政府は6月6日、「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)」の原案を発表しました。医療・介護・障害福祉分野において、これまでのコストカット型経営からの明確な転換を打ち出し、「現場で働く幅広い職種の方々の賃上げ」への取り組みが示されています。
一方で、リハビリテーション分野に焦点を当てると、「自立支援・社会復帰に向けたリハビリテーションの推進に取り組む」と記載されたものの、2024年から実質的な変化はなく、新たな政策的前進が見えない状況となっています。
22年→24年の成功例:骨太方針記載が診療報酬新設につながった実績
着実に進展してきた過去3年間
リハビリテーション分野における骨太方針の記載は、着実に政策反映されてきた実績があります。
2022年:「リハビリテーション」の文言が初めて明記 2023年:「リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進を図る」と具体化 2024年診療報酬改定:「リハ・栄養・口腔連携加算」が新設(画期的な成果)
この成功例は、骨太方針への記載が実際の診療報酬制度に反映される重要な政策プロセスであることを証明しました。
2025年原案:目標達成後の「踊り場」状態
リハビリテーション記載の現状維持
2024年:「自立支援・社会復帰に資するリハビリテーションを推進する」 2025年原案:「自立支援・社会復帰に向けたリハビリテーションの推進に取り組む」
→ 文言の微調整のみで、新たな政策的方向性は示されていません
他分野との比較で見える「次の一手」の不在
同じ医療・介護分野でも、他の職種・分野では具体的な新施策が充実:
看護分野
- 「特定行為研修を修了した看護師の活用」
- 「訪問看護におけるICT活用」
介護分野
- 「介護テクノロジーの社会実装に向けた実証・導入・伴走支援」
- 「外国人を含む介護人材の確保・定着支援」
歯科分野
- 「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)」
- 「歯科衛生士・歯科技工士の離職対策を含む人材確保」
リハビリテーション分野では新たな政策展開が見えていません。
処遇改善は「幅広い職種」の枠内に留まる
医療・介護・障害福祉分野の処遇改善について**「現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」**との記載があり、PT・OT・STも対象に含まれる可能性があります。
しかし、個別職種として明記されていないため、具体的な処遇改善策は不透明です。
2026年改定に向けた課題
新たな政策課題の設定が必要
2022年→2024年の成功サイクルを継続するためには、2025年段階で次なる政策目標を明確化する必要がありましたが、それが実現されていません。
考えられる次のステップ
- デジタル技術とリハビリテーションの融合
- 地域包括ケアにおけるリハビリテーションの機能強化
- 予防的リハビリテーションの体系化
- リハビリテーション専門職の専門性に応じた評価体系
次なる前進への課題
2022年の「リハビリテーション」明記から始まり、2024年の診療報酬新設まで着実に進展してきた流れが、2025年で新たな展開を見せていない現状は、政策的な「踊り場」状態と言えます。
次なる政策的前進のためには、「理学療法士」「作業療法士」「言語聴覚士」といった個別資格の明記による専門性の明確化か、あるいは「リハビリテーション」という概念の職域横断的な拡張か—2つの方向性が考えられるかもしれません。
2026年診療報酬・介護報酬同時改定を控える中、各職能団体には2022年→2024年の成功例を踏まえた戦略的な政策提言活動が求められています。
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骨太方針2025は6月中に正式決定される予定です。