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月経前症候群と月経前不快気分障害の治療に医師の性差が影響 治療の実態を明らかにすることで有効な治療法の普及に貢献

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近畿大学東洋医学研究所(大阪府大阪狭山市)所長 武田卓を中心とする日本産科婦人科学会女性ヘルスケア委員会の研究グループは、月経前症候群※1(PMS)と月経前不快気分障害※2(PMDD)の診断・治療法の選択に、医師の性別が影響していることを明らかにしました。

本研究グループは、日本の産婦人科医を対象にPMSとPMDDの診断・治療の実態調査を行っており、医師の性差といった医療と直結しない条件が治療にどのような影響をもたらすかを明らかにすることで、PMS・PMDDのより有効な治療法の普及に、新たな視点から貢献することが期待されます。

本件に関する論文が、令和5年(2023年)8月23日(水)AM0:00(日本時間)に、医学及び関連領域を対象とした総合医学雑誌"Tohoku Journal of Experimental Medicine(トウホク ジャーナル オブ エクスペリメンタル メディスン)"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】

・PMSとPMDDの診断・治療法の選択に、医師の性別が影響していることを明らかに

・「症状日誌による前向き評価」※3 を用いた診断は女性医師が、標準治療薬の一つであるSSRIを用いた治療は男性医師が、より選択することが多い

・診断・治療に関する教育の際に本研究成果をふまえることで、有効な治療法の普及に期待

【本件の背景】

PMSおよびPMDDは、月経前の不快な精神・身体症状が特徴で、女性のパフォーマンスを障害することから、女性活躍促進やフェムテック※4 の観点からも最近特に注目されている疾患です。PMSとPMDDの世界的な標準治療薬として、低用量ピルや抗うつ薬であるSSRIが知られていますが、それぞれ月経困難症とうつ病の適応薬でしかなく、日本ではPMSやPMDDへの保険適用がなく、薬を使用することに対するイメージも悪いことから、諸外国と比較して十分な治療が行われていません。

そのような状況を受け、日本産婦人科学会女性ヘルスケア委員会「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療実態調査小委員会」(小委員長:武田卓)は、令和3年度(2021年度)と令和4年度(2022年度)に産婦人科医師を対象として、PMSとPMDDの診断・治療に関する実態調査を行いました。その結果、多くの産婦人科医が、曖昧な問診に基づく診断や、EBM※5 (根拠に基づく医療)ではない薬剤選択を行っていることが明らかになりました。よりよい治療法の普及のため、現状の診断・治療に関する実態と課題をさらに把握することが求められています。

【本件の内容】

研究グループは、令和3年度(2021年度)と令和4年度(2022年度)に実施した、日本産婦人科学会女性ヘルスケア委員会「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療実態調査小委員会」による調査結果について、二次解析を行いました。この解析では、全学会員16,732人に調査協力を依頼して回答を得たうち、PMS・PMDDの診療に従事し、かつ性別を回答した1,257人(男性 619人、女性 638人)を対象としました。

その結果、女性の産婦人科医は、男性よりもPMS・PMDD患者の治療に従事する頻度が高いことがわかりました。さらに、診断・治療について医師の性別による差異を解析したところ、米国の診断基準に記載のある「症状日誌による前向き評価」を使用して診断する頻度は、女性の産婦人科医の方が高いことがわかりました。一方、治療に関しては、最も治療効果が確かであるとされるSSRIを第一選択薬とする頻度は、男性の産婦人科医の方が高いことがわかりました。

今後、産婦人科医に対してEBMに基づいた診断・治療の教育を実施する際に、本研究成果を踏まえた内容にすることによって、PMS・PMDDに対するより有効な治療法の普及が期待されます。

【論文概要】

掲載誌:

Tohoku Journal of Experimental Medicine

(インパクトファクター:2.2 @2022)

論文名:

Gender differences in premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder diagnosis and treatment among Japanese obstetricians and gynecologists: A cross-sectional study

(日本の産婦人科医における月経前症候群および月経前不快気分障害の診断と治療における性差)

著者 :

武田卓1*、吉見佳奈1、井上史1、尾臺珠美2、白土なほ子3、渡邉善4、大坪天平5、寺内公一2 *責任著者

所属 :

1 近畿大学東洋医学研究所、2 東京医科歯科大学、3 昭和大学医学部、4 東北大学医学部、5 東京女子医科大学附属足立医療センター

【研究の詳細】

調査期間:

令和3年(2021年)9月~11月

調査対象:

日本産科婦人科学会に所属する産婦人科医16,732人(回答者1,312人)

調査項目:

(1)基本属性(医師年数、性別、専門医、勤務形態、PMS・PMDD診療頻度)

(2)PMS・PMDDを産婦人科・精神科のどの診療科が担当するべきか

(3)PMS・PMDDの診断方法

(4)PMS・PMDDの薬物治療の使用薬

(5)PMS・PMDDの非薬物治療方法

(6)PMS・PMDD薬物治療の第一選択薬

(7)PMS・PMDD治療でのLEP第一選択薬

これらのうち、(1)(3)(6)(7)を利用して性差に関する二次解析を実施

 

回答者1,312人のうち実際の治療に関与しているのは1,267人で、そこから自分の性別の回答を希望しない10人を除いた1,257人(男性 619人、女性 638人)について解析しました。医師免許取得後年数、産婦人科専門医資格の有無、勤務場所で補正した多変量回帰分析※6 を行ったところ、女性産婦人科医は男性よりもPMS・PMDD患者の治療に従事する頻度が高いという結果になりました(オッズ比[OR]1.74;95%信頼区間[CI]1.36-2.21)。診断方法に関しては、男性よりも女性医師の方が「症状日誌による前向き評価」を多く選択しました(OR,2.88;95%CI,1.80-4.60)。一方、治療に関しては、第一選択薬としてSSRIを選択したのは女性の方が少ない結果となりました(OR,0.39;95%CI,0.17-0.89)。

研究グループによる先行研究の結果からは、多くの産婦人科医が、診断基準で必須の「症状日誌による前向き評価」を実施しておらず、治療に関してもガイドラインで推奨されるSSRIの使用選択率が低いという現状が明らかとなっています。このような課題があるなか、産婦人科医に対して診断・治療に関するEBMに基づいた教育を実施する際に、診断・治療法の選択における医師の性差を明らかにした本研究成果を生かすことで、より有効な治療法の普及が期待されます。

【研究者コメント】

武田卓(たけだたかし)

所属:

近畿大学東洋医学研究所

職位:

所長/教授

学位:

博士(医学)

コメント:

これまでの調査解析結果により、我が国の産婦人科における、PMS・PMDD診療の課題が明らかとなっていましたが、今回はさらに診断治療における医療者側の性差の存在を明らかにしました。疾患はEBMに基づいて治療するべきなのはいうまでもありません。したがって、本研究の結果は、医師の性差といった医療と直接関係のない要因を調査することにより、日本におけるPMS・PMDD治療の改善において、これまでとは違った側面からの貢献が期待できます。

【用語解説】

※1 月経前症候群(PMS):

月経前3~10日のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経とともに減少または消失する症状のこと。イライラ・おちこみ・不安感といった精神症状と、腹部膨満感・乳房症状といった身体症状が認められる。

※2 月経前不快気分障害(PMDD):

精神症状主体で重症型のPMS。

※3 症状日誌による前向き日誌:

PMSやPMDDの症状を毎日日誌形式で記載する方法。米国産婦人科学会やDSMの診断基準では、症状日誌の内容に関する厳密な規定はなく、スマートフォンアプリの利用やカレンダーに記載する程度の簡単なものでも問題ないとされている。

※4 フェムテック(Femtech):

Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた造語で、月経や妊娠などの女性のライフステージにおける様々な課題を解決する商品やサービスのこと。

※5 EBM:

evidence-based medicineの略で、最良の「根拠」を思慮深く活用する医療のことを指し、患者にとってより良い医療を目指そうとするもの。

※6 多変量回帰分析:

ある結果に対して、他の因子がどのくらい影響しているかを調べる統計学的方法。

詳細▶︎https://newscast.jp/news/6392947

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

月経前症候群と月経前不快気分障害の治療に医師の性差が影響 治療の実態を明らかにすることで有効な治療法の普及に貢献

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