血液検査結果から算出したフレイル度と、機能評価に基づくフレイル度~どちらも加齢に伴う虚弱さの評価には簡便で有用、併用はさらに有用~

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【ポイント】

・加齢に伴う虚弱さをあらわす「フレイル」の程度を評価する方法は複数あり、FIラボ*1 のような血液検査結果から算出するフレイル度や、臨床フレイルスケール(CFS:Clinical Frailty Scale)のような日常生活動作*2などの機能の評価に基づくフレイル度が存在する。

・これらの 2 つの方法はいずれも簡便で有用だが、それぞれがフレイルの異なる側面を評価しているため、臨床的転帰を予測する際には、2 つを併用することでさらに有用性が高まる。

・特に FI ラボは自動化との相性も良く、CFS と組み合わせて、入院時や健康診断時にリスクを評価する手段として利用が期待される。

【要旨】

フレイルは「加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」と定義されています。フレイルな高齢者は転倒などの健康障害を認めやすく、死亡割合も高くなります。しかし、早期に発見し適切に介入すればフレイルの一部は可逆的で予防可能であることもわかってきたため、近年注目されています。

広く使われているフレイルの評価方法として、日常生活動作などの機能評価に基づく臨床フレイルスケール(CFS: Clinical Frailty Scale)があります。また、比較的新しい方法として、血液検査結果などを用いる FI ラボも知られるようになってきました。これら 2 つのフレイル指数はそれぞれフレイルの異なる側面を評価している可能性があります。この点について、名古屋大学医学部附属病院老年内科の中嶋宏貴講師、梅垣宏行教授らの研究グループは、入院患者を登録する研究(J-HAC 研究)*3 のデータを用いて検討しました。

その結果、日常生活動作や認知機能は CFS と強い相関がある一方で、FI ラボとは弱い相関しか認められませんでした。さらに、2 つのフレイル指数同士の相関は弱く、それぞれが独立して死亡や入院期間などの臨床的な転帰と関連していました。これらの結果から、CFS と FI ラボはそれぞれフレイルの異なる側面を評価していることが示唆されました。

また、臨床的な転帰を予測する際には、CFS と FI ラボの両方を同時に用いることが有効であることもわかりました。これらのフレイル指数を併用する場合、重みづけなど複雑な計算で得た合計値を用いても、単純な平均値を用いても、性能に差はありませんでした。

CFS と FI ラボはどちらも簡単に評価できる方法であり、特に FI ラボは自動化にも向いています。これらのフレイル指数を活用することで、リスクに応じた介入が容易になる可能性があります。この研究結果は、2023 年 6 月 28 日付の「Aging Clinicaland Experimental Research」オンライン版に掲載されました。

1. 背景

フレイルは「加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」と定義されています。世界的な高齢化の進行とともに、フレイル高齢者も増えています。このようなフレイルな高齢者は転倒・骨折や入院などの健康障害を認めやすく、死亡割合も高くなります。しかし、早期に発見し適切に介入すればフレイルの一部は可逆的で予防可能であることもわかってきましたので、近年注目されています。

フレイルの評価方法は様々に提案されており、広く用いられている方法として臨床フレイルスケール(CFS: Clinical Frailty Scale)があります。これは、日常生活動作などの機能の評価に基づき、フレイル度を 1 から 9 までの 9 段階で評価する方法です(9 が最も重症)。また、比較的新しい方法として、検査結果からフレイル度を算出する FI ラボが存在します。基本的には血液検査結果を用いており、検査した項目数のうち、基準範囲外の項目がいくつあるかを計算し、0 から 1 の間の値が算出されます(値が大きいほど重度のフレイル)。

これらのフレイル指数の成り立ちを考えると、それぞれはフレイルの異なる側面を評価している可能性があります。そこで本研究グループは、名古屋大学医学部附属病院老年内科に入院する患者さんを登録する研究(J-HAC 研究)*3のデータを用いて、CFS や FIラボがどのような臨床情報と関係するのかなどを検討しました。

2. 研究成果

今回の研究では 378 名の患者さんを対象にしました。FI ラボは、一般的な血液検査23 項目を用いて算出しました。

解析の結果、CFS は日常生活動作や認知機能と強い相関があること、一方で、FI ラボはこれらの要素とは弱い相関しか認めないことが明らかになりました。また、CFS も FIラボも、老年症候群や併存疾患とは弱い相関しか見られませんでした。CFS と FI ラボの2 つのフレイル指標同士の相関は弱いものでした(相関係数 r = 0.28, p < 0.001)(図 1)。さらに、CFS と FI ラボはそれぞれ独立して、入院中の死亡や入院してから 90日以内の死亡、自宅への退院可否や入院期間などの臨床的な転帰と関連していました(例えば、入院中死亡のリスクは、CFS は 1 点あたり 1.5 倍、p = 0.017、FI ラボは 0.1点あたり 1.91 倍、p < 0.001)。これらの研究結果から、CFS と FI ラボはそれぞれフレイルの異なる側面を評価していることが示唆されました。

また、死亡や入院期間などの臨床的な転帰を予測する際には、CFS と FI ラボのうちどちらか一方を用いるよりも、両方を同時に用いるほうが性能が良いということもわかりました(図 2)。これらの 2 つのフレイル指標を同時に用いる場合、重みづけなど複雑な計算で得た合計値を用いても、単純に 2 つの指標の平均値*4 を用いても、性能に差はありませんでした(図 2)。

3. 今後の展開

CFS と FI ラボはどちらも評価が簡単であり、特に FI ラボについては仕組みさえ作れば自動化も容易です。入院時や健診などでこれらのフレイル指標を活用することで、リスクに応じた介入を行いやすくなる可能性があります。今後は CFS と FI ラボなど、複数のフレイル指標を組み合わせた研究や臨床応用の開発が進められることが期待されます。

本研究は JSPS 科研費(JP21H02826)と堀科学芸術振興財団(31-1-031)の助成を受けたものです。

4. 用語説明

*1 FI ラボ:

Frailty Index-laboratory。FI-lab と略されます。

*2 日常生活動作:

日常生活を送るために必要な動作のことです。食事、排泄、着替え、服薬管理、買い物、電話などを含みます。

*3 J-HAC 研究:

Japan Hospital Associated Complications 研究、日本入院関連合併症研究。名古屋大学、国立長寿医療研究センター、大阪大学、東京大学の 4 施設の共同研究です。入院する高齢者患者さんを登録し、入院に関連した合併症(せん妄や転倒など)について調べています。今回の研究は名古屋大学で登録された患者さんのデータだけを用いて行われました。

*4 2 つの指標の平均値:

CFS は 1 から 9、FI ラボは 0 から 1 の値をとるので、正確には FI ラボを 10 倍してから CFS と足して 2 で割っています。

5. 発表論文

掲雑誌名:

Aging Clinical and Experimental Research

論文タイトル:

Combined use of the Clinical Frailty Scale and laboratorytests in acutely hospitalized older patients

著者:

Hirotaka Nakashima, Masaaki Nagae, Hitoshi Komiya, Chisato Fujisawa,Kazuhisa Watanabe, Yosuke Yamada, Tomihiko Tajima,Shuzo Miyahara, Tomomichi Sakai, Hiroyuki Umegaki

所属:

名古屋大学医学部附属病院 老年内科

DOI:

10.1007/s40520-023-02477-w

English ver.

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Agi_230727en.pdf

詳細▶︎https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/07/post-540.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

血液検査結果から算出したフレイル度と、機能評価に基づくフレイル度~どちらも加齢に伴う虚弱さの評価には簡便で有用、併用はさらに有用~

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