慶應義塾大学医学部放射線科学教室の陣崎雅弘教授らの研究グループは、産学連携により開発した、世界初の全身用立位・座位 CT(以下、立位 CT)(図)の臨床第 1 号機を 2017 年に導入し(参考)、有用性を検討してきました。その結果、①検査のワークフローの改善、②完全非接触・遠隔化による感染リスク回避、③立位で症状がでる患者への診断の有用性、④運動器疾患の早期診断、⑤骨盤底筋の緩みの判定、⑥筋肉量の経時変化、⑦静脈評価などの有用性を明らかにしました。
これらの成果を踏まえ、健常者において立ったまま効率よく検査できる有用性は高く、加齢性変化の診断にも有用と考えられることから、慶應義塾大学予防医療センター(麻布台ヒルズ森 JP タワー6 階)に立位 CT を導入し、健診に活用していきます。
【図】慶應義塾大学予防医療センターに導入された立位・座位 CT 外観写真
【立位 CT について】
この立位 CT は、本研究グループが構想から基本設計、開発を主導し、慶應義塾大学病院に臨床第 1 号機として 2017 年 4 月に導入され、臨床研究を行っていたものです。その結果、寝台に寝て行う従来の臥位(仰向け)で撮影を行う CT 検査と比べて、複数の有用性があることを明らかにし、38 本の科学的英字論文に成果を発表してきました。これまでの臥位で撮影するCT はがんや動脈硬化といった器質的疾患の診断に有用でしたが、立位 CT は機能障害の診断への有用性が期待できます。超高齢社会において健康長寿が重視される中で、重要な役割を果たすと思われます。
慶應義塾大学病院の臨床第 1 号機に続いて、今年 5 月に臨床第 2 号機が藤田医科大学病院にも導入されました。このたび、この立位 CT を 11 月 6 日に麻布台ヒルズ森 JP タワー6 階に開業する「慶應義塾大学予防医療メンバーシップ」に導入します。従来の CT は靴を脱いで寝台に寝る必要がありますが、本研究グループは、健常者においてはこのようなステップは省略可能であり、立ったまま効率よく検査できることの利便性は高いと考えています。
【立位 CT の有用性について】
検査のワークフローの改善
X 線検査のように立ったまま出入りして検査ができるので、検査の総時間が従来の CTより短くて済みます。
完全非接触・遠隔化ができ、感染リスクを回避
従来の CT では新型コロナウイルス感染症パンデミック下において、寝台に寝る介助をする技師が感染するケースがありました。この CT は介助が不要なため、完成非接触・遠隔操作ができ、感染症の患者などでも医療従事者が感染するリスクがほとんどありません。
立位で症状がでる患者や異常所見が明らかになる病態の診断に有用
腰痛のように立ったときに症状がでる患者においては、立位でのみ原因を特定できることがあります。また、ヘルニア・臓器脱のように腹圧がかかることにより明らかになる病態は、立位でのみ、もしくは立位でより明らかになり、病気の重症度をより正確に診断することができます。
運動器疾患のような荷重がかかる病態の早期診断
荷重がかかる膝関節の異常は、立位のほうが早期の異常を検出しやすいことがわかりました。特に立位と臥位での膝関節の回旋の程度が標準より大きいと変形性膝関節症の初期である可能性があります。
骨盤底筋の緩みの判定
骨盤底の緩みは 50 歳以上の女性の多くで見られ、尿失禁などの原因となり得ます。立位で経時的に変化を追うことで骨盤底の経年的な緩みを判定できます。
筋肉量の経時変化
近年、加齢に伴うフレイル(虚弱)の問題は多くの人にとって身近なものとなっています。筋肉の形状は、立位と臥位では若干異なります。本研究グループは躯幹(胴体部分)や臀部、大腿などの筋肉量を立位で定量化する AI を開発しており、経時的にどこの筋肉が減少していくかを明らかにすることを目指しています。
静脈学の構築
静脈は容量血管と言われ、体位によってサイズが変化します。本研究グループは、躯幹部は心臓より高い位置では立位で臥位より静脈径が縮小し、心臓より下方では増大し、部位により静脈系の変化は異なることを明らかにしました。一方で、頭蓋内の静脈系は立位でも臥位でも変化せず、恒常性が保たれているということを明らかにしました。静脈の機能性についてはこれまであまり研究されておらず、さらなる研究を積み重ねていきます。
【参考】
(参考)2017年5月2日プレスリリース
世界初の「全身用 320 列面検出器型の立位・座位 CT」を産学連携により開発
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2017/5/2/170502-1.pdf
詳細▶︎https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2023/9/27/28-152528/
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。