誤嚥性肺炎で入院した高齢者の退院後の生存期間中央値 は約 1 年と短く、経口摂取が困難な場合は特に短い ~残された時間をどう過ごすか話し合う際の一助に~

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研究成果のポイント

・誤嚥性肺炎で聖隷浜松病院に入院した高齢患者で、退院後の生存期間中央値は約 1 年、退院 5 年後の生存割合は 13%と予後不良であることを明らかにしました。

・退院後の生存期間の中央値は、退院時の栄養摂取手段が経口摂取では約 1 年 8 か月、経管栄養(経鼻胃管や胃瘻など)では約 9 か月、点滴では約 1 か月でした。

・死亡リスクは、男性は女性に比べて約 2.4 倍、BMI 18.5 kg/m2未満は 18.5 kg/m2以上と比べて約 2.2 倍、退院時の栄養摂取手段が経管栄養、点滴の場合は経口摂取と比べてそれぞれ約 1.7 倍、4.4 倍高いことがわかりました。

※本研究成果は、米国嚥下研究学会、欧州嚥下学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の雑誌「Dysphagia」に日本時間 2 月 23 日に公表されました。

概要

浜松医科大学 健康社会医学講座の本田優希医師(大学院生)らは、聖隷浜松病院との共同研究により、誤嚥性肺炎で聖隷浜松病院に入院した高齢患者のデータを用いて、退院後の生存期間と死亡リスクと関連する患者要因を検討しました。退院後の生存期間中央値は約 1 年、退院 5 年後の生存割合は 13%と予後不良であること、死亡リスクを高める主要な患者要因として男性、BMI 18.5 kg/m2 未満、退院時の栄養摂取手段が経管栄養・点滴であることを明らかにしました。

研究の背景

誤嚥性肺炎は、飲食物や吐物、唾液などを誤嚥(食道ではなく気道に侵入してしまうこと)することによって生じる肺炎です。誤嚥性肺炎は、加齢、脳卒中、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患、筋肉量減少などの原因による嚥下障害のある人で起こりやすい疾患です。誤嚥性肺炎は高齢者でよくみられ、令和 4 年の日本人の死因の第 6 位(全死因のうちの 3.6%)です。誤嚥性肺炎で入院した患者では、誤嚥の危険が高いため口からの食事摂取(経口摂取)が困難になり、栄養摂取手段として経鼻胃管や胃瘻などを用いた経管栄養や点滴が必要となる場合があります。経口摂取ができないことは生活場所の選択にも関わり、退院先として自宅ではなく介護施設や療養型病院が選択される場合も多くあります。経口摂取ができない場合の栄養摂取手段の選択や生活場所の選択に際して、生命予後に関する情報は重要です。

しかし、誤嚥性肺炎に罹患した患者の長期の生命予後に関する報告はほとんどなく、特に入院後に生存退院した患者の生存期間に関する研究はありませんでした。

そこで、誤嚥性肺炎で聖隷浜松病院に入院し、入院中に死亡せず生存退院した患者を対象に、退院後の生存時間および、死亡リスクに対する栄養摂取手段を含む患者要因の影響を明らかにすることを目的に本研究を行いました。

研究手法・成果

2009 年 4 月から 2014 年 9 月までの期間に聖隷浜松病院に入院した 65 歳以上の誤嚥性肺炎患者 269 名のうち入院中に死亡した 60 名(22%)を除外し、生存退院した 209 名のデータを診療録から抽出しました。

対象者の年齢中央値は 85 歳、BMI 中央値は 16.0 kg/m2、男性が 58%、入院前に寝たきりであった人が 33%、自宅で生活していた人が 69%でした。退院先は自宅が 34%、施設が 20%、亜急性期・慢性期の病院が 46%で、退院時の栄養摂取手段は経口摂取が 65%、経管栄養が 23%、点滴が 12%でした。

退院日を起点とした生存期間の中央値は 369 日(約 1 年)で、退院 5 年後の生存割合は 13%でした。退院時の栄養摂取手段別の生存期間の中央値は、経口摂取で 620 日(約 1 年 8 か月)、経管栄養で 264 日(約 9 か月)、点滴で 34 日(約 1 か月)でした。同時期の 85 歳の平均余命が男性で約 6 年、女性で約 8 年であったことと比較して、誤嚥性肺炎で入院した高齢患者の生命予後が不良であることがわかります。

 

 

死亡リスクと関連する患者要因を解析した結果、女性に比べて男性で約 2.4 倍、BMI 18.5kg/m2以上と比べて BMI 18.5 kg/m2未満で約 2.2 倍、退院時の栄養摂取手段が経口摂取の場合と比べて経管栄養で約 1.7 倍、点滴で約 4.4 倍、死亡リスクが高いことがわかりました。

今後の展開

本研究によって示された、誤嚥性肺炎で急性期病院に入院した高齢患者の退院後の生命予後が不良であることは、誤嚥性肺炎で入院を要する状態に至ったことは、それだけ体力が落ち人生の最終段階が近づいていることを示唆すると解釈されます。経口摂取が困難となった場合の予後は特に不良で、代替栄養手段によっても予後が異なることは重要な情報です。

この結果を基に、残された時間で優先したいことは何か、どこで誰と過ごしたいか、経口摂取が困難になった場合の栄養摂取手段も含めどのような医療や介護を受けたいかなど、患者、家族が話し合い意思決定をしていく一助となることが期待されます。患者のケアに従事する医療者・介護者にとっては、その意思決定の支援に役立てられることが期待されます。

また、予後情報の提供による患者や家族の意思決定の変化を調査する研究や、より大規模なデータを用いて誤嚥性肺炎患者の予後を予測する尺度を開発する研究など、将来の研究につながることが期待されます。

なお、本研究は聖隷浜松病院に入院した高齢患者のみを対象としているため、それ以外の誤嚥性肺炎患者にも広く結果を適用できるとは限らない点にご注意ください。

<発表雑誌>

Dysphagia, 2024. (DOI: 10.1007/s00455-023-10665-z)

<論文タイトル>

Extremely Poor Post-discharge Prognosis in Aspiration Pneumonia and Its Prognostic Factors: A Retrospective Cohort Study

<著者>

Yuki Hond Yoichiro Homma, Mieko Nakamura, Toshiyuki Ojima, Kazuhito Saito

<研究グループ>

本研究は、聖隷浜松病院 総合診療内科を中心に、浜松医科大学との共同研究として行われました。

詳細︎▶︎https://www.hama-med.ac.jp/mt_files/78b7c54acbc4f25db846e2b3a8efa8e2.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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