサルを訓練することに成功しました(Takeya et al., Sci Rep, 2017, www.nature.com/articles/s41598-017-06417-3)。同期運動は,従来,人や鳥,イルカなど音声学習者*3にしか備わっていないとされていた行動であり,これを行うためには,刺激のタイミングを予測して運動し,行った運動と刺激の時間誤差を検出して予測を更新し続ける必要があります。この同期運動を用いて,小脳の予測制御のメカニズムを調べました。

研究手法と研究結果

モニターの左右に四角い目印を表示し,その中に標的を一定間隔で交互に呈示して,これを眼で追うようにサルを訓練しました(図 1a)。標的に合わせて(同期して)眼球運動を行えるようになるまでよく訓練した後,小脳の出力部である歯状核*4から単一神経細胞(ニューロン)の活動を記録しました。

その結果,小脳歯状核ニューロンには,①特定方向の運動の前に活動するもの(図 1b),②方向に関係なく運動の前に活動するもの(図 1c),③運動の直後に活動するもの,の 3 種類があることがわかりました。①のタイプは,次に行う運動のタイミングとよく相関した活動を示し,運動の制御に直接かかわっていると考えられました。②のタイプは,運動そのものよりも周期的に現れる標的のタイミングに一致した活動を示し,標的の内部モデルを表象していると考えられました。③のタイプは標的と運動の時間ずれ(エラー)とよく相関した活動を示し,同期運動の時間誤差を検出することに関与すると考えられました。

これらのニューロンの記録部位に電気刺激による外乱を与えたところ,同期運動のタイミングが変化し,その方向と大きさはこれら 3 種類のニューロンがもつ情報の線形和で説明することができました。小脳核ニューロンの多くは視床*5を介して大脳皮質に広く信号を送っていることから,同期運動を行う際の運動制御信号とともに,標的の内部モデルの生成や,これをアップデートするための誤差信号を大脳の異なる領野に送っていると考えられます。

今後への期待

独自に考案した行動課題を用いて小脳による予測制御のメカニズムを明らかにした本研究成果は,小脳疾患でみられる病態を理解して機能評価する方法の開発に役立つだけでなく,ニューロモジュレーションを用いた介入法の開発や,様々な情報処理に用いることができる脳型回路による予測アルゴリズムの開発などに貢献することが期待されます。

謝辞

本研究は,科学研究費補助金 18H05523(新学術領域研究「時間生成学」),21H04810(基盤 A),21K06418(基盤 C),15H05985(スタート支援)の補助を受けて行われました。また,実験動物は,文部科学省ナショナルバイオリソース計画(NBRP)から提供されました。

論文情報

論文名

Neural signals regulating motor synchronization in the primate deep cerebellar nuclei(同期運動を制御する霊長類の小脳深部核の神経活動)

著者名

岡田研一 1,竹谷隆司 1,田中真樹 1,2(1北海道大学大学院医学研究院,2北海道大学脳科学研究教育センター)

雑誌名

Nature Communications

DOI

https://doi.org/10.1038/s41467-022-30246-2

公表日

2022 年 5 月 6 日(金)午後 6 時(オンライン公開)

参考図

図1.(a)同期課題とパフォーマンス。(b)小脳核の運動実行ニューロン。小さな黒い点は神経スパイク,大きな点は眼球運動のタイミングを示す。データは左右の標的がでたタイミングで揃え,試行ごとに上から順に並べてある。この例では左向きの眼球運動の前に活動がみられる。右のパネルは試行内での順番に標的と運動のタイミングで揃えた発火率の変化。(c)タイミング予測ニューロン。左右いずれの運動の際にも活動し,標的のタイミングで活動が最大となっている。

用語解説

*1 内部モデル … 学習によって外部世界を取り込んで,予測や脳内シミュレーションを行う機能。

*2 ニューロモジュレーション … 神経活動を修飾する技術の総称で,磁気刺激や電流刺激を頭皮上から与える方法や,脳内に電極を留置する方法などが広く用いられている。

*3 音声学習者 … 聞いた音を模倣して音声を生成する学習を行うことができる動物種のこと。

*4 歯状核 … 小脳皮質の情報を集めて出力する神経核(深部小脳核)の一つで,霊長類でもっとも発達している。

*5 視床 … 脳の中心部にある神経核で,末梢神経や小脳などの皮質下の情報を大脳皮質に伝える経路。

詳細▶︎https://www.hokudai.ac.jp/news/2022/05/post-1043.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

リズムに合わせて身体が動くしくみを解明~小脳による予測制御のメカニズム~

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