時代の要請に応える評価法の登場
脳卒中後の上肢機能回復において、評価の重要性は年々高まっている。特に2017年の日本リハビリテーション医学会による「活動を育む医学」という新定義の採択以降、単なる機能回復に留まらない、実用的な活動の向上を目指した評価の必要性が増している。本書は、このような時代背景の中で登場した、Action Research Arm Test(ARAT)の実践的マニュアルである。
世界標準の評価法を体系的に解説
ARATは、脳卒中後の上肢機能評価における世界標準として知られているが、その実施方法や解釈については、これまで体系的な解説書が少なかった。本書は、東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座の豊富な臨床経験に基づき、この評価法を実践的に解説している。特筆すべきは、評価そのものの解説に留まらず、得られた結果をいかに臨床で活用するかまでを詳細に示している点である。
臨床実践に直結する評価の視点
著者らは、「評価のための評価」ではなく、「治療に活かすための評価」という視点を強調している。例えば、評価結果から具体的な目標設定や訓練プログラムの立案方法、さらには予後予測まで、臨床実践に直結する内容を提供している。これは、近年注目を集めている反復性経頭蓋磁気刺激療法やボツリヌス毒素療法などの革新的治療法の効果判定にも活用できる重要な視点である。
充実した視覚資料による実践的解説
本書の特徴的な価値は、その実践的な視覚資料の豊富さにある。多数の写真やイラストを用いた評価手順の解説は、読者の理解を強力に支援する。2色刷りによる視認性の高さも、実践的なマニュアルとしての完成度を高めている。評価用紙の複写は不可であり、電子版や動画解説の提供はないものの、掲載された視覚資料は実技習得の強力な助けとなるだろう。
既存評価法との関係性を明確化
また、本書はFugl-Meyer Assessment(FMA)との関係性にも言及しており、既存の評価法との使い分けや組み合わせについても実践的な示唆を提供している。これは、臨床現場での評価の選択や解釈において、貴重な指針となる。
進化するリハビリテーション医療への貢献
著者らが強調するように、リハビリテーション医療は「活動を育む医学」として進化を続けている。本書は、この新しい潮流に即した評価法の実践書として、作業療法士をはじめとするリハビリテーション専門職に大きな価値を提供するだろう。B5判84頁という実用的なサイズで、定価3,630円(税込)という価格設定も、その臨床的価値を考慮すれば十分に妥当である。
まとめ
脳卒中リハビリテーションに関わる専門職、特に上肢機能の評価と治療に携わる臨床家にとって、本書は実践的な指針として強く推奨される一冊である。
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<目次>
第1章 上肢機能評価とARAT の関係性
01 上肢機能評価とARAT の関係性 8
第2章 ARAT による上肢機能評価の実際
01 ARAT とは 18
第3章 テストの実施方法
01 サブテストA:Grasp(つかみ) 26
02 サブテストB :Grip(握り) 30
03 サブテストC:Pinch(つまみ) 38
04 サブテストD:Grossmovement(粗大運動) 38
第4章 ARAT から得られた結果を臨床へ
01 上肢運動麻痺の重症度 42
02 ARAT の予後予測 45
03 治療での活用アイデア 54
04 リハビリテーション治療の効果判定 58
第5章 ARAT 理解度チェック 64
COLUMN
何より大切な作業療法士の視点 16
ARAT の得点とともに患者の手指運動を記述して練習計画に用いよう 29
リハビリテーション療法士の卒後教育制度~慈恵医大レジデント制度~ 37
巻末付録
JASMID-S の全下位項目の予測モデルよって算出された予測確率一覧 78
評価用紙(サンプル) 80
索引 82