医療用モバイルアプリの客観的評価スケールの日本語版開発に成功-アプリの研究、開発、選択の基準となることを期待-

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概要

京都大学大学院医学研究科健康増進行動学教室の山本一道 客員研究員、坂田昌嗣 同助教、古川壽亮 同教授らの研究グループはクイーンズランド工科大学、東京大学との国際共同研究として、医療用アプリの国際的な客観的評価基準である「モバイルアプリ評価スケール(MARS)」の日本語版の開発、およびその信頼性と妥当性を検証しました。

近年激増する医療用アプリの客観的評価は現状では十分に行われておらず、アプリによっては健康に害を与える可能性も指摘されており、トレーニングを受けた評価者による質的評価を行うツール開発が待たれていました。本研究では疫学・医学・心理学・社会学・システム開発・医学翻訳の専門家らにより科学的手順により日本語版評価スケールを開発し、日本で市場に出ているメンタルヘルスアプリ 60 個を用いて、その信頼性および妥当性を確認しました。さまざまな医療アプリの研究、開発におけるアプリのアセスメントおよびユーザーによる医療アプリの選択などに使用され、今後の指針などにも役立つと考えられます。

本成果について、2022 年 4 月 14 日に国際学術誌「Journal of Medical Internet Research mHealth and uHealth」にオンライン掲載されました。

医療用アプリのイメージ図(画像提供:Adobe Stock)

背景

世界的なデジタル化の流れや新型コロナウイルスによる暮らしや働き方の変化により、近年医療用アプリの数はますます増えています。さまざまな医療用アプリの選択肢が増える一方、その内容や質は玉石混交であり、場合によっては健康被害をもたらす可能性も指摘されており、トレーニングを受けた評価者による質的評価を行うツール開発が待たれていました。このような状況の中、国際的な医療用アプリの客観的質的評価ツールとして「モバイルアプリ評価スケール(MARS)」注 1 が広く使われるようになっていますが、日本語版は存在しませんでした。評価スケールの日本語版に関しては科学的な手法を用いて開発を行い、実際に使用して原版と比して同等であることを検証する必要があります。本研究では科学的手法を用いた日本語版の開発および検証を行うことを目的としました。

研究手法・成果

本研究では、原版の開発者の協力のもと Cross-cultural approach (文化横断手法)注 2という方法を用いて、疫学・医学・心理学・社会学・システム開発・医学翻訳の専門家からなるグループによる日本語版開発を行いました。この研究では現在市場に公開されているメンタルヘルス分野のアプリ 60 個を、開発した日本語版評価スケールを用いて実際に評価することによりその信頼性および妥当性を検証し、原版と同等であることを確認しました。また本研究では、現在一般的に参照されているアプリストアにおける使用者による星評価が「モバイルアプリ評価スケール(MARS)」の客観的評価項目と比し相関を認めないことを示す一方、「モバイルアプリ評価スケール(MARS)」の客観的評価項目と主観的評価項目が高い相関を示すことを確認されており、より正確にアプリの評価が行える可能性を示唆しています。これらのツールによりアプリの開発者、研究者のみならず使用者がアプリを選択する際の基準となることが今後期待されます。

波及効果、今後の予定

現在まで科学的根拠に基づいた医療アプリの評価方法が日本語では存在しなかったため、医療用アプリの医学的効果などを評価するための研究などを行うこと自体が難しい状況でした。本ツールによりさまざまな医療アプリの研究やアプリ開発におけるアセスメントのみならずアプリの選択の際に客観的な質的評価を参照することが可能となり、ひいては健康増進などに貢献することが期待できます。また本研究に共同研究者として参加した原版の開発者と引き続き評価スケールの改訂版などに取り組む予定となっており、本邦におけるこの分野の国際的な標準の維持が期待できます。

 

研究プロジェクトについて

 本研究の費用の一部は令和2年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)、課題名「胃食道癌術後患者の食事と症状の関連評価のためのスマートフォンアプリ開発と効果検証(20K18881)」によって補助されています。また、本研究は、クイーンズランド工科大学、東京大学、立教大学の研究者との国際共同研究として行われました。

用語解説

注 1 モバイルアプリ評価スケール(MARS):Mobile App Rating Scale。2016 年にクイーンズランド工科大学の Stoyanov らによって開発された医療用アプリの客観的な評価スケールで、4 つの客観的評価項目(エンゲージメント、機能性、見た目・デザイン性、情報)と1つの主観的評価項目の合計 23 問にて医療用アプリの評価を行う。世界的な医療用アプリ評価スケールのスタンダードの一つとして使用されている。

注 2 Cross-cultural approach (文化横断手法):評価スケールの翻訳に際し、使われる国における文化の違いなどを考慮に入れる方法。

研究者のコメント

「デジタル化」という言葉が一人歩きし、科学的根拠に基づかないアプリや製品が溢れる中、科学的根拠に基づいた客観的な評価ツールの必要性は本邦におけるデジタル化を国際標準に対応した方向に導くために必須だと考えています。本ツールが本邦においてスタンダードとしてルーチンに使われることを期待しています(山本)

論文タイトルと著者

タイトル:Japanese Version of the Mobile App Rating Scale (MARS): Development and Validation

(「モバイルアプリ評価スケール(MARS)」日本語版:開発と検証)

著 者:Kazumichi Yamamoto et al.

掲 載 誌:Journal of Medical Internet Research mHealth and uHealth

DOI:https://doi.org/10.2196/33725

詳細▶︎https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-06-22-0

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

医療用モバイルアプリの客観的評価スケールの日本語版開発に成功-アプリの研究、開発、選択の基準となることを期待-

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