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神経筋電気刺激の刺激筋量に依存して脳由来神経栄養因子の濃度が増加することを発見!

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金沢大学理工研究域フロンティア工学系の西川裕一助教,田中志信教授,株式会社MTG の川出周平主任研究員,広島大学の前田慶明講師,マーケット大学(アメリカ)のAllison Hyngstrom 教授らの共同研究グループは,神経筋電気刺激の刺激筋肉量に依存して,血中脳由来神経栄養因子が増加することを明らかにしました。

脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic factor:BDNF※1)は,主に脳の記憶を司る海馬に発現する神経性因子であり,学習,記憶,認知に関わっていることが知られています。アルツハイマー病患者では,海馬における BDNF の発現が低下しており,近年はうつ病や心不全,パーキンソン病といった様々な病気でも BDNF の発現量が低下していることが報告されており,BDNF の低下は種々の病気の重篤化にも繋がることが指摘されています。BDNF は脳内の海馬のみならず,骨格筋細胞からも発現することが動物研究から報告されており,運動は認知機能改善に有効な手段として注目されつつありますが,BDNF の発現量は運動の負荷量に依存しており,低負荷な運動では発現量が少なく,高齢者や有疾患者では効果的な介入方法がないのが現状でした。

我々の研究グループは,健常若年者を対象に筋肉に対して電気刺激を行う神経筋電気刺激(Electrical Muscle Stimulation:EMS※2)を用いて,血中 BDNF の発現量を検討しました。その結果,EMS にて刺激する筋肉量が多いほど血中 BDNF 濃度が増加することや,約 20 分間にわたり BDNF の発現量が増加していくことを確認しました。さらに大腿部よりも下腿部(ふくらはぎ)への刺激が効果的であることを見出しました。本検討では,若年者のみを対象としましたが,今後は高齢者など対象者の幅を広げていく予定としています。

これらの知見は将来,認知症患者への新たな介入方法やアンチエイジングなどに活用されることが期待されます。

本研究成果は,2022 年 10 月 27 日 15 時(ロンドン時間)に『European Journal of AppliedNews Release Physiology』に掲載されました。

【研究の背景】

日本では,人口高齢化などを背景として,アルツハイマー病やパーキンソン病など神経変性疾患が右肩上がりに増加しています。神経変性疾患は,根治に至る治療法が確立しておらず,患者自身だけでなく介護にあたる家族の QOL 低下などの背景から,ブレイクスルーとなるような治療戦略の確立が急務です。

近年,神経筋機能の活性化に寄与する物質として BDNF の機能が注目されています。BDNF は,神経の保護や再生,海馬体積の増加,筋タンパクの合成など,非常に多くの機能を有しています。BDNF は主には脳内にて発現しますが,骨格筋細胞からも発現することが動物実験から明らかにされており,運動によって BDNF 濃度が増加することも知られています。これらの背景から,運動は認知機能の改善に有効な手段として注目されつつありますが,BDNF の発現量は,運動の負荷量に依存しており,低負荷な運動では BDNF がほとんど発現されないことが指摘されています。このような背景を受けて,高齢者や有疾患者に対する効果的な介入手法の確立は急務とされています。

【研究成果の概要】

本研究では,健常若年者 12 名(男性 9 名,女性 3 名,27.3±5.5 歳)を対象とし,2条件の EMS 介入およびコントロール(無刺激)の合計3条件を実施しました(図1)。採血は,Pre,Post,20min,40min のそれぞれで実施しました。コントロール条件のみ,Pre と Post のみ採血を行いました。EMS は座位姿勢にて 23 分間実施しました(図2)。介入効果が反映されないよう,各条件間で最低1週間の間隔を空けて実施しました。

コントロール条件では,Pre と Post で血中 BDNF 濃度に変化がないことを確認しました(図3)。EMS 介入に関しては,大腿四頭筋+下腿三頭筋の刺激において,刺激直後と刺激後 20 分経過時において有意に血中 BDNF 濃度が増加することを確認し,刺激後 20分経過時では大腿四頭筋のみの刺激と比較して,大腿四頭筋+下腿三頭筋の刺激は有意に血中 BDNF 濃度が高いことが明らかになりました(図4)。一方で,大腿四頭筋のみの刺激では,Pre と比較して全ての時期(Post,20min,40min)で有意差は認めず,介入に伴う有意な血中 BDNF 濃度の増加は認めませんでした。

これらの結果より,EMS の刺激筋肉量が多いほど血中 BDNF 濃度の増加に寄与することが明らかになり,大腿四頭筋よりも下腿三頭筋のほうが刺激部位としては有益であることが明らかになりました。

【今後の展開】

本研究により,EMS が血中 BDNF 濃度の増加に寄与すること,刺激部位としては下腿三頭筋が有益であることが明らかとなり,今後認知症患者などの有疾患者への新たな介入方法としての応用が期待されます。

図1:実験プロトコル概要

図2:EMS の刺激部位。A:大腿四頭筋,B:大腿四頭筋+下腿三頭筋。

 

図3:A:コントロール条件での Pre と Post の比較,B:Pre と Post の差分。平均値±標準偏差。

 

図4:血中 BDNF 濃度の変化量(Pre との差分)

* p < 0.05, Pre との比較。 † p<0.05,条件間の比較。

【掲載論文】

雑誌名:European Journal of Applied Physiology

論文名:Electrical Muscle Stimulation in Young Adults: Effect of Muscle Volume on Brain-Derived Neurotrophic Factor Level.

(若年者を対象とした神経筋刺激による刺激筋量が脳由来神経栄養因子の発現濃度の及ぼす影響)

著者名:Yuichi Nishikawa,Hiroyuki Sakaguchi,Shuhei Kawade,Noriaki Maeda,Shinobu Tanaka,Allison Hyngstrom

(西川裕一,坂口寛幸,川出周平,前田慶明,田中志信,Allison Hyngstrom)

掲載日時:2022 年 10 月 27 日 15 時(ロンドン時間)にオンライン版に掲載

DOI:10.1007/s00421-022-05078-z

【用語解説】

※1 脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)

神経栄養因子の一つで特に海馬に多く,記憶に関与し神経細胞の機能の維持などに重要な物質として知られている。認知症やうつ病,心不全などの患者は BDNF が減少していることから,種々の病気にも関与していることが指摘されている。

※2 神経筋電気刺激(Electrical muscle stimulation:EMS)

神経・筋を興奮させるために経皮的に電流を流す治療法の一つ。リハビリテーション分野では,筋力増強や代謝機能の改善などを目的に行われることが多い。

詳細▶︎https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/74001

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

神経筋電気刺激の刺激筋量に依存して脳由来神経栄養因子の濃度が増加することを発見!

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