<ポイント>
・先行調査が少ない日本の大学生に特化したヘルスリテラシー(HL)※1に関する調査を実施
・健康・医療情報の「入手」「理解」の後の、「評価」と「活用」に自信のなさがあることが明らかに
・生涯を通じた病気の予防・健康維持は、若年層から継続したヘルスリテラシー教育が重要であることを示唆
<概要>
大阪公立大学都市健康・スポーツ研究センター横山久代教授らの研究グループは、2020年12月と2021年10月に、大阪市立大学または大阪府立大学に在学している学生を対象にHLと生活習慣・健康QOLの関連性を明らかにするためのWEB調査(有効回答1,049)を実施しました。調査では国際的に用いられているヘルスリテラシー評価指標を用い、健康情報の入手・活用に関する自由記述の計量テキスト分析※2も行いました。
その結果、全体の85%がHLレベルに「問題あり」、または「不十分」に該当し、国際的にみて低いレベルであることが分かりました。また、HLの各能力においては、情報を「入手」し「理解」した後の、情報の信ぴょう性「評価」や情報を「活用」した意思決定に対して課題があることも明らかになりました。一方で、健康的な生活習慣や良好な人間関係を心掛け実践していると回答した対象ほどHLレベルも高く、健康に対する自己評価が高い、という結果になりました。
HL向上は、生涯にわたる病気の予防・健康維持に重要であり高齢化社会における医療問題等の観点でも注目されています。日本人のHL向上にむけて、若年層から継続した教育機会の創出やプログラム開発が重要であることも示唆されました。
本研究成果は、国際学術誌「Healthcare」に2023年2月27日にオンライン掲載されました。
<用語解説>
※1 ヘルスリテラシー(HL):健康や医療に関する情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識や意欲、能力のこと。また、それによって健康に関する意思決定や問題解決ができること。
※2 計量テキスト分析:文章・テキストデータに含まれる語の品詞や出現頻度などを計量的に分析する手法。
<研究者からのコメント>
インターネット上に溢れる健康情報の中から、科学に裏付けされた信頼できる情報を選び取り、最適な意思決定をするために身につけておかねばならないヘルスリテラシー。今回、対象となった学生のヘルスリテラシーは、他国の大学生と比較しても低いことがわかりました。我が国ではヘルスリテラシーの獲得が標準的な教育カリキュラムに位置づけられていません。結果を受け、現在は健康情報を評価、活用する能力を高めるための実践的な取組みを始めたところです。学生の生涯にわたる健康づくりにコミットしたいと思っています。
横山 久代 教授
<研究の背景>
新型コロナウイルス感染拡大というかつてない試練に直面し、スーパーマーケットでの食料の買い占めに始まり、医療従事者やその家族への偏見・差別、ワクチンの副反応報告への過剰反応など、我々がメディアを通じて目にしてきた人々の冷静さを欠く行動は、例を挙げればきりがありません。このような経験を通じて、我々は健康に関する正しい情報を入手し、理解した上で自らの行動のための意思決定を行うことがいかに重要か、あらためて気付かされます。
健康情報についての情報リテラシーを指す「ヘルスリテラシー(HL)※1」が不十分であると、健診や予防接種などの利用率が低く、余分な医療費がかかることなどがこれまでに分かっています。特に、生活面、精神面で親からの自立を果たす時期にある大学生にとって、HLを向上させることは自身の健康増進につながることはもちろんのこと、将来のそれぞれのキャリアを通じて社会全体の健康を促進することに大いに貢献するはずです。しかし、大学生のHLについて調べた国内外の報告は多くありません。そこで、本研究は大学生のHLの現状を評価するとともに、関連する要素について明らかにすることを目的として実施しました。
<研究の内容>
大阪市立大学または大阪府立大学の在学生を対象に、スマートフォンを用いたWEB調査を実施しました。調査内容は、①日本語版the 47-item European Health Literacy Survey Questionnaire(HLS-EU-Q47)を用いたHLの自己評価、②American College Health Associationが提唱する大学生の主たる健康課題に関する設問、③SF-36による健康状態を測る設問、その他属性・基本情報で構成しました。あわせて、日頃、健康に関する情報を得たり活用したりする際に、気をつけていることや難しいと感じることについて自由記述による回答を求めました。
1,049名からの有効回答を得て分析を行ったところ、ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションの3つの領域における、健康情報を「評価」する能力、ならびにヘルスプロモーション領域における健康情報を「活用」する能力のスコアが低いことがわかりました。HLS-EU-Q47の総合点から、HLのレベルを分類すると、全体の85%がHLに「問題あり」または「不十分」に該当し、特に女性、低学年ではその割合が大きくなりました。また、良好な睡眠、食事、対人関係を心がけ、実践できていると回答した学生ほどHLS-EU-Q47の総合点が高く、HLが高いことは自覚的な健康状態が良好であることと関連しました。HLのレベルに性差が見られたため、自由記述回答の内容について計量テキスト分析※2を行い、男女別に特徴を見たところ、男性では、「鵜呑みにしない」、「複数(の情報)を比較する」、「発信源を確かめる」など、健康情報に接する際の具体的な心構えに関する回答が多く見られました。
以上の結果より、本対象のHLは低い水準にあり、特に、入手した健康情報の信頼性を評価すること、健康増進のために情報を活用することへの自信のなさがみてとれました。一方、HLが高いことは、健康維持にとって良好な生活習慣をもつことや、自覚的な健康度が高いことと関連しました。
<期待される効果・今後の展開>
上記の結果を踏まえ、今後は単なる健康教育の提供のみにとどまらず、健康情報を評価・活用する能力を高めるための教材の開発や、効果的な介入プログラムの構築を進めることが重要です。さらに、そのような介入が実際に学生のHLを高め、健康状態を改善するかどうかについて、検証を行っていくことも必要です。
<掲載誌情報>
【発表雑誌】Healthcare
【論文名】Health Literacy among Japanese College Students: Association with Healthy Lifestyle and Subjective Health Status
【著者】Hisayo Yokoyama, Daiki Imai, Yuta Suzuki, Akira Ogita, Hitoshi Watanabe, Haruka Kawabata, Takaaki Miyake, Izumi Yoshii, Shinji Tsubouchi, Yoshimasa Matsuura, Kazunobu Okazaki
【掲載URL】https://doi.org/10.3390/healthcare11050704
詳細▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-04869.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。