ポイント
・50歳以降のオーラルフレイルと転倒リスクの関連性に着目。
・オーラルフレイルは簡単なチェックリストで判定が可能。
・オーラルフレイル対象者に転倒注意を喚起するなどの予防介入が重要。
概要
フレイルは、加齢とともに心身のはたらきが低下した状態のことです。身体能力や運動機能が低下した状態をさす身体的フレイルや、歯の喪失や口周り、舌、のどの筋力低下により、噛む力や飲み込む力が衰えた状態であるオーラルフレイルなどがあります。これまでに、運動能力や骨格筋量の低下は、咀嚼機能の低下と関連があることが報告されていますが、オーラルフレイルと転倒リスクの関係は分かっていませんでした。
大阪公立大学 都市健康・スポーツ研究センター 横山 久代教授らの研究グループは、大阪府民におけるオーラルフレイルと転倒の関係に着目。スマートフォンアプリ「おおさか健活マイレージ アスマイル」の利用者を対象に、2020 年と 2021 年に実施した Web アンケートに 2 年連続で答えた 50 歳以上の計 7,591 名の回答結果を分析しました。その結果、身体的フレイルであること、また、フレイルについての認知度が低いことに加え、オーラルフレイルであることが、その後 1 年間の転倒に関係していることが分かりました。オーラルフレイルの人は転倒リスクが高いということを周知することで、転倒の予防や介護の取組みの強化につながると考えられます。
本研究成果は、2024 年 4 月 22 日に「Geriatrics」にオンライン掲載されました。
横山 久代教授
健康への関心が高く、日ごろから体を動かすことを心がけている方でも、「しっかりと噛め、何でも食べられる」ことに十分意識が向けられているとは限りません。研究結果が、皆さんが日常生活を振り返るきっかけになればうれしく思います。
掲載誌情報
【発表雑誌】Geriatrics
【論 文 名】Oral Frailty as a Risk Factor for Fall Incidents among Community-DwellingPeople
【著 者】Hisayo Yokoyama, Yugo Kitano
【掲載 URL】https://doi.org/10.3390/geriatrics9020054
研究の背景
転倒事故は、骨折や長期入院による体力および生活の質の低下を招きます。要介護状態にいたる主な原因の一つであり、特に高齢者にとって健康上の大きな懸念点です。少子高齢化による労働人口の減少を背景に、高齢者の労働市場への積極的な参加が今後さらに進むと考えられますが、50 歳以上の労働者において職場での転倒事故が増加しています。そのため、転倒しにくい安全な環境を整えるとともに、転倒の危険を予測し、身体機能の向上をはじめとした予防介入を適切に行うことが重要です。
これまでに全身の筋量・筋力低下とオーラルフレイルは関連することが報告されていますが、オーラルフレイルと転倒リスクとの関係は分かっていませんでした。これらが関連することが明らかになれば、オーラルフレイルの人は転倒しやすいとみなすことができ、早期に転倒予防対策を講じることができます。
研究の内容
大阪府民の健康をサポートするために開発されたアプリケーション「おおさか健活マイレージ アスマイル」の利用者に対して、2020 年 2 月と 2021 年 2 月に実施した同じ内容の Webアンケートに、2 年連続で答えた 50 歳以上の計 7,591 名(男性 3,021 名、女性 4,570 名、平均年齢 62 歳)の回答結果について分析。アンケートは、要介護状態となるおそれが強い高齢者を把握するために厚生労働省が作成した「基本チェックリスト」の 25 項目(過去 1 年間における転倒事故発生の有無を問う設問を含む)に加え、運動習慣やフレイルについての認識の有無を問いました。既報に基づき、「基本チェックリスト」の口腔機能、運動機能に関する設問のうち、既定の項目数以上に該当する者をそれぞれ、オーラルフレイル、身体的フレイルとしました。
2020 年の調査では、全体の 17%がオーラルフレイルに該当し、年齢が高いほど該当者の割合が大きいことが判明。2021 年の調査では、全体の 19%が過去 1 年間に転倒を経験したと回答しました。ロジスティック回帰分析※1 の結果、身体的フレイルがあることや、フレイルの認知度が低いことに加え、オーラルフレイルであると(オッズ比※2 1.6)が、その後 1 年間の転倒事故発生率が高いことが分かりました。本研究の結果より、簡単なチェックリストを用いたオーラルフレイルの判定により、転倒リスクが高い人を把握し、転倒予防につなげられる可能性が示されました。
今後の展開
健康診断などにおいてチェックリストを適用し、受診者に結果をフィードバックすることで、転倒防止への意識を高められることが期待できます。今後は、オーラルフレイルであると転倒しやすいというメカニズムや、オーラルフレイルを改善すると転倒リスクが減少するかなどについて、研究を続ける必要があります。
用語解説
※1 ロジスティック回帰分析:複数の因子から、ある事象が起こるか否かの確立を予測する多変量解析のひとつ。
※2 オッズ比:ある群(本研究ではオーラルフレイルがある群)における特定の事象(本研究では、その後 1 年間における転倒事故)の起こりやすさを他の群(本研究ではオーラルフレイルがない群)におけるその事象の起こりやすさと比較して示したもの。値が 1より大きいと、その事象が起こりやすいことを意味する。
詳細︎▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-11546.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。