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骨の運命は生まれる前から決まっていた!? 骨の発生、成長に関わる重要なメカニズムを発見

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■ポイント

・長管骨の発生において、胎児期に出現する軟骨原基※1とその周囲を取り囲む軟骨膜※2が全ての骨のおおもとであると言われてきましたが、それぞれが具体的にどのように骨を形作っていくのかは詳しく分かっていませんでした。

・軟骨原基と軟骨膜のそれぞれの細胞の運命を可視化、追跡することに成功し、成長後の骨を構成する細胞の起源は生まれるずっと前の胎児期の時点、骨の発生の初期の時点ですでに厳密にプログラムされていることを発見しました。

・本研究の成果は、生まれながらに骨の異常を伴う難病の病態解明や、治療法の開発に貢献することが期待されます。

■概 要    

長崎大学医歯薬学総合研究科の松下祐樹准教授、米国テキサス大学Noriaki Ono博士の研究グループは米国ミシガン大学を含む3大学の国際共同研究によって、骨の発生、成長に関わる重要なメカニズムを発見しました。  

我が国、そして世界には原因の分かっていない小児の難病が数多く存在し、骨の発生異常を伴う疾患も多く存在します。本研究では、胎児期の骨の発生初期から成体に至るまでの過程を「細胞系譜追跡※3」という手法を用いて、全ての長管骨のおおもととなる軟骨原基、軟骨膜の細胞をそれぞれ赤色蛍光分子で可視化し、この2種類の細胞の運命を追跡することに成功しました。その結果、成体の骨を構成する細胞は生まれる前からこの2つの起源によって厳密にプログラムされており、そこには発生に非常に重要なヘッジホッグシグナル※4が細胞自身、または周囲の細胞に働くというメカニズムで骨の発生、成長が制御されていることを解明しました。骨の運命を発生起源から詳細に、かつそのメカニズムとともに解明することで、将来的には生まれながらに骨の異常を伴う疾患の病態解明や、治療法の開発に貢献することが期待されます。   

本研究成果は、英国の国際学術誌である「Nature Communications」に2022年11月28日に掲載されました。

■研究の背景     

我が国、そして世界には原因の分かっていない小児の難病が数多く存在し、骨の発生異常を伴う疾患も多く存在します。骨の発生過程を正確に理解することはこれらの疾患の解明につながる可能性があり、非常に重要です。これまで骨の発生過程では、胎児期に出現する軟骨原基とその周囲を取り囲む軟骨膜が全ての骨のおおもとであると言われてきました。しかし、特に軟骨膜については未解明な点が多く、軟骨膜の中でもこれまでに報告されている内層の軟骨膜は出生前後に一過性には骨になるものの、骨の成長とともに消えてしまうため、骨の発生の全貌解明には至っておりません。

■研究の成果   

本研究は、骨の発生の全貌解明に向けた大きな一歩になりました。まず骨の発生初期に着目し、マウス胎児の骨格から骨格系細胞を選択的に集め、シングルセルRNAシークエンシング解析※5を行うことで、骨発生初期に存在する細胞の多様性を一細胞レベルで明らかにしました。さらにデータサイエンスの手法を活用することで、骨の起源となる細胞を2種類推定することができました。これらの細胞ではそれぞれFGFR3※6、DLX5※7という遺伝子の発現が強く認められ、遺伝子の局在を解析したところ、FGFR3は軟骨原基のみに発現し、DLX5は周囲の軟骨膜の中でも外層の軟骨膜で特異的に発現していました。 

次に、この軟骨原基と外層の軟骨膜の細胞が、胎児期における骨発生初期から成体に至るまでの過程でどのように骨の形成に貢献するかを明らかにするために、「細胞系譜追跡」という手法を用いて、軟骨原基、軟骨膜外層の細胞をそれぞれ赤色蛍光分子で可視化し、この2種類の細胞(FGFR3陽性細胞とDLX5陽性細胞)の運命を追跡することに成功しました。その結果、胎児期の軟骨膜外層の細胞は恒久的に骨の、特に骨幹部の細胞に特異的に寄与し、軟骨原基の細胞は骨幹端部の細胞に寄与していることが分かりました。さらに、これらの2つの細胞集団の間には発生に非常に重要なヘッジホッグシグナルが関与しており、軟骨原基の細胞からのシグナルが軟骨原基自身、そして外層の軟骨膜に働き、骨の発生、成長が制御されていることを解明しました。 

成長後に同じ骨髄の中に存在する軟骨原基由来と外層の軟骨膜由来の細胞は機能的にも全く異なっており、軟骨原基由来の骨髄間質細胞※8は骨や軟骨に近い性質を、外層の軟骨膜由来の骨髄間質細胞は脂肪に近い性質を持っており、このことから、成体の骨を構成する細胞は生まれる前からこの2つの起源によって厳密にプログラムされ、すでに細胞の運命が決まっていることが新たに明らかになりました。

■今後の展開、将来展望   

本研究の成果によって、骨の発生過程を詳細に解明することで、生まれながらに骨の異常を伴う疾患の病態解明や、治療法の開発に貢献することが期待されます。また、近年、骨髄の中に存在する骨髄間質細胞は周囲の細胞とともに微小環境を形成することで、血液系の細胞の維持、がんの進展、転移にも関連していることが分かってきており、さまざまな領域に波及効果を及ぼすことが期待されます。

(用語解説)

※1 軟骨原基:

脊椎動物の長管骨の形成初期に見られる、軟骨細胞でできた構造で、将来の骨格を形成する起源の1つとなる。

※2 軟骨膜:

骨の発生初期に軟骨原基の周囲を取り囲む線維性の細胞で、軟骨原基と同様に将来の骨格を形成する起源の1つとなる。

※3 細胞系譜追跡:

あるターゲットとする細胞集団の細胞運命を組織学的に追跡する手法。

※4 ヘッジホッグシグナル:

胚が正常に発生するために、細胞が正確な位置情報を獲得するために必要なシグナル。

※5 シングルセルRNAシークエンシング解析:

単一の細胞から網羅的に遺伝子発現解析を行う手法。

※6 FGFR3 (Fibroblast Growth Factor Receptor 3):

FGFファミリータンパクと結合する膜貫通型の受容体タンパク。骨発生初期の軟骨原基の軟骨細胞で発現する。

※7 DLX5 (Distal-Less Homeobox 5):

骨発生初期に発現する転写因子の1つ。骨発生初期の軟骨膜を取り囲む軟骨膜外層の細胞で発現する。

※8 骨髄間質細胞:

骨髄に存在する間葉系の細網細胞。血液系の細胞を制御したり、それ自身が骨系の細胞、脂肪系の細胞に分化する。

■論文情報  

論文名:The fate of early perichondrial cells in developing bone

著   者:Yuki Matsushita1,2, Angel Ka Yan Chu3, Chiaki Tsutsumi-Arai1, Shion Orikasa1,Mizuki Nagata1, Sunny Y. Wong4, Joshua D. Welch3, Wanida Ono1, Noriaki Ono1*

1.University of Texas Health Science Center at Houston School of Dentistry

2.Department of Cell Biology, Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences

3.Department of Computational Medicine and Bioinformatics, University of Michigan,

4.Department of Dermatology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor MI 48109

* Corresponding author

掲載誌:Nature Communications 13,7319 (2022)

DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-022-34804-6

 

詳細▶︎https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science292.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

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