日本人の若い低体重女性の多面的な背景検証:ダイエット経験に着目して

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本内容は、オープンアクセスジャーナル「Frontiers in Public Health」で原著論文として公開されたものです(2023年6月2日付)。研究成果の主要内容を日本語要約し紹介します。

英文タイトルMultidimensional   Background   Examination   of   Young   Underweight Japanese Women: Focusing on Their Dieting Experiences

タイトル(日本語訳)日本人の若い低体重女性の多面的な背景検証:ダイエット経験に着目して

著者Yuka  Murofushi*,  Shinji  Yamaguchi,  Haruka  Kadoya,  Hikaru  Otsuka, Kasane Ogura, Hideyoshi Kaga, Yasuyo Yoshizawa and Yoshifumi Tamura

著者(日本語表記)室伏由佳, 山口慎史, 門屋悠香, 大塚光, 小倉かさね,加賀英義, 吉澤裕世, 田村好史*筆頭著者所属:順天堂大学

Doi: 10.3389/fpubh.2023.1130252

URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpubh.2023.1130252/full

 

研究の背景と目的

日本は、先進国の中でもやせている女性の割合が最も高く、さらに、若い世代(18~29歳)では約20%がBMI(体格指数)18.5kg/m2未満のやせ型である。近年、「少食で運動不足」の若いやせ型女性は、肥満者と同様に糖尿病リスクが高い可能性が明らかにされ、やせた女性の健康問題は社会課題になりつつある。

 

 

しかし、そもそも「若いやせ型の女性がやせに至った背景」については、これまで十分に検討されていない。若いやせ女性が、将来にわたり健康で豊かな生活を送ることができる社会を実現するためには、やせに至る背景を解明し、「やせていれば健康」という誤った認識を解消し、各個人に最適化された運動習慣や食生活を検討する必要性が考えられる。

そこで、本研究は、やせ型女性の「ダイエット経験の有無」に着目し、出生時体重、体重に対する認識、ボディイメージ、運動・食習慣、摂食態度、eHealthリテラシー、メディアから受ける美の影響と内在化傾向の度合、性格特性体型や、やせに関する思考、運動や食事の習慣や認識など、多面的な背景検証調査を実施した。

 

調査内容と結果

1. スクリーニング調査(低体重女性の割合)

調査対象者:18~29歳の女性5,905名

 

やせ型女性の背景検証を行うにあたり、低体重(BMI 18.5 kg/m2未満)並びに母子手帳を基とした出生時体重の申告が可能な対象者をスクリーニングする目的で18~29歳の女性にWebベースのアンケート調査を実施し、9,471名に調査依頼を行い、8,278名から同意を得られた。疾患で通院していないことや、減量をしなければ行えないスポーツ活動を実施していないことが包含基準であり、合計5,905名が調査対象となった(表1)。このうち、23.5%(1,390名)が低体重の条件に該当した。

 

表1.スクリーニング調査におけるBMI値別の人数割合

Note. 18~29歳の女性で、包含基準(何らかの疾患で通院していない、減量をしなければ行えないスポーツ活動を実施していない)を満たした5,905名を対象.

 

2. 本調査(低体重女性のダイエット経験有無による背景検証)

調査対象者:低体重400名、普通体重189名

 

次に、スクリーニング調査で回答を得られた5,905名のうち、低体重と普通体重(18.5~25kg/m2)を対象に本調査を実施した。最終的に得られたデータは589名であり、このうち低体重は400名、母子手帳を基とした出生時体重の申告は304名であった(表2)

 

表2. 本調査におけるBMI値別の人数割合・母子手帳を基とした出生時体重申告者数

 

調査項目は、対象者の特性としてダイエット経験、身長や体重(BMI)、母子手帳を基とした出生時体重、自身のボディイメージ、体重への認識、小学生から現在までの運動習慣*1、食習慣などを尋ねた。

さらに、5つの標準化された質問紙(摂食態度調査*2、eHealth リテラシー*3、メディアからの美のメッセージを内在化する傾向の度合い*4、性格5因子*5、自尊感情*6)を調査した。本研究の主要分析として、低体重女性のダイエット経験の有無に着眼し検討した。ダイエット経験を独立変数に、各質問項目変数を従属変数に設定し、対応のないt検定及びχ2検定による比較を行った。解析の結果、ダイエット経験有無の両グループには異なる背景が存在していることが明らかとなった。

 

 

対象者の特性の比較結果からは、ダイエット経験の有無による身長や体重(BMI)には差はみられなかった一方で、ダイエット未経験者は出生時体重や過去最高の体重はダイエット経験者よりも少ないことが明らかとなった。また、理想体重や、肥満だと思う体重はダイエット経験者の方が有意に軽い体重を申告した。他にも、ダイエット経験の有無による特徴が各質問紙で確認された(表3~6)。

 

表3.個人属性、体重に対する認識、自身のボディイメージの比較

Note.

(a)個人属性・体重に対する認識の比較方法:対応のないt検定.

(b)自身のボディイメージ(自身がイメージしている自身の体型)、体重変動、体重増加に対する認識の比較方法:χ2検定

*:有意差が認められた項目.*p < .05, ** p< .01, *** p< .001.

‡:母子手帳に基づき申告された304名のデータ.

§: 体重増加が「気になる」と回答した321名のデータ.

‖:ダイエット経験者189名のデータ.

 

表4.運動習慣の比較

Note.

(c)運動習慣の比較方法:χ2検定. *:有意差が認められた項目. *p < .05, ** p< .01, *** p< .001.

 

表5. 食習慣の比較

Note.

(d)食習慣の比較方法:χ2検定.*:有意差が認められた項目.*p < .05, ** p< .01.

表6. 質問紙の得点比較

Note.

質問紙の得点比較方法:対応のないt検定.

*:有意差が認められた項目.SD:standard deviation(標準偏差).*p < .05, *** p< .001.

†:RSES日本語版は中間項目3を含む5段階リッカート尺度.

 

主な考察

1.ダイエット経験のないグループの特徴

平均身長158.64cm/体重43.81Kg(BMI 17.38kg/m2)

図1ダイエット経験のない若いやせた女性の特徴(作成したインフォグラフィック動画より)

 

ダイエット経験のない若いやせた女性は、出生時体重(2894.66g)がダイエット経験のあるグループ(3053.74g)よりも軽い結果であった。理想の体重(44.64Kg/BMI17.72kg/m2)は現在の体重よりわずかに重い値を申告し、体重を増やすことに対して比較的抵抗がないような回答がみられた(表3)。一方で、体重が減りやすいと回答する割合は、ダイエット経験のあるグループよりも多いことから(表3)、潜在的なやせ体質である可能性が考えられる。

運動習慣(過去1年間・週2回以上・1回30分以上)を有する割合は、小学生時代から現在まで約40~42%で、ダイエット経験のあるグループよりも15~20%程度少ないことが明らかとなった(表4)。運動習慣を持たないと回答したグループは、運動嫌いやこれまで実施機会がなかったとする理由が多かった。食事量を増やすことに対しては、比較的抵抗がないような回答がみられ、ストレス時は「食欲が減少する」割合がダイエット経験のあるグループよりも多くみられた(表5)。運動習慣や食習慣の重要性に対してはポジティブな認識であった(表4・5)。

標準化された質問紙の結果からは、性格5因子(TIPI-J)のうち「開放性」の得点がダイエット経験のあるグループよりも高い結果であった(表6)。この結果は、経験に対して開放的であると考えられ、新しい経験や習慣を好むその特性から、健康行動に対し積極的であると思われる。しかし、運動習慣や食習慣に着目すると、あまり行動に移せていない傾向であり(表4・5)、認識と行動との間にはギャップがみられた。少食で運動不足の場合、糖尿病など、将来の健康リスクが高くなると考えられるために、適切な運動習慣や食習慣を得られるような情報提供の必要性が示唆された。

 

2.ダイエット経験のあるグループの特徴

平均身長158.81cm/体重44.09Kg(BMI 17.46 kg/m2)

図2ダイエット経験のある若いやせた女性の特徴(作成したインフォグラフィック動画より)

 

ダイエット経験のあるグループは、体重が落ちにくく、肥満だと感じる体重はダイエット未経験よりも約2.5kg多い回答であった(表3)。小学生時代から現在までの運動習慣を有する割合は約55~62%で、ダイエット未経験者(約40~42%)よりも多いかった(表4)。

運動習慣を持つ主な理由として、「美容や肥満解消のため」が約71%と、ダイエット経験のないグループ(44%)と比較して高い割合であった(表4)。運動は、身体の満足度としてボディイメージに与える影響が報告されていることから、回答割合の高さにつながったものと考えられる。ストレスや疲れを感じたとき食事量が増える傾向がみられた(表5)。その一方で食事量を増加させることや体重増加に対し、抵抗を持つ傾向がみられた(表5)。

標準化された質問紙の結果からは、摂食態度を測定する質問紙(EAT-26)や、メディアによる美に関する情報の内在化傾向の度合いを示す得点(SATAQ-3  JS)がダイエット未経験者と比較して高く、ボディイメージの歪みといった主観的認知への影響が生じやすい可能性が考えられた(表6)。インターネットを通じ、健康情報の検索や理解、評価、適切に活用する能力を示すeHealthリテラシーの得点もダイエット経験のないグループよりも高いスコアを示した(表6)。性格5因子(TIPI-J)のうち、「勤勉性」の得点が高いため、責任感が強く、自制心を持ち、忠実に行動し、目標達成に向けて努力する傾向が考えられる。このことから、低体重でダイエット経験がある人は、ストイックにやせにつながる行動をとることが懸念される。メディアの情報の内在化傾向の度合いからも、ボディイメージの歪みといった主観的認知への影響が生じやすい可能性が考えられる。そのため、痩身行動や思考のある、やせた女性に特化した情報提供の必要性が示唆された。

 

結論

本研究では、日本の若い低体重女性の背景について、ダイエット経験の有無に着目し、多面的に背景検証を行った。その結果、やせた女性でも、ダイエット経験ある人とない人とでは、異なる背景が存在していることが明らかとなった。そのため、それぞれへの情報提供が異なる必要性が示唆された。

 

 

本研究の結果は、各個人に最適化されたスポーツ機会の検討や、適切な栄養摂取ができるようにするためのアプローチに役立てられる。これらに取り組むことで女性が年齢を重ねても長く健康で豊かな生活を送ることができると考えらえる。本研究の結果が、今後の低体重女性に関する研究の推進に広く役立てられることを期待される。ただし、自然に痩せているような女性も多く、すべての痩せた女性がリスクを持っているとは限らない。体型の多様性やリスクについて正しく認識できるようなエビデンスが不足しており、今後さらなる研究が必要である。

 

 

用語解説

*1.運動習慣者の定義:週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている者(国民栄養調査参照)。

*2.摂食態度調査票(EAT-26):食事障害の可能性をスクリーニングするための自己報告式尺度(診断ツールとは異なる)で、合計スコアが20点以上の場合、食事障害の可能性を示唆すると考えられ、専門家によるさらなる評価が推奨される。*3.eHealth Literacy Scale日本語版(eHealth):個々がインターネットを介した健康情報の検索、理解、評価、適切に活用する能力を測定し、得点が高いほどeHealthリテラシーが高い。

*4.Sociocultural Attitudes Towards AppearanceQuestionnaire-3短縮版(SATAQ-3 JS):個人が社会文化的な美の規範や外見に対する圧力をどの程度認識し、受け入れているかを測定し、得点が高いほど影響が高いことを示す。

*5.日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J):個々の人の性格を理解するための基本的な枠組み性格5因子(開放性・勤勉性・外向性・協調性・神経症傾向)から構成される。

*6.自尊感情尺度(Rosenberg’s Self Esteem Scale: RSES):個々の自尊心を測定するための心理学的な尺度で、得点が高いほど自尊感情が高いことを意味する。

 

引用文献

1.Garner DM, Olmsted MP, Bohr Y, Garfinkel PE. The Eating Attitudes Test: Psychometric features and clinical correlates. Psychol Med (1982) 12:871–8. doi: 10.1017/s0033291700049163

2.Gosling SD, Rentfrow PJ, Swann Jr WB. A very brief measure of the big-five personality domains. J Res Pers (2003) 37:504–28. doi: 10.1016/S0092-6566(03)00046-1.

3.Kiriike N, Nagata T, SirataK, Yamamoto N. Are young women in Japan at high risk for eating disorders?: Decreased Bmi in young females from 1960 to 1995. Psychiatry Clin Neurosci (1998) 52:279–81. doi: 10.1046/j.1440-1819.1998.00387.x.

4.National Institute of Health and Nutrition. National Health and Nutrition Survey. Japan: Section of the National Health and Nutrition Survey Tokyo (2004–2012) https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/en/eiyouchousa/

5.Norman CD, Skinner HA. Eheals: The ehealth literacy scale. J Med Internet Res (2006) 8:e27. doi: 10.2196/jmir.8.4.e27.

6.OECD. iLibrary. Health at a Glance: Asia/Pacific 2020 (2020). https://www.oecd911ilibrary.org/social-issues-migration-health/health-at-a-glance-asia-pacific-2020_1b86da10-en

7.Oshio A, Abe S, Cutrone P. Development, reliability, and validity of the Japanese version of ten item Personality Inventory (TIPI-J). Jpn J Pers (2012) 21:40–52. doi: 10.2132/personality.21.40.

8.Rosenberg M. Data from: Rosenberg Self-Esteem Scale (RSES). APA PsychTests (1965). doi: 10.1037/t01038-000.

9.Sato M, Tamura Y, Nakagata T, Someya Y, Kaga H, Yamasaki N, et al. Prevalence and features of impaired glucose tolerance in young underweight Japanese women. J Clin Endocrinol Metab (2021) 106:e2053-e62. doi: 10.1210/clinem/dgab052.

10.Thompson JK, Van Den Berg P, Roehrig M, Guarda AS, Heinberg LJ. The sociocultural attitudes towards appearance Scale‐3 (Sataq‐3): Development and validation. Int J Eat Disord (2004) 35:293–304. doi: 10.1002/eat.10257.

11.World Health Organization (WHO). The Global Health Observatory, Prevalence of underweight among adults, BMI < 18.5 (crude estimate) (%). https://www.who.int/data/gho/data/indicators/indicator-details/GHO/prevalence-of-underweight-among-adults-bmi-18-(crude-estimate)-(-)

12.Yamamiya Y, Shimai S. Development of the Socioculturalattitudestowards Appearance Questionnaire-3 Japanese Shortversion (SATAQ-3 JS) and Establishment of Itsreliabilityand Vhlidity (in Japanese). Japanese Society of Psychosomatic Medicine. doi: 10.15064/jjpm.52.1_54 (2012) 52(1):54-63.

13.Yamamoto M, Matsui Y, Yamanari Y. The structure of perceived aspects of self (in Japanese). Jpn J Educ Psychol (1982) 30:64–8. doi: 10.5926/jjep1953.30.1_64

 

教育・啓発映像

本内容で紹介しているスライドの動画は、下記のURLにアクセス、またはQRコードを読み取ることでご視聴頂けます。

 

①教材用インフォグラフィック動画(教育機関・教育実施者向け)

URL:https://youtu.be/HRgKYhiszZI

 

②啓発用インフォグラフィック動画(一般向け・教育現場)

URL:https://youtu.be/2TNoxQgiqEo

詳細▶︎https://www.juntendo.ac.jp/assets/attachmentfile/attachmentfile-file-6154.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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